十三話
やっと帰還いたしました。
十二話でおやつ作りに魔力使った魔王様ですが、素手でやると時間かかるかららしいですよw
翌日もあまりに復興に時間と手間のかかりそうな所だけ直すのを手伝った。と言うか率先して魔力フル活用で終わらせた。魔族が修繕したって証拠が残るとまずそうだから、魔力で直した場所は全部勇者の力で上書きしといたけどな。いちゃもんつける奴はそれがどれだけ些細な事でも嬉々としていちゃもんつけてくるから。勇者の力=女神様の力の欠片だから、これにいちゃもんつけれる輩はいないだろうとリーズ王女が太鼓判を押してくれた。
で、現在俺が最初に女神様に召喚された場所に転移で戻ってきたところだ。事前に王女直筆の手紙を使い魔に持たせて運ばせたからか、王様やら神官長やら数名が召喚の間入り口に待機してて、その後ろには物々しい騎士団が勢揃いしている。
「お父様!」
「おぉ、リーズ。無事で何よりだ。……その衣装は一体?」
「魔王様が、エリスアーカンジェラ様の力の欠片で作ってくださった加護付の装備です。召喚当日の衣装のままでは不便だろうと、アルマダの物まで作ってくださいました」
「なんと……」
絶句する王様達に王女はやや興奮気味の口調で、矢継ぎ早に如何に俺に世話になったかを語り始めた。恐怖の対象になる気は更々ないが、これまでの魔王の逸話を知ってるらしい面々が非常に複雑な顔をしてるぞ、王女様。
「移動も、人の身に転移魔法の連続使用はよくないからとわざわざ馬車を用意してくださって……馬車の中なのに王宮にいるような快適さでした。話し相手にとつけてくださった使い魔の方もとても洗練されていて、お茶菓子も珍しい物が多くて。魔王様、ご迷惑でなければレシピをいただけませんか?」
「……料理長に打診しよう」
「ありがとうございます」
微笑んで一礼する王女に周囲は完全に停止している。アルマダ女史ぐらいだぞ、苦笑ですんでるの。
あの小国で、エレノアを召喚する時に使った連絡用魔力球を魔界に送ると、即座に人間界の材料で作れる茶菓子のレシピがビッシリ書かれた冊子が返ってきた。準備いいな、エレノア。
王女にそのまま渡すと障りがありそうだったから、近くにいたアルマダ女史の所に浮かせて運ぶ。受け取った彼女は中身を確かめてからリーズ王女に渡していた。
「まぁ、こんなに!」
「どれも地上の材料だけで作れる物だそうだ」
「ありがとうございます!エレノア料理長にもお礼をお伝えください」
ぱらぱらと冊子を捲って笑顔を振りまく王女。可愛いんだが、そろそろ彫像になってる国王以下国民に気づいてあげた方がいいんじゃなかろうか。
「魔王様はこのまま戻られてしまうのですか?」
「……勇者の仕事は果たした。魔王が勇者に選定されたなど、前代未聞だろう」
「それは確かにそうですけれど、魔王様は女神様が選ばれた正式な勇者です。お気になさる事はないと思いますわ」
真っ直ぐな王女様は背後で王様や大臣ぽい男達が渋い顔をしているのに気付いていない。位置的に俺達にはばっちり見えるから、アースラが心底嫌そうに溜息をついた。まぁ、あれが普通の人間の反応よなぁ。
「全ての人間が王女のように容易く割り切れはしないだろう。それほどに代々の魔王の業は重い」
「ですが……」
「その気持ちだけで十分だ。勇者は責務を果たし、何処かへ去ったとでも言えばいい」
あまりに王女が食い下がりすぎると周囲を囲んでる騎士団が動きそうだったから先手を打っておく。元々、自称魔王一派を一掃する為に女神の勇者召喚を承諾しただけだから、魔族と人の垣根をなくしたいとかそんなご立派な目標はない。
と言うか、一朝一夕で垣根がなくなるぐらいなら苦労はないと思うわけだ。個人的に。
「魔王陛下、この装備は如何すればよろしいでしょうか?」
「……専用に誂えた物だ、好きにするといい」
強制的に着替えさせた礼装と騎士服を、ちょっとした細工をしてから返しておく。
視線をリーズ王女とアルマダ女史から国王の方へ移す。彼女達ほど順応力高くはないようで、国王も神官も騎士達も目に見えて怯んでくれた。別に魔王の気配も気迫も使ってないんだが……。
水晶に閉じ込めた首謀者の首を国王達の近くに落とす。
「自称魔王の首級。届けたぞ」
「た……確かに。勇者としての働きに、か、感謝する。……ほ、褒美は、望みの物を……」
「不要だ。……魔王を自称し、暴れまわる連中が不快だっただけの事」
ゆっくりと召喚陣の中央から周囲を見回す。
明らかに護衛にしては過ぎる数の物々しい騎士達が、それぞれ一歩下がる。鎧の装飾が違う騎士が何人か踏みとどまったが、動く事は無理のようだった。まぁ、ちょっと気配を乗せて一瞥したしな。
「……帰るぞ」
『はっ!』
魔王城に一瞬で帰る事も可能だが、まぁちょっとした演出って事でわざと転移の魔方陣を具現化する。
咄嗟に一歩、こっちに足を踏み出してきた王女はアルマダ女史が止めてくれた。うん、流石に魔界には連れてけないからな。
「魔王様!」
「……何だ」
「本当に、ありがとうございました」
淑やかに一礼したリーズ王女の傍らで、アルマダ女史も騎士としての最敬礼をとっていた。
ひらりと軽く手を振って答えとして、転移を発動させる。一瞬の魔力の風の後、そこは見慣れた玉座の間だった。
これにて自称魔王討伐編、終了です。
次の章もあらかたネタは出てるのでちまちま書いていこうと思います。
派生ネタが多くてどうしたもんだ、って感じですがw
まぁそれ以上に問題なのはスランプ期orz
ここまでご愛読くださった皆様、ありがとうございました!
まだまだ続きますので気長にお付き合いくださいませ。




