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Dear my friend  作者: 万寿実
第6章 coloring
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26限目 バレンタイン

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


 Dearmyfriend.

 Happy Valentine. I'm sorry I couldn't give this to you.




 *****



 吉田との別れから幾日か経過する。

 心にぽっかりと空いた空白はそのままで、いつもの日常があることが不思議に思える時もある。


 好きだった人がいなくなったというのに、学校という日常は続き、当たり前のように授業もテストもある。同級生が他界したことは私と秋元以外、教員の先生たちしか知らないから、周りの日常は何ら変わりはない。


 元々吉田の休学に関して、最初はざわつきはあったらしいが仲の良かった秋元が「知らん」を突き通したことから、同級生たちは我関せずといった空気となり忘れられるように話題に上がらなくなったようだった。


 吉田の休学のことがクラスメイトに何故話されなかったのかは分からないが、吉田はあまり目立ちたくないタイプであったし、秋元もプライバシーの高い吉田の状況を話す訳にもいなかったのかもしれない。


 まあ、単に2人が色々と面倒くさがった可能性もあるのだけど。




 そうして周りは何ら変わらない日常を送り、その中に私もいた。

 失恋騒動もあったが、私がのらりくらり交わしているので、噂好きでストレートになんでも聞いてくる遥香も何も聞かなくなっていた。


 そんななか、周りはバレンタインに盛り上がる。NIKKUのバレンタインライブもあり、周りはおおいに盛り上がる。もちろん咲希も辻本に渡すチョコをちゃんと用意していたし、周りのNIKKUファンたちもメンバーへのプレゼントをそわそわしながら手にしている姿もあった。


 咲希の誘いを断り、バレンタイン当日に私は吉田がいなくなってから一切足を向けなかった、あの場所に向かった。


 すべての始まりと出会いである、選択Bの教室へと。



 足が遠のき、今だって行くことが怖い。

 秋元がいて欲しい気もするし、いてほしくない気もするし……。よく分からない気持ちを抱えながら、そこにはあっという間にたどり着く。


 教室の前に立っていてもなんの音もせず、やっぱりそんな都合よくいないか……なんて思いながら扉を開ける。


 秋元に会いたければ、こんな賭けみたいなことをしなくても連絡ひとつ入れるだけでいいのに。



「久しぶり」



 見慣れた姿が見慣れた場所にいて、私は無意識にその姿に声をかけてしまう。


 なんの音も聞こえなかったが、秋元はいつも私が座っている席にいた。


「そんな久しぶりちゃうやろ」


 私の言葉に秋元は笑いながら、いつもの笑顔で私に言葉を返す。何もかもがいつも通りで、それが不思議と暖かいような、どこかぎこちなさを感じるような……なんだかよく分からない感覚になる。


 秋元の座っている前の席に座り、私は秋元の方を向いてカバンから取り出したものを渡す。


「あげるわ」


 綺麗にラッピングされた小さな四角い箱を差し出し、秋元は少し驚きながら受け取る。


「ありがとう」


 ラッピングには「Happy Valentine」と書かれたシールが貼ってある。


「ほんまは吉田に渡したかったんやけどな」


 少し驚きながらも躊躇うことなく包装紙を開け、中身を確認する秋元に私は呟くように本音がこぼれ落ちる。


 吉田への気持ちに気づき、後悔し、そしてこんなタイミングでバレンタインとなる。もういないのに、なんでかバレンタインチョコを買っていた。伝えるべき、渡すべき相手がいないのに……自分の行動が怖い。


 何を言うわけでもなく、秋元は箱を開けて中身のチョコを躊躇いなく口にする。良く話す秋元が特に何かを言うことなく淡々と包装紙をあけ、チョコを食べる姿に少し驚く。


「美味しい?」


 そういえば、秋元が甘いものやチョコが好きなのかさえ知らない。


「まあな、チョコって感じやな」


 ストレートに感想を言う姿に秋元らしさを感じて笑ってしまう。


「嫌いやった?」


「好きでも嫌いでもないなー。トシは甘いもん好きやったな」


 少し懐かしそうに笑みを浮かべながら秋元は優しい表情で話す。

 秋元は音楽や吉田のことを話す時はいつだって、こんなに嬉しそうに表情を変える。


 秋元は箱を指さし私にもチョコをおすそ分けし、1つもらって食べるとチョコの甘さが口いっぱいに広がる。秋元にあげたのは本命でも義理チョコや友チョコでもない。そのため行き場のない思いが入ったチョコを、私と秋元は二人で分けて食べる。



「なぁ、秋元」



 甘いチョコを感じながら、私は親愛なる友にひとつの質問をなげかける。



「なんでその机に、あのメッセージ書いてたん?」




 私をここへ、秋元へ、吉田へと繋いだ「Dear my friend.」のメッセージ。



約:ハッピーバレンタイン。これを君に渡せなくて残念だよ。


秋元の真っ直ぐなところや率直な言葉は書いていて気持ちがいいです。

秋元が安芸から受け取ったのは友チョコでも義理チョコでもなく……代理チョコになるのかな?


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