Bullet01
平和を願う者が100人集まれどそれは叶わない。
100人の祈りさえ1人の悪意で容易く拒絶され権力と暴力の前では祈る事すら許されず日陰に押しやられるのが当たり前になっているのが今のこの世界だ。
能力者の存在が認知され非能力者との共存を実現しているこの日本という国においても例外ではない。力を持つという事がどれほどの事を招くのか、過ちを繰り返す者はどの時代にも現れ、それは現代においても現れていた。
十神アルト、《十神》という名家として知られていた一族の現在の当主を担っていた青年であるが、その実態は世界的犯罪者組織の《世界王府》の一員として日本の政治を悪習として国の機能を破綻させていた悪意の一端であり、大元を辿れば《十神》という一族は長年に渡り日本各地で悪意の芽を拡げていた。
そして悪意の芽を拡げる《十神》を束ねる十神アルトは1から10の数字を名に持つ10の名家からなる《十家》という制度を利用して国を傀儡に変えるための悪業を重ねていた。
数ヶ月前、姫神ヒロムと彼の率いる《天獄》というチームの活躍により十神アルトの野望は彼の傀儡と化した《十家》の制度とそれに蝕まれ悪意の一端と化した数人の名家の当主と共に打ち砕かれ、日本に悪意を拡げていた元凶としての罪を背負う形で投獄される事で悪意の一端の彼の計画と野望は幕を下ろし、そしてこの戦いは《十家騒乱事件》という形で記録される事となった。
だが、それでも拡げられた悪意の芽は芽吹き人知れず開花し悪意の増幅を実行する。
法の裁きなどでは追いつかぬ程に悪意の拡大は増幅を続ける。だから……
法の下の平等で裁きを下す法の番人には不可能なやり方で終わりという裁きを下す存在が必要になる。そして、それを人はこう言う……
『汚れ役』、と。
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黒い空に数多の星と月が輝く刻……
ある地方の港湾倉庫、そこには資材置き場として管理が行われている倉庫だけでなく国内外から来る貨物船の積荷となる大型コンテナが沿岸近くに積み重ねて並べられていた。
月明かりが地上を照らすような時間帯でありながら、何やら賑やかであった。
否、賑やかなどはなかった。
騒がしかったのだ。
「クソ!!囲め!!」
「数で攻めれば落とせる!!」
「あんなガキに……殺られてたまるか!!」
銃声が怒号のように鳴り響く中で黒いスーツに身を包んだ男たちは何かを仕留めるためにコンテナの陰に隠れ連携を図りつつ機関銃に弾を装填していた。
会話の内容から仕留めようとしている獲物の包囲を試みているのだろう。
その獲物を包囲しようと考える男たちが弾丸の装填をする中、突如として爆発音が轟くとコンテナの陰に隠れている男たちの仲間と思われるスーツの男が全身に火傷を負った状態で吹き飛んで来る。
吹き飛んで来た全身火傷の男は吹き飛んだ先のコンテナに激突すると地に落ちてそのまま倒れ、倒れた全身火傷の男の悲惨な姿を目にした男たちは歯を食いしばり何かを覚悟したような面持ちとなるとコンテナの陰から勢いよく飛び出した。
コンテナから身を出した男たちは素早く機関銃を構えると引き金を引いて弾丸を乱射させ、放たれた弾丸は先程の爆発音が響いた方へと一直線に飛んでいく。
弾丸の飛んだ何かいる、それを男たちは理解している。だからこそ機関銃を乱射させている。そして、その何かは男たちの機関銃の乱射に対抗するように動きを見せ始める。
「……ぬるい」
機関銃から乱射された弾丸が飛んでいく中、突如として弾丸が向かう先が赤く光ると爆炎が燃え広がり始め、燃え広がる爆炎は弾丸を次から次に飲み込むと焼き焦がし滅してしまう。
弾丸が滅されようとも男たちは弾倉が空になるまで撃ち尽くして獲物を仕留めようと必死に乱射を続けるが、暫く撃ち続けると当然のように弾切れが引き起こされる。
獲物を仕留めたい男たちは爆炎が燃え広がり続ける中、自分たちのもとへと炎が迫り来る事を理解した上で素早く再装填を済ませようとするが迫り来る炎が視界に入っている事に加えて先程吹き飛んで来た全身火傷した男の惨状を目にしたが故の焦りからか手元がおぼつき再装填がなかなかスムーズに出来なかった。
「く、クソが!!」
「さっさとしなきゃいけねぇってのに!!」
自分たちの焦りが原因であるはずなのに苛立ちを見せる男たち。そんな男たちの焦りを加速させるかのように爆炎の中……いや、爆炎の奥から銃声が響くとその音を響かせるかのように爆炎を貫いて弾丸が数発飛んで来て男たちの機関銃を撃ち抜いてしまう。
「なっ……」
「こ、こんな事で!!」
突然飛んで来た弾丸に撃ち抜かれた機関銃、弾丸が撃ち抜いた事で穴が開いた機関銃は使用不可能なはずだが男たちは焦りが伴っているのかまだ使える可能性に賭けようとしていた。
が、男たちが冷静さを欠き機関銃をそのまま使おうとしたその矢先、弾丸に撃ち抜かれた機関銃は突然熱を帯びると発火を引き起こすと共に爆ぜ、突然の発火に加えて爆ぜた事で機関銃が使えなくなったのは勿論の事だ。だが、焦りから冷静な考えを持てず撃ち抜かれた機関銃をそのまま使おうとした男たちはそれを手にしていたが故に爆ぜた際の衝撃と爆ぜて飛散した破片で体を負傷してしまい、血を流しながら倒れてしまう。
「がぁあぁ!!」
「い、痛ぇ……!!」
負傷し流血して倒れる男たちだったが直接的に攻撃された訳では無いからか痛みに襲われながらも立ち上がる気力があるらしく、今も何とかして苦痛の中で立ち上がろうとしていた。
だが、男たちの気力など彼らの仕留めたい獲物には無縁。気力が残っているのであれば……
「鬱陶しい」
男たちの立ち上がろうとするその気力を否定するような言葉が爆炎の奥から聞こえ、爆炎の奥から声が聞こえて来た直後に爆炎の球が無数に飛来して男たちに直撃して更なる傷を刻もうと燃やし始める。
「ぁぁぁぁぁぁあ!!」
「何で……何で、何でだぁぁぁぁぁぁあ!!」
爆炎の球が直撃した事で全身火達磨になる羽目になった男たちは立ち上がるために耐えていた苦痛よりも酷い苦しみに襲われた事で悲鳴を上げ、火達磨にされた男たちは悲鳴を上げ暫くのたうち回った後、全身黒く燃えて一切動かなくなってしまう。
沈黙、苦痛の先にある苦しみ……『死』に到達した男たちは見たまんまの焼死体となってしまい、男たちが死を遂げて暫くすると鳴り響く銃声が止み静寂が広がりを見せていく。
静寂広がる中、今も尚燃え広がる爆炎の中を当たり前のように歩いてきたと思われる少年が焼死体となった男たちの前にその姿を現す。
「……こんなもんか」
顔を隠すように掛けていると思われるサングラス、万一の偽装に備えていると思われるフード付きの黒いロングコートを身に纏った反面、オレンジ色という目立つ髪色とサングラスの奥から覗き込む緋色の瞳を持った少年がため息をつくと燃え広がっていた爆炎はこれまで何も無かったように一瞬で鎮火されて消失する。
恐らくはこの少年が関与しているのだろう。そして、銃声轟いていたこの場にいるのが不自然なこの少年、彼が男たちが必死に仕留めようとしていた獲物なのは間違いない。
「数だけで大した事なかったな。まぁ、使い捨てならこんなもんか」
独り言を呟く中で落胆する少年。何か期待していたとも取れる言葉を口にした後、彼はこの場を去ろうとした。が、その時だった。
突然猛スピードで車が駆けて来ると少年の方へ向けて更なる加速を始め、100はゆうに超えているであろう速度で走行する車はその勢いで少年を轢き潰そうと迫っていた。
走行速度からして視認した今回避するにも間に合わない、と誰が見ても思う中で少年は慌てる素振りもなく、ただ鬱陶しそうに舌打ちをすると右手に炎を纏わせていく。
当たり前のようにその手に炎を纏わせる少年、その少年が右手に纏わせた炎は彼の手の中で形を得ていき、炎は次第に紅い拳銃と成って彼に構えられる。
そして……
紅い拳銃を構えた少年が引き金を引くとその銃口から炎が弾丸と成って発射され、発射された炎の弾丸はその力を荒ぶる炎が如く燃え盛るように強くなりながら迫り来る車を撃ち抜いてみせ、炎の弾丸に撃ち抜かれた車はその直後に大爆発を起こし撃沈してしまう。
爆発により撃沈した事で車の接近ほ避けられ、少年は紅い拳銃を炎に変えて消し去るとその場を去ろうと歩き始める。
歩いていく中で少年はスマートフォンを取り出し、軽く操作した後にどこかへ連絡を入れているらしく通話を始めた。
「オレだ。例のグループは潰した」
『手間をかけさせたな。1人残らず仕留めたのか?』
「滞りなく……証拠隠滅したかったのか束になって攻めて来たから順当に始末出来た。後処理は任せていいんだよな?」
『それは任せておけ。今は合流ポイントで待機しているこちらの用意した足で戻ってこい』
「了解だ」
何やら怪しさしかない通話を終えた少年はスマートフォンをコートの中へと入れると振り向く事なく静かに去ろうと進んでいく。
「……こんな事でしか役に立てねぇのかよ、オレは」
何やら悔いがあるような言葉を呟きながら闇の中へと姿を消す少年。彼は何を思い呟いたのか。
少年は……
相馬ソラは何を思いながらこの場に現れ、闇に消えたのか……
そして……
この後、彼に待ち受けるものは……