別れ
屋台の提灯が鳥籠のようだ。焼き鳥のいい匂い。誘われないぞと、頭を横にふると、足が折れて転けてしまいそうになる。上機嫌だが、土産を買おうとはしなかった。照らす街灯に緑の植木、正気のないコンクリートは、彼を挟み込む一部の風景だ。だが、彼にとっては、何も変わらない風景。彼の興味は薄れている。帰る場所は、マンションの2階。人気はない。静けさの中で、革靴の音を鳴らす行為は、背徳感に満ち溢れている。彼はまた、上機嫌になった。階段で2階に上がる。自室の鍵は、手提げの中では見つからず、彼の焦りは加速した。すぐに鍵は、ジャケットの左ポケットで見つかった。落ち着きを保つために息を深く吸い、鍵を開ける。広々としたリビングは、むしろ廊下よりも寒いようだ。4人が座れる4つの椅子が、取り囲むように、大きなテーブルに配置されている。疲労した体で伸びをするが、自然と目線は、テーブルに置かれた紙に向く。
「ごめんなさい。今までありがとうございました。」
1行で終わるその文は、僕たちの関係を断ち切るのに、十分であったようだ。鍵を見つけた時に取り戻した落ち着きは、空の果てまで飛んでいき、6年間の思いの丈に、終止符を打つように、涙の終わりは、夜明けだった。こんなに泣いたのは、いつぶりだろう。6年の間に泣いた覚えはなかった。笑う方が多かった。名残惜しそうに考えてしまうが、もう戻らないものなんだと、自分に言い聞かせる。心は納得していないようだが、僕はこれでいいんだと、下を向く。足下を照らす光は、ほんのり温かく、疲弊した心までも包み込んでくれるようだ。昨日の僕とは、何か違う。どこか成長したような、なにか落ちてしまったような。僕はそんな変化が大好きだ。
「楽しかったよ。今までありがとう。」
泣き掠れてしまったその言葉は、彼の心を一身に背負って、6年間に終止符を打った。変化を恐れない彼は、また、成長する。