新婚生活.2
あれれ、変かもと気付いたのは2週間ほど前である。
軍隊長ボルゾンと、何の話の途中だったか兵士達の私生活について憂慮する話題になり、「やりたい盛りの年頃だが結婚もしていないのだし、男女の【まぐわい】には慎重を期すべきだという固い固い軍隊長の意見に賛同したその瞬間。 そういえば彼が帰ってきてからキスより先に進んでないぞと気付いたのである。
当然、毎夜、同じベットで眠っているのだが、彼が戻ってきてすぐの頃は、彼がいてくれることが一番嬉しくて、逆に消えちゃうんじゃないかという不安の方に気を取られすぎて、そこまで考えが行き届かなかったのだ。 実際、手を繋いで寝るだけで安心して幸せだったし。
そこで一瞬、5年前と同じように彼に欲望を我慢させてしまっていたかと考えたのだが、しかし今回は5年前とは違い、彼に妙なそぶりは見受けられない。
そして「おかしいな」と思うとともに、5年前、そして夢の中で愛された時のことを思い出してしまった。
正直、あれは気持ちよくて、幸せだった。
多分、彼も気持ちが良かったはずである。
更に、男であるならば、きっとその行為をしたいはずで。
拒否もしてないし、夫婦なんだから遠慮もいらないのにと。
悶々と考えたものの――答えは出ず。
ライマは手元のラザニアを見つめた。
混ざり合ってとろけ合うソースのように、彼と絡まりあいたい、そんな欲望が小さな声をあげる。
「ライマ、どうした?」
「え? あ、ううん、別に」
「ならいいけど」
ラフォラエルはそう言うと、普通に食事を進める。 その姿はまるで何も知らない幼子のように性的なことの一切を忘れたかのようでもある。 だからその手の話を話題に出すことも躊躇われた。
夕食が終わったら二人でソファーの上で寄り添いながら互いに本を読む。 ライマは翌日の授業の用意をすることもあったし、ラフォラエルの読み物といえばやはり学術書で。
ライマは本を読むのを止めて、彼の顔に見入る。 真面目な眼差しで文字を追うその姿が胸をきゅんと締め付け、その眼差しをこちらに向けてくれないかと、その本をめくる指で私に触れてはくれないかと心が疼く。
たいてい、すぐ、ラフォラエルはそんな視線に気付いてライマを引き寄せ、唇に、頬に、指に額に、慈しむようにキスをして優しく撫でる。
でも。 足りない。
それだけじゃ、足りない。
「ん?」
ライマが彼の背後からそっと抱きつくと、ラフォラエルは一度視線を合わせてから再び本に目を移す。 左手で本を持ったまま、赤子をあやすようにゆっくりと体を前後に揺らし、右手で自らの体に巻き付けられた彼女の手に触れる。
「すき」
ライマが囁いた。
「俺も、大好き」
ラフォラエルは本を読むのを止めて向きを変え、ライマの唇をとらえた。
キスして
キスして
もっとキスして。
乞うように唇を求めると彼は返してくれる。
なのに、今日もこれ以上先には進まない。
どうしてそうなるのか。
ちょっと、わからない。