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第2話 茜さす昼

 昼の陽射しにはぎらぎらとした棘があり、その一つ一つが網膜を焼いて少々煩わしい。


 真冬の空気によって乾燥した僕の肌は常人の数倍は痛覚に敏感なので只、生きているだけでも痛んでしまう。


 今日も教室には人間界独特の薄暗い鬱屈とした雰囲気が立ち込めている。

 僕の近くで背の高い金髪の男が無遠慮な大きい声で話している。

 彼の耳には趣味の悪いピアスがぶら下がっているうえに、全体的に態度が悪くて鬱陶しい事極まりない。

 金髪の男は足を机の上に乗せて、低い声で同種の仲間達と誰かの悪口で下品に盛り上がっている。

 彼等以外の同級生も何処か鬱屈としていて、辺りを見渡せば殆どの人間の顔は醜く歪んでいた。

 そして、それぞれの会話に耳を傾ければ皆が皆、心が洗い流せない程にまで汚れている事が分かった。


 何処もかしこも汚れに汚れているせいか、教室は清らかな空気に飢えているように僕には思えた。

 汚れざるを得なかった心や冷たく痛みを催す空気が教室中に充満している。


 以前は、そういった現代社会的な瘴気から逃れる為に五感を半ば無理矢理に塞いでいたが、もう僕はそんな事はしなくても―逃げなくても大丈夫だった。


 塵溜めみたいな世界の中でも、鬱屈とした世界観に負けないような白銀に輝く宝石の欠片を見つける事ができたから…。

 淀んだ曇り空の中に微かに差し込む陽の光を見つけたから…。

 この残酷な世界でつなぎと出逢えたから…。


 機械仕掛けの少女―つなぎがいる。


 その事象があるだけで、僕は充分過ぎる程に幸せになる事が―安心する事ができた。

 殆どの日常の苦痛が、彼女が存在しているだけで消滅したので、もう教室の雰囲気くらいのものであれば逃げる必要はなかった。


 昼の陽射しが教室に差し込む。

 その尖った陽射しをつなぎの白銀の髪が吸い込んで、温かな光に変えて教室中の薄暗い闇を照らしてゆく。

 当たり前の事だが、また僕はその何とも神秘的な光景に見惚れてしまった。

 気が付けば、もう教室には鬱屈とした薄暗さと現代社会の歪な冷たさは無くなっていて、あの馬鹿な不良達も何処かへ消えていた。


 そして僕の環世界はつなぎだけの独壇場となった。


 また、彼女の真冬の青空のような瞳と眼が合った。


 すると彼女は微笑みながら、僕に軽く手を振ってくれた。


 この日の昼休みは青玉のように麗しく光るつなぎの瞳や彼女がいる事によって産まれる忘れられない絵画みたいに綺麗な景色に気を取られてしまって、昼食の菓子パンを食べる事をすっかり忘れてしまっていた。

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