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Dear my friend  作者: 万寿実
第4章 colorful
21/34

16限目 準備

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

 準備


 Dear my friend.

 I'm busy with a lot of things to do. But it's so much fun I can't help it.




 *****


 季節は少しずつ冬へと近づき、寒さが身に染みてきた。朝に布団から出るのが少し億劫となり、風が冷たいと感じることもある。


 先日、吉田のお見舞いへと行った時に口から滑り落ちた「2人の音を聞きたい。」という私の言葉を秋元は笑って受け入れた。あの日それを口にしてから秋元は自分たちのバンド名を教えてくれたが、それから私たちの帰り道の無言は何も変わらなかった。


 心地よい沈黙に身も心もうずめながら、私は不思議とワクワクとそわそわした気持ちで胸が高鳴るようだった。いつもと何ら変わらない景色で、建物も、街路樹も、道路も、道行く車や人々も何も変わらないのに・・・不思議と目の前の世界がやけに、くっきりはっきりと見えるようになっていた。



 そこから数日後、何気なしに秋元の音を聞きに選択Bの教室へと行くと目的の人物は変わらず私のいつも使っている席の後ろに座っていた。


「斎藤、決まったで」


 秋元の織り成す音の世界に耳を済ませていたところ、どこか嬉しそうな秋元が口を開いた。初めて見るような表情に少し驚くが、秋元はそんなことなどお構い無しに言葉を連ねていく。


「クリスマスに病院の多目的室で俺らのライブする。まあ、トシの状態によっちゃ無理になるかもしれんねんけどな」


「⋯え?」


 突然の言葉に私は驚く。


 秋元曰く、あの日の帰りに私の発した「2人の音を聞きたい。」という言葉を吉田と共有したらしい。そして2人は何とか出来ないかとすぐに計画を立て、吉田の家族や病院の関係者に相談と直談判をしてライブの開催を決めたらしい。


 もちろん、吉田の治療や病状が1番優先するべきことであり簡単に行く話ではなかったという。ただでさえ吉田は抗がん剤治療の影響で免疫力が著しく低下することがあり、その度に面会禁止となる。吉田にとって風邪などの感染症にかかることは命に関わりかねないことであり、家族や病院側にも治療が終わってからにしたらどうかと何度も言われたという。


「俺もトシも分かってんねん、先生らやトシの親が言()ってることも。俺らもトシが白血病なったとき、治療がちゃんとできて退院したら出来たらええなって話してた」


 いつもよく話すけれど、今日の秋元はそれより言葉数が多くイキイキしているように見える。

 普段も冗談を言ったり良く笑い、そして友達も多く明るい。けれど、今みる表情や言葉遣いは⋯まるで初めて見る秋元の素の姿のようだった。こんな顔で笑って、こんな口調で話して⋯秋元はそういう人だったのかと初めて目の当たりにした気がする。


「周りに迷惑かけることも、無茶()ってることも、リスクが高いってことも分かってる。でも、俺らは今やりたいし、今やらなアカンの(ちゃ)うかって思ってんねん。

 なんの責任も取れん未成年の俺らの、ほんま単なるワガママなんやけどな」


 笑って少し悲しそうな、ツラそうな表情を浮かべ秋元は自分の手元を見る。

 秋元にも吉田にもやりたいこととか夢があって、でもそれをするには現実的には難しいところも多くて、しかもいくら「自己責任でする」と言っても私たちはまだ高校生で責任の取り方すら正しくできないかもしれない。世間的に見ればまだまだ子供で、きっと何かあれば保護者である親がその責任を被ることになるのだろう。



 それでも、秋元と吉田は自分たちの願いを通した。




「⋯私、余計なこと()うた?」


 ポツリとこぼれ落ちた私の願いを2人はすくい取って実現しようとしている。あの時あの言葉を言わなければ、2人もその周りも巻き込むこともなかった。


「まあ、俺らの周りの大人はそう思うやろな。でも、俺とトシは斎藤からそんな言葉聞けて嬉しかったで」


 屈託なく笑う秋元の目がシュッと細くなくなる。私の言葉を否定することなく現実を伝えながらも、秋元の言葉以上の感情が表情から溢れてくる。


 それから秋元は楽しそうにライブの準備について話してくれた。曲の選曲や練習をどうするのか、多目的室に入る人数や感染対策についてなど大変なことも含め生き生きと話しており、その言葉と表情に私もワクワクしてくる。


 私には話していない、もっと大変なこともあるのだろう。


 でも、始めて知った友達の一面に触れて私は不思議と温かい気持ちになる。





 秋元からライブの開催を聞いてすぐ、吉田は治療の影響でまた面会禁止になってしまった。ライブ予定日までに吉田の検査値が改善しなければ面会どころか、ライブそのものも中止になってしまう。こればかりは誰にもどうしようもできないので、私たちは祈りながら、ソワソワしながら毎日を過ごしていくしかなかった。

訳:やることが多くて忙しいよ。でも、とても楽しくて仕方がないよ。


この物語はフィクションなので、病院入院中に患者がバンドライブをするという内容になってます。病院や施設の方針や治療内容などにより、現実ではあんまりない展開だとは思っています。特にトシは急性期で抗がん剤治療してますしね……。

こんなんないわーと思いながら、物語として楽しんでください。

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