前編
俺はサムソン、異名は、「勇者殺し」だ
勇者殺しのサムソンと呼ばれているのさ。
そうとも、俺は無敵よ。
もう、15年経ったか?暴走した勇者を一騎打ちで倒した強者よ。
以来、武芸死合い5000戦勝無敗、
俺に逆らう奴はいない。何故なら、勇者殺しのサムソンだから!
こちとら、親切に分るように、
顔に墨を入れて、胴鎧。ガントレットを右手に装着して歩いている。
その姿を、吟遊詩人に、歌わせて周知させている。
サムソン武勇伝を吟遊詩人に歌わせ。勇者討伐の本を出版し、上納金でウハウハだ!
今日は、対勇者戦勝記念日だ。午後から記念式典が行われるから、俺は今から、王城に向かう。
息を吸うのも、この人ゴミの中を歩くのは面倒だ。
取巻きどもが、先触れをしてくれるぜ。
「勇者殺しのサムソン様のお通りだ!」
「異世界人をかくしていないか?」
「黒目、黒髪の者がいたら、サムソン様に引き渡せ!」
「勇者パーティの残党がいたら知らせろ!」
あの勇者大暴走から、15年、もしかして、勇者が勝手に転移してくるかもしれないからな。
さぁ~て、そろそろ、娼館の女も飽きて来たぜ。
王城に行く前に、そこらの女に相手してもらおうか。
俺たちが見回ると、女が途端にいなくなる。
まだ、家屋に侵入しての捜査権はもらっていないが・・・今日、陛下に謁見したときに言ってみよう。
勇者に備えるためと言えば、何とかなるだろう。
お、女がいるじゃないか?まるで、魔道師のような装束だが、俺には誤魔化せない。
貴族のお忍びか?
ローブで顔を隠した年の頃、15,6の娘、顔は、目元は見えないが、唇は薄い桜色・・
付き添いは、執事と、メイド見習いの少女ってことか?
ロバに引かせた荷車があるな。
お、金貨が口からのぞいている袋に、見るからに高純度の魔石・・・勇者討伐の後、理由が分らないが、魔法は使えなくなった。魔石の値段は、アクアドラゴンが、滝を登るがごとく高騰している。
宝石商に金を払いに行くって感じか?怪しい薬を買うか・・・
まあ、いいや。頂くか。
「おい、そこの娘!貴様に、勇者パーティと通じている疑いがある!速やかに荷を、ロバごと引き渡せ!」
「俺の屋敷で、取り調べをするぞ!」
「・・・・・」
お、無視か。俺を知らないなんて、とんだ田舎者だ。ここは王都だが、少しだけ地方よりも治安がいいだけの都市だ。
他の者に盗られるなら、俺がもらってやる寸法よ。
「オラ!この方は、勇者殺しのサムソン様だ!」
「貴様に、聖女のジョブ持ちの疑いがある!」
「ええい。剣聖、賢者か?ジョブ持ちだったら即、逮捕だぜ!」
へへへ、こんな奴が、勇者四職な道理がないぜ。何せ。15年前から、何故か。勇者召喚が出来なくなったからな。
おっ、女が、ローブを取ったぜ。どれ、どれ、いい女だったら、一晩取り調べ・・・・
女はローブを投げ捨てた。
顔は黒髪、黒目で、年の頃は、15,6、茶色と黒、緑のまだら保養と、同じ色彩の帽子まで被っている。ツバが前にだけついているのが、特徴だ。
日本では、自衛隊の戦闘服及び戦闘帽、戦闘靴である。
女の口角は三日月のようにあがり。
つぶやいた。
「み~~~~つけたぁ」
「異世界人だと!」
「ヒィ、勇者だと、この王都のど真ん中で?」
「「「「サムソン様!」」」」
サムソンはガントレットを見せつけながら、その少女を威圧する。
【俺は、サムソン、勇者殺しのサムソンよ!
ドメニク王陛下覚えめでたき客分武将扱い兼冒険者ギルド特別顧問兼魔道軍特別アドバイザー、そして、5000戦勝無敗のサムソンとは、俺の~~・・・グハ】
サムソンの鼻から、血が出た。
少女の拳が、炸裂したのだ。
「テメェ~~~~、名乗りを上げるときは、攻撃しちゃいけないんだぜ!」
「ええ~、だって、日が暮れちゃうよ」
【野郎ども!やっちまえ!】
☆☆☆王都裏組織フランク商会
「親分!市場で、サムソンが暴れているって報告がありやしたぜ!」
「何でも、女がカラまれているとか!」
「分った。ここにいる者、全員、ついてこい!」
「「「「ヘイ!」」」
・・・俺は、フランク、昔は、冒険者だった。そこそこ大きいクランの班長をしていたのさ。
それが、勇者御謀反事件の時、勇者討伐軍に参加しなかった。
それから、干されて、勇者派の冒険者を引き連れ、裏組織を作ったが・・・
頭が痛いぜ。サムソン、まあ、いい。サムソンに土下座をして、場を治める。
もう、何回目だ。
何回俺の頭を踏みつけたら気が済むんだ。
「おい、どけろ!どけろ。フランク親分が場をおさめに来たぜ!」
何だ。野次馬が、何も言わない。
ロバと荷車と、爺さんと、少女が二人・・・がいる。
何だと!取巻きは失神してたり、失禁をして腰を抜かしている者がいる。
サムソンは、壁に額をつけて、少女に背中を向けて、つぶやいてやがる。
戦えないアピールか?
「ヒィ、俺は、5000戦勝無敗・・サムソン、サムソンなんだ」
「ねえ。おじさん。本当は、戦ったこと。無いでしょう?」
「ケンカと戦いは違う!・・・」
少女のサムソンへの興味はなくなった。おつきの老人に問う。
「ジィ、こいつ、違うかな」
「ええ、違います。勇者ケンジ様がこいつに負けるなんてあり得ません。痛めつけて、大口をたたけないようにしては如何でしょうか?」
「ううん!いっそのこと。殺す!」
おつきの者は、止めない。
「それも、ようございます。全ては、勇者様の御心のままに」
「勇者様、提案です。血が飛び散るので、是非、このボンチョをお付け下さいなのです!お召し物が汚れます」
・・・ヒィ、黒髪、黒目、それに、おつきの者達が、「勇者」と呼んでいる。
まさか。野良で転移された勇者様か?
それとも外国から?少数民族でたまたま黒髪、黒目に生まれて、勇者と思っている・・いや、サムソンを倒したんだ。それは、違う。
勇者様だ。勇者様が帰ってきた!
なら、俺の取る方法は、これだ!
俺は、勇者の前で土下座をした。
「待ってくれ!殺すのを待ってくれ!そんな奴はほっといて、俺の客分になってくれ!」
「へえ、おじさん。邪魔をするの~~こいつの仲間?」
「グハッ」
ヤバイ、圧を感じる。サムソンの首根っこを掴んで、片手で持ち上げてやがる。
何かないか?
「俺は、元冒険者だったんだ!討伐には参加していない!話だけでも聞いてくれ!」
その時、喧噪が響いてきた。
野次馬はクモの子散らすように逃げ出す。
「ヒィ、ゴロツキ冒険者たちがやってくるよ!」
市民は冒険者を怖れるようになった。
冒険者ギルド、市場から目と鼻の先だ。