Bullet04
シンクに連れられた喫茶店の奥に設けられた個室で語られる驚きの内容。
かつてヒロムが倒した男、十神アルトという人間に関係のある人間の存在を示唆する旨の言葉をシンクから伝えられたソラは驚くのは当然の事、その内容を信じられず聞き返すしかなかった。
「どういう事だ?十神アルト……いや、あの男の支配していた《十神》はもちろんの事関与していた関係者は《一条》と《七瀬》の調査で全員摘発されたんじゃないのか?」
「たしかに《十家騒乱事件》の後に十神アルトとそれを有する一族の《十神》は勿論の事、あの男の悪意の誘惑に負けた《二葉》、《三日月》、《四条》、《五樹》、《六道》、《九岳》……そして傀儡として操られていた《八神》が対象として身辺及び家宅等が調査された。その過程で多くの悪事や問題が発見され、結果として十神アルトに完全に操られ利用されていた《八神》を除く他の6つの一族は名家としての歴史に幕を下ろす事となった」
「無駄にカッコつけた言い方すんな、気持ち悪い……」
「その調査においては十神アルトが関与した可能性があるものやあの男の指示で実行された悪事……そしてあの男に加担する過程で築き上げられた不正な取引先や流通経路といったものは法的措置を取った上で完全に排除された。ここまでは把握してるか?」
「そういう政治的な話はオマエらやヒロムに任せてるつもりだから何となくでしか知らねぇけどな。で、それと十神アルトの血縁者がどうやったら結びつく?」
「いや、今回の話に名家の調査の件は関係ない。問題は《八神》の血筋の人間……八神リクトが発端となって引き起こされたある事件で浮上してきた事だ」
「リクト?ヒロムとあのバカの従兄弟が何かやらかしたのか?」
「十神アルト及び《十神》が関与していたとされる秘匿されていた計画の存在を表舞台に晒した。その計画に加担した人間と《十神》による人体実験の実行の証拠……そして、十神アルトの妹である十神シエナの存在が明らかになった」
「あの男の妹……!?」
「あぁ、驚きだろ?『シェリー』と偽名を用いて身分を隠していた。身分を隠す事で《一条》と《七瀬》の調査からも外れ、身分偽装で闇の中で人体実験を行っていた。その妹の存在の非道な研究の存在をリクトが明らかにさせたんだ」
「身分偽装……んだよ、そういう流れか」
《十家騒乱事件》という戦いの果てに得たはずの平和の裏に暗躍していた存在、それも自分たちがヒロムとともに倒した……いや、ヒロムが倒した十神アルトに妹がおり、その妹の存在を彼の従兄弟にあたる人物・八神リクトが暴いたと聞かされたソラはシンクがこれから自分に明かすであろう彼が自分を頼ろうとした理由を察してしまい、自らの思考が察したそれに頭を抱えるしか無いソラは確認をするために険しい顔でシンクに尋ねた。
「……細かくは聞かない。いや、聞いても無駄だ。要するにオマエはオレに十神アルトの妹みたいな人間を見つけて捕まえろって言いたいんだな?」
話の流れから察する事は可能だった。あえて存在の可能性とそれを実現した人間について報告するのは必ず理由がある。それを敢えて話の導入として理解の有無の確認を行うような会話をしていたのならば、という感じだ。
見つけて捕まえろ、シンクは自分にそう依頼するのだろうと読んだソラ。
だが、シンクはコーヒーを飲んだ後、ソラの確認の言葉を訂正して自らの本当に頼みたい事を告げた。
「捕まえろとは言わない。見つけたら……殺せ」
「……は!?」
拘束ではなく殺害、少年から少年に伝えられた依頼としては物騒でしかない言葉に聞き間違いを疑うソラ。だが、そんな事はなかった。
たしかに彼はソラに対して明確に『殺せ』と伝えた。何故だ?
仮に先程までの話が事実だとして、十神アルトの関係者となればそれは日本において悪事の進展を阻止するだけでなくそれを助長する輩すら一網打尽にしてしまえる有力な情報を引き出すカギとも言えるはずだ。なのに何故、彼はソラに殺害を命令したのか?
殺害を口にしたシンクの言葉についてソラが疑問に思っているとシンクは疑問を抱かせた自身の発言に関して補足した。
「殺せというのはあくまで取るに足らない末端のやつらだけだ。末端のやつらは捕まえたところで使い捨ての駒として利用されるだけで情報も何も引き出せないからな」
「……話が見えない。オマエはオレに十神アルトの関係者を捕まえさせたいのか?何をさせたいんだ?」
「オマエの能力を踏まえて言うなら……オレが目をつけてる人物を炙り出す手助けをして欲しい。その手助けとしてそいつの指示で動いている組織とそれに絡んでる末端の人間を潰してもらいたいんだ」
「炙り出す……まさか、オレを陽動に使うのか?」
「そうとも言えるな。ただ、これに関しては他のやつらよりオマエが適任なんだよ。今出した組織と末端の人間は違法取引をしている。その取引を妨害する事で取引の流れを止めたいんだ」
「下の流れを塞き止めれば上が出てくる……てわけか?」
「理解が早くて助かる。ただ、ハッキリ言ってこれは完全な汚れ仕事だ。引き受ければオマエは人殺しになる」
「なるほど……だから話だけでも聞けってか」
殺すのは主要人物ではなくそれに利用される、または率先して加担している末端の人間と組織だけ。ただ、1つ言える事として彼の依頼を引き受ければソラは間違いなく人殺しという罪を背負う事になる。それ故に彼はソラに話を聞かせたのだろう。
この話、普通ならば断るものだろう。単純な話、これは人殺しになってくれと言われているのと同義だ。
普通なら迷わず『NO』と言うだろう。この話を聞いた相馬ソラも当然、迷わずに答えた。
「……引き受けてやるよ」
「いいのか?」
「どうせ今更だ。《十家》なんてふざけた制度の中で色んな能力者を潰して意地汚い大人を消してきたんだ。血に塗れてきた身で今更躊躇うわけない。ただ、報酬は何でも用意してくれるのならそれには応じてもらう」
迷わずに答えたソラの返事は『YES』だった。
内容が内容だけに承諾してくれた事を聞き返してしまうシンクだったが、彼に聞き返されたソラは自らに断る理由が無い事を明かし、そしてソラは依頼を引き受ける代わりとして『報酬は何でも用意する』と話したシンクにその約束を守らせようと念押しした。
「もちろんだ。それで?報酬に何を望む?」
「前払いとして依頼が完遂されるまでの間、ナッツたちの保護を頼む。流石にコイツら連れ歩くわけに行かないからな」
「それは構わないがそれだけでいいのか?」
「んなわけない。オマエが目当てとしている人間を見つけて仕留めたら……あのバカを半殺しにさせろ。ヒロムを苦しめた身分で未だに当主を務めてる件はそれで認めてやる」
「……いいだろう。ただ、やるからには瀕死にはしろよ?」
「……断らねぇのかよ」
「人殺しをさせる側としてはトウマを半殺しにするだけで引き受けてくれるのなら安いものだ。任せておけ」
「なら……取引成立だ」
自らの宿す精霊の保護を前払いとし、そして依頼の達成に伴う報酬として《八神》の当主を半殺しにさせろと要求するソラ。前者はともかく後者は断られると思っていたソラだったが、彼の出した要求をシンクは受理してみせた。
こうしてソラはシンクの協力者として動く事となった。
摘み取るべき悪意の芽を刈り取るべく……深くに根を張る悪意を掘り起こすために彼は自らの手を汚す。