Bullet06
双座アリス、つまりは彼の仕えている《一条》も氷堂シンクの仕えている《八神》と平行する形で今回の件について行動を起こしていると知らされるソラ。
把握していない情報があるなら手に入れたいとして話を聞こうとしたソラだったが、アリスから語られるのは含みを持たされた要領を得ない内容の話。話の核に迫った内容を聞きたいソラとしてはストレスでしかなく、ハッキリしない説明に対して舌打ちをしたソラはアリスを睨むと強く告げた。
「鬱陶しいからとっとと話せ。オレが殺したアイツらはなんだったんだ?」
「結論から言うとオマエが殺したのは元材料だった人間だ」
「……元材料?何言ってんだ?」
「順に話そう。オレたち《一条》が追跡している組織は人体実験に手を出した違法な研究組織だ。遺伝子情報の操作や法外な身体施術による強化や能力付与などを生業にしている犯罪組織だ」
「あ?オレがシンクから聞いた話だとそういうのは調査の果てに……
「組織の人間の一部は《一条》と《七瀬》の調査員にダミーの情報と調査を逃れるための生贄をあてがう事で逃げようてしていた。調査結果の記された書類の記述に不審点を見つけたカズキは捕らえた組織の人間を……半殺し手前まで拷問してその事実を吐かせたんだ」
「おい、この国は拷問禁止じゃ……
「《十家騒乱事件》の解決後で法制度が不安定だから問題ないらしい」
「いや……」
(立場とかそういうの利用して好き勝手やってるだけだよな、それ……?)
「で、オレはカズキの指示で逃げている組織の人間の追跡を任されたんだが……」
「その追跡の途中でシンクが邪魔したのか?」
「人聞きが悪いなソラ。オレは邪魔なんてしていない、《一条》が首を突っ込んできただけだ」
「似たようなもんだろ。どっちが先かってだけ、極論言うならオレはオマエらの間で板挟みにされてるって事だろ」
「あながち間違ってはいないな。で、だ相馬ソラ、オマエが殺したアイツらを材料と呼んだ理由だが、アイツらは元能力者だ」
「元能力者!?……どういう事だ、急に話進められたら理解追いつかねぇだろ」
自分が殺したのはシンクが求める《十神》の関係者に繋がる、或いはそれを炙り出すための見せしめになる末端の使い捨ての駒としか認識していなかったソラにとってアリスの話で『元能力者』と明かされた事は予想外過ぎて驚きを隠せなかった。
驚くソラ、そんなソラにアリスは詳細を語り始めた。
「オレが追跡する組織の人間……そいつらがいた組織の人体実験としてさっき能力の付与を挙げただろ?その付与される能力は研究の果てに生み出されたものでは無かったんだ」
「抜き取ったって事か……能力者の中から能力を!?」
「そうだ。カズキの拷問を受けた1人が暴露したんだが、その組織は能力を人工的に生成するよりも能力者から奪う方が効率的だと考えていたそうだ。能力を奪われた元能力者はそれを取り返すために兵士として利用され、組織は能力を奪った段階で返す気もなく使い捨てにするべく酷使するってな」
「ならオレが殺したのはその組織とやらの被害者だったって言いたいのか?」
「誤解するなよ相馬ソラ。その利用された元能力者は例外無く非合法な人体実験を受けて強くなろうとしただけでなく過去に何かしらの罪を犯し脱獄やら逃走している犯罪者がほとんどだ」
「なるほど、体制が変わる瞬間に組織に調査が入って取り返せないと思った能力を取り戻す活路が見えたって事か」
「要するにそいつらは自分の都合のために犯罪に加担したってことか。なら何の罪悪感もねぇな。気にして損した」
「もっと焦るかと思ったが……意外だったな」
「意外?何がだ?オレが殺したのは今後邪魔にしかならないやつらだったんだろ?なら何も思わねぇよ。それに、見方を変えたらそいつらはアイツが壊した《十家》の残りカスに縋ってアイツの目指す未来を邪魔しようとしてたって事だろ?なら、躊躇う理由は無い、オレはアイツの邪魔になるやつを殺すだけだ」
「……なるほど、あくまで姫神ヒロムの目指す理想のために手を汚すって考え方か。そうか、そこまで覚悟を決めてるなら何も気にしなくて良さそうだな」
「はっ、オレからしたら《一条》の人間のオマエがそんな些細な事を気にする意味が分からねぇけどな。で、シンク。オレの今後の方針は?」
アリスが《一条》の人間として追跡する組織、その組織が行っていた非人道的で最低な人体実験とその施術の闇を聞かされたソラは自分の信じる親友の目指すものの障害になるものを消すことに躊躇いなど無いと明かし、それをアリスに己の覚悟と共に聞かせたソラはシンクに次の内容を教えろと催促した。
「双座アリスが追跡する組織が過去に使用していた実験施設へ向かう。そこはおそらく今も人体実験が行われているはずだ」
「つまり、オレにそこを潰せってことか」
「そういう事だ、頼めるか?」
「今更確認するな。殺るに決まってんだろ?」
1度進んだこの茨の道を止まることなど考えていないソラ。その彼はこの時知らない。
自分の中にある覚悟、それを容易く打ち壊すだけの現実と非情が待っている事を……