十話
調子のいい時にサクサク書いておくに限ります。
下り調子になると全然書けなくなるからなぁ、私orz
そしてまた魔王様が無双してますw
旗印となっている前魔王の息子が、実は人質を取られ嫌々旗印にならされていると聞いてから一時間後。
俺と魔大公四人、それにリーズ王女とアルマダ女史は薄紫の膜に包まれている城と城下町が一望できる場所にいた。王女とアルマダ女史は移動用の馬車の中にいてもらっている。ここから先は本気で何があるかわからない。ギィラスがいないのは、ついて行きたいと言うのを町の防衛に置いてきたからだ。一応結界は張ってきたが、万が一と言う事もある。
「道中で随分片付けてきたが、やはり殆ど下っ端だったか。力のある者が残っておるな」
「そのようだ。しかし、規模に比べて人間の気配が少ないな。やはり贄にされたか」
「陛下、どういたしますか?」
「結界を壊しても、恐らく即座に補強すべく準備しているだろう。先に排除する。……毒蝶の群れ、臓腑を溶かす鱗粉、害するは魔族、我が命に背く者共」
遠慮なく揮うのは女神から与えられた勇者の力ではなく、俺が継いだ魔王本来の物。こっちの方が慣れている分微調整がしやすい。
俺の言葉に反応して魔力が動く。毒を持つもの特有の美しさを持つ蝶の群れが、俺の影から次々に飛び出して城下町と城の方へ飛んでいった。程なくして、そこかしこで感じられた魔族の気配がひとつ、またひとつと消え始めた。
「光の鳥、運ぶは癒し、捕らわれ人に安寧を。……鎮魂の雨、怨念をすすぐ、鳥の軌跡、来世への導き」
人間の気配はひとつの所に集まっているから、解放すべく今度は女神様から与えられた力を魔王の力と合わせて使う。勿論、勇者の力が多めだ。じゃないと威力が半減する。流石に魔王の魔力で光の威力を出すのは骨が折れるのだ。元々闇寄りだから。
「あの……魔王様は、何をなさっていらっしゃるのですか?」
「陛下ご自身のお力を用いて愚か者に裁きを与え、同時に女神から与えられた勇者の力で結界の礎にされた人間達の魂を浄化しているのですよ」
「捕らわれている人間達の解放もな」
動かない事を不審に思ったようで、馬車の窓を開けたリーズ王女が近くのイデアに尋ねていた。わかりやすく答えているイデアの言葉をアディスが補足している。
数分もせずに、城と城下町からほぼ全ての魔族の気配が消えた。
「終わったようですね」
「そうなのですか?」
「えぇ、気配が消えました」
行くぞ、と一声かけて城下町の入り口に転移する。
馬車から降りた王女と騎士は、慣れたもので馬車を引いていた馬型の使い魔や話し相手を勤めさせていた人型の使い魔に気さくに礼を言っていた。
しかしまぁ、随分と荒れてるな。元々は綺麗な町だったっぽいのに、かなり荒廃してて見る影もない。
「小なりとは言え、とても栄えた美しい町でしたのに……魔王様、何とかなりませんか?」
「直そうと思えば直せるが、それをするのは住民の手がよかろう」
「……そうですわね。申し訳ありません、我侭を申しました」
短期間しか一緒にいなかったが、随分とこの王女様は素直だ。いくら女神が勇者として選定したとは言え魔王だと言うのに、初対面に少し怯えられたぐらいで後は普通に接してきている。騎士のアルマダ女史もそうだが、神聖王国の女性は随分と強いらしい。
所々剥げている石畳を、寂れた風情の城に向かって歩いていく。
城門の前に、人垣が出来ていた。捕らわれていた人間達だろうか。にしては、随分と表情が硬い。
「ナターシャ!」
「リーズ姉さま!?」
走り出そうとした王女はアルマダ女史に止められていた。うん、幻術とかじゃないけど、そう言う可能性もあるからな。俺としては、王女がナターシャと呼んだ少女の隣に立ってる魔族の少年が気になる所だ。
記憶違いじゃなければ、あれは前魔王の息子ヒューベル。片腕が何故かない少年姿の彼は、真っ直ぐに俺を見ている。緊張気味に見える彼を、ナターシャと呼ばれた少女だけでなく周囲の人間達も気遣っている。まるで守るように周囲に立つ人間達に何事かを告げて、ヒューベルは迷いのない足取りで俺の数歩前に来ると片膝をつき、頭を垂れた。
「……お久しぶりです、陛下」
「あぁ。……首謀者は何処にいる?」
「陛下の御前に」
「……言い直す。お前を首謀者に仕立て上げた奴は何処にいる?」
あの毒蝶は、臓腑を焼け爛れさせ、苦痛のうちに消滅するように生み出したが、ヒューベルを首謀者に仕立て上げた魔族だけは絶命しても消滅しないよう細工をしておいた。だからこそ尋ねたんだが、俺達がギィラスから事情を聞いているとは思ってない先代の忘れ形見は潔く自分だと名乗る。
聞き直したら、何故それをって顔で見上げられた。反面、ハラハラと心配そうに俺達のやり取りを見守っていた人間達からは安堵の雰囲気が伝わってくる。
「事情は魔竜族のギィラスから聞いています」
「そう、か……しかし、何故奴だけは消滅させなかったのですか?他の連中は跡形もなく消えましたが」
「陛下が神聖王国に勇者として召喚されてしまいましてね。自称魔王の首級が必要なのですよ、証拠として」
とか何とかイデアが説明している間に、レジフとアディスが見つけてきた。アディスが苦虫を噛み潰した顔をしているのは、既に事切れてるとは言えそいつが魔獣族だからだろう。
パチンと指を鳴らす。一瞬で大柄な体躯が溶けるように消え、透明な結晶に包まれた頭部だけが残った。
「リーズ王女、勇者としての仕事は果たした。自称魔王の首級だ」
「はい。確かに確認いたしました。ありがとうございます」
「報せに戻るなら転移するが」
「……我侭をお許しいただけるならば、帰還は明日……いえ、明後日まで延ばしていただけますか?」
荒れ果てた城と城下町、そこに住む友人らしい姫と人々が心配らしい。まぁ、神聖王国の連中も一日で片付くとは思ってないだろうし、何日滞在しようが戻るのは一瞬だからな。
あっさり頷くと、断られると思ってたのかリーズ王女は嬉しそうに笑った。
なんか王女って感じあんまりしないんだよな、この子。少し、俺がまだ人間だった頃、幼馴染だった年下の女の子に似てるせいもあるかもしれない。あの子の笑顔も、こんな感じだった。
さっくりと自称魔王一行討伐完了しました。
もう1~2話ぐらい後処理とかしたら討伐編は終了かなと思ってます。
次どうしよう……




