Bullet07
《八神》と《一条》の双方の追跡するものは異なるものの辿り着く到達点は一致しているという事が知らされたソラ。
シンクの追跡する人物を炙り出すために始末した人間たちは双座アリス擁する《一条》の追跡する組織の人体実験の材料として能力を奪われた元能力者だったと知らされても始末したという結果は必要な事だったと断言しているソラは次なる目的のためにシンクとアリスに同行して移動を終えていた。
3人で話していた小屋のあった集落からそう遠くない場所にある山林の奥深くに隠されるように築かれていた謎深い外観の施設の前に立つソラとシンク、アリス。
堂々と正面から乗り込むように立つソラたちだが、立地と外観の雰囲気に反して警戒というものは備えられていないのか施設内外で彼らに対する動きは何も見られなかった。
敵であろう存在からの派手な歓迎でも期待していたのかソラは期待外れと言わんばかりのため息をつくとアリスに対して自分たちの前にある施設が何なのかの説明をさせようと話題を振った。
「おい双座アリス、確認だがここがオマエら《一条》の追い掛ける組織の研究施設なのか?」
「拷問で得た情報によればここは研究対象となった被検体の過程観察と能力を奪い取られた材料の薬物投与を主体にした実験を実行していたとされる施設だ」
「今も稼働してる可能性あるのか?」
「可能性だけで言うならあるかもな。その証拠にこの辺りの電力消費がここ最近になって急激に増えていると報告が上がってる」
「電力消費が増えてるって事は……」
「ここで何かしらの実験を行おうと設備が稼働してる可能性があるって事だな」
「……言われなくても分かるってんだよシンク。つうか、オレが聞きたいのはこの状況に関してだ。こんな隠れもせずに堂々と正面で話してて大丈夫なのかを聞きたいんだよ」
「それに関しては安心してくれていいぞ相馬ソラ。この施設は近くの集落を隠れ蓑にしている事から外側に派手な警備体制は設けていない事は確認済みだ」
「その確認ってのは?」
「単にオレが数日かけてここに赴いて周辺を調べたってだけだ」
「オマエ、仮にも当主が信頼してる臣下の1人なんだよな?んな下っ端みたいなことすんなよ……」
アリス自らが確認のため数日かけてここを訪れ外側の警備体制は皆無だと説明されたソラは《一条》という一族に仕える上層部の人間の彼が下の人間に任せればいいことを率先してなるなと憐れむような言葉を口にしてしまう。ソラの言葉を受けても上層だの下っ端等の考える余地などないのか気に留めることなくスルーして話を進めようとした。
「感知出来る規模の気配から推測可能な警備体制は見たまんまだが、数日の周辺調査から察するにセキュリティ設備は旧式の流用の可能性が考えられる」
「あん?セキュリティの年代とか最新型とかって分かるもんなのか?」
「こういう施設に使われるセキュリティシステムは常に最新式にしておかないと簡単に突破されるんだよソラ。双座アリスみたいな頭の切れる人間やソラの身近なら情報通でハッキングは児戯同然のイクトみたいな人間に対応するために常にアップデートをしておかないと命取りになる。とくにこういう研究施設内の設備は簡単に運び出せなくなってる場合が多いから外部からの侵入に対して万全の備えを施すという意味では重要な事なんだ」
「ふーん……流石、今まで何度も違法な研究施設をぶち壊してきた経験者が語る言葉は違うな」
「ただ、裏を返せば重要な要素を蔑ろにする事で中枢にあるものが巨大過ぎる可能性があるとも取れる」
「その例え、今で置き換えると中にやばいのが居るって意味合いなのか?」
「少し前まで裏社会なんて知りもしなかった学生と思えない程に冴えてきたな相馬ソラ。氷堂シンクが先に話してくれたがこの中には外を疎かにしてでも厳重にしたい何かがあると推察出来る。が、さっきも話したが電力消費が激しくなったのは最近の事だ」
「つまり、最近まで電力消費を抑えて息を殺し潜伏してたヤベェのが潜んでるか、それともオマエら《一条》の追っ掛けてる組織の逃げたやつがここに来て何か企んでるか、或いは……そいつが何かとんでもないのをここに連れて来て電力消費が激しくなったかの3択って訳か?」
「わざわざ3択にする意味は無いが……概ね合ってるから良しとしてやろう。とにかく中に入るからには警戒しろという事だ」
「そうか、よーく分かったよ」
「それで双座アリス。中に入るにはどうすればいい?」
「そこは任せておけ氷堂シンク。すぐ近くにある扉のロックをハッキングで……」
中には何かいる、その何かが何であれ危険性がある事は確かだと警戒する事を伝えられたソラ。シンクが中に入るための段取りを尋ねアリスがその手筈を説明していたその時だった。
彼らの立つ場所から少し離れた位置にある研究施設内へ入るための鉄製の扉、その扉の近くに設けられた指紋認証かカードキーによる施錠を担うとされる装置が反応し、そして何故か扉が勝手に開いてしまう。
アリスが何かした、そんな風に思ったソラは作業の速さに驚きながら彼を見ようとするがソラが視線を向けたアリスは自分では無いと伝えるように首を横に振った。
つまり……
「招かれてるって事か……中にいるヤベェやつに?」