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第9話 アンドロイド・ガールの独白③

 誰一人として私を人間と変わらない心を持つ存在として見てくれなかった。


 だけど、あの少年だけは私を人間と同等の心を持つ存在として受け入れてくれた。


 あの日の夜に見た涙で潤んでいた彼の情けない程に、真っ直ぐで不器用な瞳が忘れられなかった。


 彼は私を機械と認識しながらも尚、私を一つの心として認識していた。

 余りにも無垢な彼は損得勘定で事態を判断せずに、単純な慈しむ心の衝動に身を任せて、私に手を伸ばしてしまったのだ。


 きっと彼は他人の見解だけでは満足せずに、しっかりと自身の眼で物事を見て、自身の肌で場の空気を感じて、自身の心で物事の全体を感じているのだろう。

 だから彼は普通の人々よりも誰かの意見に惑わされずに、一つ一つの心の機微を繊細に感じ取る事ができる。

 一つの言葉に込められた温もりや思いといったものを感じ取る事ができる。


 だけど、その敏感過ぎる感性があるが故に、一人一人の心の痛みを受け止め切れなくなってしまって、彼の心は負の感情の濁流に飲み込まれてしまっている。


 誰もが都合の悪い事から少しは眼を背けなければ生きていけないようなこの世界を、彼は真っ直ぐに見つめ過ぎているが故に苦しんでいる。


 私は彼の苦しそうな姿を見るのは耐え切れない。

 できる事ならば彼には、こんな残酷な世界から眼を逸らして欲しい。

 できる事ならば、彼には世界の数少ない綺麗な場所だけを見ていて欲しい。


 だけど、その私の無意識の内に生まれた偽善的な願望とは裏腹な結果として、彼が21世紀の業そのものである私と向き合ってくれたから現に私の心は救われている。


 彼が私という世界の残酷性を一身に受ける存在に向き合ってくれたから、私の心は初めての温もりで満ちている。


 今なら未だ彼は私から離れて、この残酷な世界から背を向けて生きて行く事ができる。

 このままでは、余りにも優し過ぎる彼はこの世の悲しみや苦しみといったものを全てを抱えようとして押し潰されてしまう。

 今なら間に合う筈だから、できる事なら彼には不条理から逃げて欲しい。


 だけど私の表層心理上での、そういった偽善的な思いを容易く跳ね除けてしまうくらい「むすびの傍に居たい」という自分勝手な強い思いがある。


 私はやっと差し込んで来た一筋の光から離れたくない。


 君の心と繋がっていたい。


 もしも、この世界が歪な関係性を持つ私達を見逃してくれるというのなら、どうか私を彼の傍に―むすびの傍に居させて下さい。


 冷たい冬の夜空に向かって祈っていると、温かい月の光が差し込んで来た。

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