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Dear my friend  作者: 万寿実
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エピローグ

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


 静かに淡々と秋元は語った──高校時代について、吉田について。



 高校を卒業後、秋元は東京の大学へ、私は地元の大学に進学しそれぞれの人生を歩んできた。距離が離れ、頻繁に会ったり連絡をしなくなっても私と秋元の距離感は変わらなかった。いつだって私たちは吉田の存在をどこかで意識しながら、いつも通りの私たちでいた。


 卒業後も私はたまに吉田の家に遊びに行くことがあったし、すっかり吉田のお姉さんとも仲良くなって今では私とお姉さんが友達のようになっている。


 不思議だね、吉田。


 なんで友達の…好きな人のお姉さんと今こんなに仲が良いんだろうね。




「安芸の一番は吉田さんやってんな」



 静かにテレビ画面越しの秋元の言葉を聞いていた主人が呟くように私に言う。私も秋元も吉田の話は誰にもしてこなかったし、私は自分の親にも同級生──友達が高校の時に他界したことを未だに言うことはなかった。


「安芸の一番は秋元さんやと思ってた」


 どこか寂しそうに笑う主人に私は視線をそらせる。



 大学の時に出会った主人に当時告白されたとき、私は駄目なんだろうけど吉田のことが忘れられなかったし、吉田のことを考えると自分だけが前に進むのはいけないことなんじゃないかと思うところがあった。


「忘れられへん人がいます」


 そう返事をした。この先なにかの拍子に誰かと付き合うとなっても、たぶん私は吉田のことを考えてしまう。常に吉田の影が付きまとい、誰かを1番に考えることは難しい。


「忘れられへん人がおってもいいよ」


 驚くことに主人はそう言ってくれた。それから付き合って結婚して…。そんななかでも、「忘れられない人」のことを聞いてくることはなかった。




「秋元は一番の友達やけどな」



 良くも悪くも我が道をゆく秋元の明るさに励まされ、時にまぶしく感じることもある。

 そんな秋元も吉田がいなくなってから、態度に出なくてもずっと傷ついて悲しんでいる。その証拠に秋元の音は吉田と奏でたあの日の音ほど生きていない。


 たしかに上手いし誰が聞いても圧倒される楽曲を手がけているのは間違いがない。


 それでも、colorとして吉田と音楽をつくりあげていたあの日の勢いや命を感じる生き生きとした音はない。秋元の音は秋元と私からすれば、死んでしまっている。


 それでも秋元は音楽を止められないし、もがくようにギターを奏でている。秋元が吉田と同じような相棒に出会うことは今後もないのかもしれない。



「今も吉田さんが一番なん?」



 率直な主人の言葉が不思議と私の心をえぐるように突き刺さる。


 私と秋元は吉田が居なくなってからも、当たり前の日常を送った。高校生活を送って卒業し、それぞれの進む先を選んで歩き、大人になった。私たちはそれぞれに仕事を持ち、社会人となった。


 そして私は家庭を持ち、秋元は夢を叶え多くの人に感動を与えるようなアーティストになった。


 吉田のいない空白を抱えながら、それに向き合えないまま年月だけが過ぎていった。腫れ物に触れるように、私と秋元は吉田の話題をお互いに避けてきた。



 主人の言葉がそれら全てを見据えたように心に射られる。




 私は静かに立ち上がり、リビングのテレビボードの中にあった1枚のDVDを取り出す。

 これを受け取ってから一度も再生したことは無い。



「一番やった人やな」



 私と秋元がずっと先送りにしてきた、吉田のいない現実が心に重くのしかかる。吉田がこの世にいないことは分かっているし、話題を避けるようにしてきたとはいえお墓参りや吉田家に手を合わせに行くこともあった。


 今のこの現実──大事な家族がいて、仕事があって、平凡で当たり前なようなこの人生は本当に幸せだと思う。


 だからこそ、吉田のことに改めて向き合うのは怖い。蓋をしていた感情や思いが溢れてきてしまいそうで、今まで必死に守ってきた何かを失ってしまうのかもしれない恐怖がある。




 少し震える手で、あの日を映した映像をはじめてこの目に映そうと私はDVDデッキにそれを入れる。




本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


どこかの後書きでも書きましたが、白血病といっても種類や年齢など様々な要因の違いもあり、病気と治療の進行や治療過程・結果・予後は本当に人それぞれです。


今回トシはこのような結果となりましたが、今作はあくまでフィクションです。

白血病だけではなく、すべての病気で治療や療養をされている方々に個人的ではありますがエールを送りたいと思います。


少し登場人物3人について語ります。


今作主人公の安芸ですが、あまり主人公らしくない感じが私に似ています。受け身というか、流されるように生きているというか。

ただ、私なら「Dear my friend」のメッセージに多分返事は書きません……ビビりなもので。



秋元はもう私が絶対に関わることのない日向の人間ですね。クラスの中心にいて友達も多い人なんて……基本的に関わらないです(笑)

秋元は時折、普段の様子とはかけはなれた陰の部分みたいな顔を持ってます。どちらかというと、秋元にとってそちらが素の顔です。普段の明るい秋元は本人も演じているわけではないのですが、表向きの顔という感じです。


トシは私が個人的に関わりやすそうなタイプです。必要な時は適度に話し、深入りしてこない人なので人畜無害っぽい性格です。

ただ、意外とトシは頑固で譲らないとこは譲らない意志の強さはあるので、そこは個人的に尊敬します。



私個人として、この3人の関係性は良いなーと思います。

秋元とトシは信頼しあった友達。秋元と安芸は背中合わせに語り合うような友達。安芸とトシは最後にはお互い好意を持ってましたが、それまでは程よい距離感の友達。


友情と一括りに言っても様々な形や距離感があり、近ければ良いというものでもないとおもうのですが、それぞれがそれぞれにとって一番いい形を模索して築いた関係性なんだろうなと思います。



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