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筋肉至上異世界「マッチョルディア」  作者: 南蛇井


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筋肉モリモリの戦士へ

放課後の駅前コンビニ。

制服姿の女子高生――彩花は、友達と別れたあと、一人で自動ドアをくぐった。

「ふぅ……今日も一日疲れたー。ご褒美スイーツ、いただきますか!」

彼女はごく普通の女子高生。いや、普通すぎるくらい普通。

勉強も運動もそこそこ。唯一の情熱は「甘いもの」だけ。

体育の持久走ではいつも最後尾を走り、「ダイエットは明日から」が口癖という、ちょっとだらけた日常系女子だ。

そんな彩花の足が、自然と吸い寄せられるのはもちろんスイーツコーナー。

冷蔵ケースの中で光り輝くプリンを見つけ、思わず顔がほころぶ。

「あっ、新作プリン出てる♡ 期間限定……キャラメルナッツソース……これは買うしかない!」

制服姿のまま、両手を小さく合わせて拝むような仕草。

彼女にとって、それは部活で勝利するよりも、テストで高得点を取るよりも大事な瞬間。

このときの彩花は、まだ知らなかった。

――たった数分後、人生どころか「種族」まで変わってしまうことを。

彩花がプリンに夢中になっていたその時だった。

「……ん?」

背後の棚から、ずしん――と低い音が響いた。

地震かと思い振り返るが、店内は至って平和。レジのお兄さんはスマホをいじっているし、他のお客も気にしていない。

「気のせいかな……?」

首を傾げつつも、彩花はプリンに手を伸ばす。

屈んだその瞬間――。

ガタガタッ、と頭上の棚が震えた。

次の瞬間、何かが落ちてくる影が視界の端に――。

「え、ちょっ……あぶな――」

――ゴンッ!

「ぎゃぶっ!?」

鈍い衝撃音。彩花の頭に、ずっしり重たい何かが直撃した。

床に転がったのは、見慣れぬ銀色の巨大な缶。ラベルには金色の文字でこう書かれている。

『筋肉の王に捧ぐ 至高のホエイ(1kg)』

「……なんで……スイーツコーナーに……プロテイン……」

ツッコミを最後に、彩花の意識はぷつりと途切れた。

手に持っていたプリンだけが、ぽとりと冷蔵ケースの前に転がる。

「いったぁぁぁぁ……!」

頭を押さえてしゃがみこむ彩花。

目の前には、さっきまで見たこともない謎の缶が転がっていた。

銀色に輝くボディ、そしてやたらと神々しい金色のラベル。

そこに刻まれていた文字は――。

『筋肉の王に捧ぐ 至高のホエイ』

「なにそれ!? スイーツコーナーに置くもんじゃないでしょ!?

 プリン取ろうとしただけで、なんで私、プロテインでK.O.されんのよぉ!」

涙目で最後の全力ツッコミ。

だが返事をする者はいない。コンビニのざわめきすら、すぅっと遠ざかっていく。

「……あれ……? 音が……消えて……」

視界の端から黒が滲み、世界が急速に暗転していく。

スイーツの甘い香りも、人々の気配も、すべて闇に溶けて消えた。

そして――白い光だけが、彩花を包み込む。

どこまでも沈むような暗闇。

そこに突如、まばゆい白光が広がった。

「な、なにこれ……っ」

目を開けていられないほどの光に、彩花は両腕で顔を覆う。

しかし、その眩しさの向こうから――重厚で低い声が響いてきた。

「選ばれし者よ……」

「ひっ!? だ、誰っ!?」

「筋肉こそ……世界を救う」

「……え?」

耳を疑う言葉に、彩花の思考は停止する。

筋肉? いや、そんなワード、女子高生の私にはまったく縁がないんですけど!?

「汝の願い、力に変えよう……」

神々しい声がさらに続く。

だが、当の彩花は光に包まれながら必死に抵抗する。

「ちょ、待って待って! 力とかいらないし! 私の願いは――」

「スイーツ! スイーツが食べたいの! 筋肉じゃなくてプリン返してぇぇぇ!」

彼女の叫びは、白い光に飲み込まれ、虚しくかき消された。

白い光は、彩花の身体をまるで吸い込むように包み込んでいった。

重力に逆らえず、底なし沼に沈むような感覚――。

「う……っ……体が……重い……?」

次の瞬間、灼けつくような熱が全身を駆け巡る。

筋肉という筋肉に電流が走るように、ぎしぎしと音を立てて膨張していく。

「あれ……? なんか……体が……でかい……?」

視界が揺れ、世界が遠のいていく。

制服姿の女子高生だった自分は、光に溶けて形を失い――。

やがて意識は完全に途切れた。

そして次に彩花が目を覚ますのは、見知らぬ草原。

空は高く澄み渡り、鳥の声が響く。

だが彼女はまだ知らなかった。

その身体が、すでに――筋肉モリモリの戦士へと変貌していることを。





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