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新婚生活.6

 ライマは湯船に浸かりながらほうっと息を吐いた。

 「恥ずかしい」という感情が今はどこかに消え失せている。

 ただ彼と一緒にいたくてただ彼を感じていたくて。

 でなければ自ら一緒に入浴しようなどと持ちかけるはずはない。

 理性なんて本能の前では赤子みたいなものだった。

 ぴちゃん、と、天井から湯船に落ちてきた水滴が顔にかかりライマはそれを洗い流そうとお湯を手ですくって顔を洗った。

 それからおもむろに髪を洗い、体を流していると


「ライマー?」

 不意に脱衣場の方から声がして、ライマは小さく飛び上がった。

「な、なに、ラフォー?」


――あれっ?


 ドキマギしている自分に気付いて、ライマは首をひねった。 確か恥ずかしいという気持ちがどこかにいっていた筈なのにと。

 一緒に入っても良いと思ってたはずなのにと。


 磨りガラス越しの彼はそんなことに気付かず、言葉を続ける。

「パジャマ。 持ってきてやったぞ。 ちゃんと湯冷めしないように着ろよ」

 その声はいつも通り優しく、明るく。

「はぁーい。 ありがとう」

 ライマもいつも通り明るく返す。


――あれっ?


 ライマは再び首をひねった。



++++



そんなことがあった約2時間後、佐太郎は夜の城下町をほろ酔いの上機嫌で歩いていた。

 滅多に城下町で酒を飲んだりはしない佐太郎だが、今日は特別。 お祝いがてらに一杯、ってのに一人酒では趣が足りないと思ったからだ。

 

「ふっ、ふふ~ん、ふふふぅ~~ん」


 音程の外れた鼻歌を歌いながら城下町を進んでいくと、ここにいるはずの無い者の姿が目に入り佐太郎は一気に酔いが冷めた。

 その人物は他でもないラフォラエルである。 法衣かマントのように長い布のような服を着ているが間違いない。 唖然として見ていると、路地脇から15歳くらいの少女であろうか、彼の姿を見るや顔を輝かせて駆け寄りその腕に飛びつく。 するとラフォラエルは嫌がる風でもなくそのまま少女と二人で西地区の方へ進んでいく。

 佐太郎はこっそりと後をつけた。 二人は何やら楽しげに話しながら西地区の安ホテル区画に進んでいく。 


――まさかアイツ、あの年令の奴しか興味が無いとか……?


 このあたりは治安があまり良くないので観光客も足を踏み入れないため、安普請なホテルはタダ同然で客を宿泊させていた。 そしてその中の一つのホテルに、どう見ても慣れた感じで戸惑うことなく二人は扉を開けて中に入って行った。 


――あいつ!


 佐太郎の頭に一気に血が登る。 今日、こっそり仕込んだ薬は性欲増強並びに勃起補助剤だ。 二人の間に何もないというのが勃起不全のせいであるならばなかなか相談しにくいことでもあるため、こっそりと薬を盛ったというのに。 


――元気になった途端、他の女とヤろうだなんて!


 ラフォラエルのことを信じているライマのことを考えると、いてもたってもいられないし口惜しい。

 佐太郎は拳を握りしめて後を追い、そのホテルの扉を開けた。

 するとそこにはフロントで記帳しているラフォラエルの姿があった。


「おい、てめぇっ!」


 佐太郎が怒鳴るとラフォラエルが振り向いたが、彼は驚いたり、バツが悪そうにするどころか、逆に少しふて腐れた顔で佐太郎を見た。 そして隣にいた少女に対して、「先に部屋に入ってて」と促す有様だ。

 ぎりり、と佐太郎は歯ぎしりをした。


「おい、てめぇ、……ライマは? ライマはどうした?」

「寝てますよ。 睡眠薬がよく効いたみたいでぐっすりと」

「睡眠薬?! まさか、あいつがノコノコ睡眠薬なんかを飲まされたって言うのか?」


 その事実が佐太郎には信じられなかった。 ライマといえばかなり警戒心が高く睡眠薬などで無防備な状況に陥るはずが無いからだ。


「俺が大丈夫だから飲めと言ったら、猛毒だって何も疑わずに飲みますよ」

 ラフォラエルは断言した。

「もっとも今日は睡眠薬を塗したパジャマを着てもらっただけですけどね。 普通に眠気に襲われて寝てしまったとしか思わないでしょうけど」


 あまりにも当然のように言うので佐太郎の怒りはピークに達しかけ、握った拳に力をこめたままラフォラエルのすぐ側まで近付いた。

 そしてその瞳をじっと見る。

 何を考えているか分からない目だ。

 するとラフォラエルが見つめ返したまま告げた。


「佐太郎さん。 殴るのだけは止して下さいよ。 俺には治癒魔法が効かないから、俺が怪我したらライマは必ず知ることになる。 ライマ、怒りますよ。 悲しみますよ。 そんなことはさせたくない」

「悲しむって……! じゃあお前はこんなトコで何してるってんだ!? これはライマへの裏切り以外の何でもねぇだろうが!!」


 佐太郎の拳がフロントのテーブルをごつんと叩いた。 たてつけの悪いテーブルがビリビリと震える。


「いいか!? お前がライマの好意を自分のために利用する気でもな、俺様がそんなことはさせねぇ! ここにお前がいる理由! その内容次第じゃあな、例えあいつが泣いたとしてもお前は俺が殺す!」


 殺意を含んだ荒々しい声だったが、ラフォラエルは軽くため息をついただけだった。


「ここにいるのは佐太郎さん。 あんたが俺に薬を盛ったからでしょーが」

「あの薬はライマ用にと思って処方したんだ! 決して他の女用に使わせる為じゃねぇ!」

「だから! 薬を盛るなんて妙なことされたから俺は家にいることができないんでしょ、って。 フェロモン誘発剤まで入ってたら、発散作用が無くなるまで外で時間つぶして消すしかないでしょーが」

「……お前、フェロモン誘発剤成分が入ってるって気付いたのか?」

「それが入ってなきゃずっと家にいますよ」


 ラフォラエルは記帳しかけの紙にサラサラと数品の薬品の名前を書いて佐太郎に差し出した。


「こりゃ……」

「おそらく俺に飲ませた薬の成分の予想です。 で、下に書いたのが逆の効能がある薬品。 それを処方して飲んだから精力的にはプラマイゼロむしろマイですけど、あいつに吸わせた分の香りなら風呂に入らせて洗い流すことができても俺から出てるモンを消すのには時間がかかるから」


 佐太郎は書かれた薬品と自分が処方した薬品を見比べ、わからなさそうに呟いた。


「つーことは、とにかくヤりたくねぇっつーことだな? 確かにこれじゃむしろマイナスだから他の女も抱けねぇはず……、なのに女でホテル連れってのは、どーいぅ了見なのかがわからねぇ」

「いや、抱こうと思えば抱けるというか。 ああ、勿論、ライマ限定ですってば。 だから、俺のフェロモンを吸い込んで欲情したライマに迫られたら、こっちの理性は必死なのに負けそうだから」


 そう告げて何かを思い出すラフォラエルは仄かに頬を染めてため息をついた。


「あー、抱きたい」

「……いや、抱けよ」

「そういう訳にもいかないんですよ」

「どういう訳だ?」


 全く答えの見えない展開に思いきり首を傾げながら佐太郎は尋ねた。 するとラフォラエルはしばらく考えて――


「んじゃ、協力して下さい。 ま、時間もあるし、ここじゃ何だから」

 そう告げて佐太郎の腕をひき、一緒にいた女の子が先に入った部屋へと案内した。

「こりゃあ……。 何だ?」

 その部屋の光景を見た佐太郎は目を丸くした。


 


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