23限目 涙
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
Dear my friend.
It's the first time I've seen you cry Always strong, you never showed tears or complaints.
*****
秋元がICUの吉田の所へ連れて行ってくれた翌日から、私は毎日秋元と共に吉田の元へ通った。意識がなく管と機械にまみれた吉田の元へ行っても出来ることはなく、見ていることしか出来ないのにそれさえツラく感じてしまう。
検温と手洗いやマスク、そして最低限の時間というルールのもと吉田の病室に入ることは許された。
瞳を閉じ続ける吉田に何を言えばいいのか分からず、手を握ることすら怖かった。この場にいてもいいのか、何をしたらいいのか、何をするべきなのか……何も分からない。
でもここに来ないことを選ぶことはできなかった。
秋元も病室に入って吉田に話しかけるが、いつもの冗談を話したりするものの覇気はなかった。空元気のような秋元を見ていることもツラかった。
ツラいなんて言葉、何もしていないし、こうなるまで吉田の元に来ることさえしてこなかった私に言う権利なんてない。
限られた時間の中、吉田の元にいることしかできない。
病状は拮抗状態らしく、いつ行っても点滴や管が変わることなくついている。
そうして土日も関係なく吉田のもとに通い続け8日が過ぎたころ。
学校は変わらずあり、いつも通りの授業をいつも通り受ける。吉田がどういう状況であろうと学校はあるし、テストは来る。
午前の授業が終わり、昼休みとなっていた。お弁当を食べ終わるころ、スマホの着信のバイブが震える。
電話なんて親からさえも滅多にかかって来ないから驚くが、着信の相手の名を見て息が詰まる。
一旦廊下に出て、電話に出る。
『選択Bにおる』
秋元は静かにそれだけ言う。
それ以上何かを言う気配もなく、私はそのままの足で秋元と出会ったあの教室へと向かう。
廊下のざわめきが、不思議と遠くに聞こえる。
選択Bでは秋元がいつもの席に座っていた。私が来たことに反応する素振りもなければ、こちらを見ることすらしない。
私もいつもの席に座り、無表情の秋元のほうを向く。机の上に置かれた秋元の手に触れると驚くほど冷たく、秋元の顔を見ると感情を全て捨て去ったかのように淡々としていた。
「トシ、死んだって」
淡々とはっきりと……秋元は端的にそう言葉を口にした。あまりの冷静さとはっきりとした言葉に思わず秋元を見る。
「トシっ……!」
糸が切れたかのように秋元は嗚咽を漏らし泣く。とめどなく溢れる声と涙に、秋元のあのストレートな言葉が嘘では無いのだと、現実なのだと実感する。秋元のその吐き出される感情に、漏れ出る声に、流れゆく涙に……私は息の仕方を忘れる。
息苦しく、胸が張り裂けそうなほど痛くて、不思議と涙が流れる目は暖かい。秋元の嗚咽に紛れながらも、私の押し殺した声も教室に響き渡る。
ここに誰かが来るかもしれないとか、そんなことは考えられなかった。
吉田がこの世を去った。
その事実があまりにも大きすぎて、受け止めきれない。
もしかしたら……と頭の片隅にほんの少しの可能性と覚悟はあるつもりだった。
1ヶ月ぶりに会った吉田の病状はあまりにも重かったし、すぐに回復するようには見えなかった。
白血病や治療による影響は確実に吉田の体にダメージがあり、簡単にすんなりと治るものではないだろうと素人目にもはっきりと分かっていた。
それでも、時間をかけて良くなるのだろうと信じていたし、信じていたかった。
でも、そんな奇跡は起きなかった。
自分でも驚くほどとめどなく涙が溢れ、息をすることすらままならない。言葉にならない声ばかりが漏れ出て、息苦しく、胸が痛い。
目の前に秋元がいるのに、秋元の目の前に私がいるのに……お互いに存在を認識しながらも、お互いを気にかける余裕は私たちにはなかった。
止めたくても止まらない涙が私たちの席を濡らし、校舎のざわめきが遠くに聞こえる選択教室に私と秋元のどうしようもない感情を含んだ声が小さく響く。涙と鼻水と、しゃっくりが止まることなく続いていく。
昼休みの時間も、学校言う場所も気にしていられない。
胸が痛くて、ぽっかりと穴が空いたように空虚で、自分の心臓の鼓動が激しく感じる。
幸いにして誰も来ない2人だけの教室で、私と秋元は吉田を思って二人でただただ泣いていた。
訳:君が泣くところなんて初めて見たよ。いつも強い君は涙も弱音も見せなかった。
今回の物語でトシはこのような結果になってますが、病状や治療は人それぞれです。白血病と一括りに言っても種類や年齢、治療によっても色々違います。今は予後もかなり良くなっているそうです、血液内科は詳しくないので有識者の方いたら大目に見てください。
秋元のストレートな台詞は結構悩みました 、あまりに真っ直ぐで強すぎるし、もうちょいオブラートに包んだ方がいいかなぁと。
でも、秋元の性格や現状、感情などを考えた時にあえてあの言葉にしました。秋元自身も口に出すことで、その事実を受け入れようと藻掻いたのかもしれません。




