新婚生活.5
その日、ラムールは帰宅すると、まず不思議そうに家の中を見回した。
――あれっ? なんか、こう……
いつもより余計に胸がドキドキした。
「おかえり。 今、ご飯にするな? それとも風呂か?」
おたまを手にしたラフォラエルが姿を現すと、ラムールは頬を染めて視線を逸らす。
「ご飯。 その前に私、とりあえず姿を戻してくる」
いつもとは違う胸の高まりに戸惑いながら、慌てて洗面所に駆け込み髪の色等をライマに戻す。 リビングに行くと夕食が既に用意されており、楽しい夕餉を――といいたいところだったが、二人ともいまいち箸が進まない。
「ごめん。 ……なんか、お腹いっぱい」
ライマは箸を置いた。
「ライマも? 俺も」
ラフォラエルも箸を置いた。
「また後で食べるかな」
そんなことを言いながら二人はテーブルの上を軽く片づけ、いつものようにソファーに座って本を読み出す。
しかしほどなくして、ライマはページをめくる手を止めた。
どうも、気が散る。
ふと顔を上げて彼を見ると、丁度彼もこちらを向いて、もっと側に来るかと言わんばかりに己の太腿を軽く叩いた。
すっと寄り添い、頭を彼の肩にもたれかけさせた。
仄かに薫る彼の香りが鼻腔を刺激する。
それは脳の奥をちりちりと刺激して、心臓から送り出される熱い血液に喉の渇きのような欲望を混ぜ込み体中に届けていった。
「ラフォー」
ライマはそう呟いたつもりだったが、気が急いて言葉にならなかったかもしれない。
身を乗り出したライマは本を読んでいる彼の手を脇に逸らして、その唇にキスをした。
「……ライマ」
そう形作った彼の口から温かい息が彼女の中に流れ込んできた。 まるで燃えるように熱いそれをもっと飲み込みたくてライマは彼の正面にまたがり、水のない砂漠で見つけた僅かな水滴が滴る蛇口に救いを求めているかのように、彼の唇と舌を求めた。
「ん、ん……」
言葉にするのももどかしく、攻める。 応えてくれる彼の動きが今まで感じたことのない未知の欲望を目覚めさせる。
とにかく突き進んでみたい。
このまま彼を包み込み呑みこんでしまいたい。
とてもよい香りのする彼の汗。
大好きな匂い。
ライマは重ねていた唇を横に逸らし彼の顎を舐めた。
うっすらと汗ばんだ男らしい首筋に唇を寄せて撫でる。
でも、もっと下にいきたい。
もっとキスしたい。
彼にキスしたい。
ライマの指がラフォラエルの服のボタンを上から順に外し始めた。
「ちょ、ラ、ライマ……」
ラフォラエルの声が聞こえるが、止まらなかった。
ボタンを外してひきしまった胸板があらわれるとライマの瞳はまるで大好物の御馳走でも見るかのようにうっとりと視線を注ぎ、そこにゆっくりと唇を当て、彼の首筋から胸元に沢山のキスをあびせる。
「ラ、ライマ、待っ……」
「イヤ。 ガマンできない」
彼の申し出を拒否してライマは愛撫に没頭する。 だが、やってもやっても、不思議な欲望はとどまることを知らず。
「すき」
泣き出しそうな声で告げて、彼にしがみつくようにキスを求めた。
体を押しつけ、きつく抱きついた。
同調するようにラフォラエルはライマの体に腕を回し求められたキスに対して激しく応えた。
顔を引き寄せ、乱暴なほど深く、我を忘れたかのように。
「すき」
「俺も好きだよ」
「大好き」
「俺もだよ」
「愛してる」
「愛してる」
何度も言葉を繰り返しながらキスをして、いったいどのくらいの時間、キスをしたのか。
ラフォラエルが押し倒したライマの唇を指を撫でながら言った。
「シャワー、浴びておいで」
ライマは潤んだ瞳で見上げた。
「ラフォーと……一緒にはいる」
その言葉にラフォラエルは微かに硬直して驚いた。
「だって、離れたくないの」
譲れないお願いとばかりにライマが甘えた声を出した。 しかしラフォラエルは優しく笑ってライマの瞼に優しくキスをすると「ちゃんと待ってるから」とあやすように告げて身を起こした。
ライマはちょっと寂しそうにしながらも素直に頷き、風呂場へと姿を消した。
それを見送ったラフォラエルは気をとりなおすかのように自分の頬を両手でパンと叩いて周囲を見回す。