七話
久々の短期投稿……。
不定期更新にお付き合いくださっている方々、本当にありがとうございます。(ぺこり)
村人の対応は王女様と騎士に任せ、森の中で新しく転移できるようになった場所に一番近い人里はどこかを探る。レジフは木の根元に座り込み、幹に背を預けて目を閉じている。眠っているようにも見えるが、単に目を閉じているだけだ。アディスは村の子供達に懐かれている。俺達の中で一番とっつき易そうに見えるからだろう。実際、子供好きで面倒見良いしな。遠くに母親らしき人影が見えるが、魔族が恐ろしいのか寄っては来ない。
ちなみに子供が苦手なイデアとアースラは甲高い声と足音が聞こえると同時に木の上に逃げた。レジフと違って纏わりつかれるだけでもダメだもんな、あの二人。しかしイデア、いつの日かエレノアに子供が出来たらどうするんだろうか。
馬に蹴られたくはないから深く追求はせずに、結界の縁に一番近い支点がある場所を探していく。そう遠くない場所に二ヶ所見つかった。
片方はここと同規模の村だったが、もう片方は何故か荒野だった。村に駐屯しているのは魔獣族。荒野の方は魔竜族。魔竜族が暴れて村が荒野になった、とかじゃないといいんだが……。キレると一番見境なく暴れるんだよな、魔竜族って。
「レジフ。結界の支点の側に、魔竜族がいる」
「……屠って来ても?」
「あぁ。近くの村にも支点があるから、そっちも任せる」
「承知いたしました」
魔竜族、のくだりでレジフの眼差しがかなり好戦的なものになった。あー、肉食獣が舌なめずりしてる図が頭に浮かぶのはなんでだろうなぁ。レジフの足なら荒野から村までの距離は殆どないから、ついでにそっちも任せておく。
立ち上がったレジフを転移で飛ばす。一人だけなら魔法陣の展開を省略しても問題なく飛ばせるから省いたのだが、そのせいで子供達の好奇心を刺激したらしい。今度はこっちが纏わりつかれるはめになった。子供は嫌いじゃないから別にかまわないが、そろそろ親元に戻した方が良さそうだ。さっきからかなりはらはらした様子でこっちを見てる。
渋る子供達にエレノア特製の、果汁で味をつけた飴玉を渡したら素直に親元に戻って行った。子供の身体に毒になりそうな魔力は抜いておいたから、中てられる事はないだろう。ちゃんと歯を磨かないと虫歯にはなるかもしれないが。
飴貰ったの~、と子供特有の可愛らしい声でそれぞれが親に報告している。なんか驚かれてるが気にしない。まぁ魔族が飴なんて持ち歩いてるとは思わんわな、普通。
「あれはどこから出されました?陛下」
「以前試しに作った収納魔法の中」
「なるほど。確か鮮度も落ちない優れもの、でしたか」
「あぁ。……ん、レジフが支点を壊したな」
いまだに広げたままだった感覚が、結界の消滅を感じ取った。ついでにもんの凄くスッキリした顔のレジフも見えたが見なかった事にしておく。顔に出さなかっただけで同族の行動にかなり怒ってたんだな、あいつ。とりあえず、結界が消えた事でまた転移できる距離が長くなったのは良い事だ。出来るだけさくさく進みたいし。
そう考えつつ再び支点を探る。それと同時に、レジフの側にこっちへ帰還する為の魔法陣を出しておいた。レジフの魔力に反応して発動する設定にしておいたから、レジフ以外が飛んでくる事もない。
「……イデア」
「何でしょう?」
「レジフが転移範囲を広げた。次の支点の側には悪魔族がいる」
「是非飛ばしてください。愚か者共に我が一族を裏切った者の末路を骨の髄まで叩き込んで参ります」
身軽に木の上から降りてきて、フフフフフと再び大魔神の幻影が消える気迫を背負ってイデアが笑う。それでも地上と言う事に配慮してか周囲に垂れ流したりはしない。魔界と違って迂闊に垂れ流すと被害甚大だからなぁ。イデアを転移で飛ばした後、気の毒だがイデアの至近距離に生えていた為に気迫に中てられた植物は焼却しておく。毒を噴出したり瘴気の元になったり、下手すると魔物になったりするからな。
暫くするとまた転移範囲が広がった。今度は魔獣族が支点の側にいたからアディスを飛ばす。アースラはまだ木の上から降りてこない。流石に一度帰したから今日はもう来ないと思うのだが、黙っておく。
レジフが戻ってこないのが気になると言えば気になるが、魔力の波動は乱れてないから怪我とかではないようだ。残党かはぐれてた奴か、はたまた魔物を見つけて掃討でもしてるんだろう。しかし、地上の魔物は俺の影響で強くなった魔界の奴等と違って以前のままだから、魔界の魔物に慣れてるレジフには物足りないんじゃなかろうか。
とか考えてたら漸くレジフが戻ってきた。のはいいが……隠れるように後ろにへばりついてる銀色の髪の子供が一名。その子から感じる魔力は、紛れもなく魔竜であるレジフとは正反対の聖竜のもの。何でかなり険しく標高の高い山の頂上付近に住んでるはずの聖竜の、それも幼生がこんな所にいるんだ?かなり距離があるぞ、住処の山からここまでは。
「その子は?」
「同族を屠った場所の付近で見つけました。他種族と婚姻した母を追って山を出たそうです」
「……無謀な事を。母親は?」
「この幼子が言うには、大海を渡ってしまったそうです。本人は山に帰りたくないと言っていますが……どういたしましょう?」
竜族が意外と惚れっぽくて一度惚れたら一直線って言う魔王の知識は真実だったのか……頭いてぇ。いくら他種族と結婚するからって明らかにまだ庇護が必要な子供を放り出して海を渡るか?普通。「竜族の常識がわからん」と呟いたら「こいつの母の行動は非常識です」と返された。竜族の中でも非常識な行動だったらしい。置いていかれた子供は苦笑している。
「……戻らなくていいのか?」
「はい。母は、結婚を反対されて山を飛び出しました。そんな母を追いかけて山を出たんです。もう、山に帰る場所はありません」
「そうか。……事が終われば俺達は魔界に戻るが、来るか?」
「連れて帰るんですか」
「放っておく訳にもいくまい。どうする?」
屈みこんで問いかけると、驚いた顔で子供は俺を見て、レジフを見て、また俺を見た。瞳孔が縦に長い檸檬色の目が大きく見開かれている。上達すればこういう細かい所もちゃんと人間らしく化けれるようになるらしいが、幼生の頃は大抵、目を見たら判別がつく。
行くと言い切った子供の面倒はレジフに丸投げしておいた。同じ竜族だから他種族の俺達が面倒を見るより細かい所まで配慮が出来るだろう。自分は魔竜だとか子育ての経験はないとか言う苦情は聞こえないフリを貫いておく。どう見たってその子はレジフに懐いてるんだから、わざわざ引き離す必要はない。
ずっと黙殺し続けていたら諦めたらしく、溜息交じりにレジフが一度魔界に戻ると言ってきた。流石に子連れで自称魔王の所まで乗り込むわけにもいかないしな。了承して、魔王城への直通回路を開く。ちょっと見た目がアレだから怯えられてしまったが、レジフは頓着せずに聖竜の子供を小脇に抱えて飛び込んだ。悲鳴を飲み込んだような声が聞こえた気がするぞ、レジフ。
エレノアに預けて即座に戻ってくるつもりらしいレジフの為に、直通回路は閉じないでおく。その間に、村から王女様と騎士がやって来た。ほぼ同時にアースラも漸く木の上から降りてくる。
「あら、他の方々はどうされたのですか?」
「……イデアとアディスは他の村を開放に。レジフは一度戻った」
内側が色々と混ざったやばそうなマーブル模様の直通回路を示すと、途端に二人の顔が引き攣った。微妙に直視しないようにしている。やっぱり内側のマーブル模様は刺激が強すぎるらしい。今度暇な時にでも変えれるか試すとしよう。
今回は転送係な魔王様でした。優秀な部下がいるので任せまくってます。
後、何気に魔王様は甘党ですw
感想で、魔王様は魔大公をどう思ってるのか、と言うご質問を頂きました。
そのうち番外編で突撃インタビューとかしてみようと思います。
気長にお待ちくださいませ。




