プロローグ
「愛」って何なんだろう?
だからなのか僕は「温もり」というものを探している。
僕は温かいという感覚を知らない。大抵の人間は産まれると同時に親から「愛」というものを授かっているらしい。
恐らく僕も両親から愛されてはいるのだろう。だけど僕は温もりを感じなかった。
もしかして僕の心は産まれた瞬間から氷河の氷のように凍りついていたのかもしれない。
数年程前から僕は薄々、感じ始めていた。両親の愛情表現のようなものは所詮、形式に過ぎず、その実態は空っぽだという事に…。
生物は繁栄及び維持の為に産まれる前から「愛」という呪いにかかっているのだと僕は思っている。
その呪いは生物を繁殖させ、栄えさせる為に幾つかの簡単な規則を設けた。
「誰かを愛しなければいけない」という規則。「誰かに愛して貰わなければいけない」という規則。そして…
「同種以外を愛してはいけない」という規則だ。
だけど僕は、いや僕達は逆らってしまった。
その事について僕は、今は何も後悔はしていない。
あの日、僕と彼女は自然摂理に基づいたその規則を破って、超えてはいけない壁を―越えられない筈の壁を―超えてしまったんだ。