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Dear my friend  作者: 万寿実
第4章 colorful
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15限目 願い

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


 Dear my friend.

 That's a very nice idea. I'm too excited to sleep.




 *****


 秋元の落書きから吉田へと繋がり、いつのまにか日常が少し変わったまま日々は過ぎていった。吉田と再会して1ヶ月が経つかどうか、それだけしか経っていないは思えないほど今のこの状況が前から続いていたように思えてならない。



 ついこの間、修学旅行があり九州へと行っていた。修学旅行ではいつものメンバーで班を組んで、四六時中一緒にいて楽しかった。移動時間も、観光地でも、ホテルでもずっと一緒なのは少し不思議だったが、もう楽しいの一言に尽きた。


 でも、楽しい時間の中にも秋元をみると吉田のことを思い出し少し寂しい気持ちもあった。本来ならば一緒に楽しんでいたかもしれないと思うと少し複雑だった。

 修学旅行中、観光先の自由行動で秋元に会うことがあり吉田へのお土産を一緒に選んだりしていた。学校内で選択B以外で関わることが基本的にはなかったので少し新鮮だった。


 遥香と早織は秋元と1年生の頃、同じクラスだったらしく秋元と軽く話が盛り上がっていた。咲希は選択Bで私が秋元と再会する前から秋元のことは知っており、「明るくておもろい奴」という噂は聞いていたらしい。ただ、噂しか聞いたことがなく秋元本人にはあの時初めて会ったらしい。


 友達からは基本的にクラス内で交友関係を完結させている私が秋元と接点があることに驚かれ、特に遥香は興味津々に色々聞かれた。けれど、私と秋元に吉田のことを話す気はなかったので有耶無耶に話を逸らせて事なきを得た。


 吉田はクラスでもそれほど目立つ方ではなかったのか、遥香や早織の口から吉田の名前や存在が出ることはなく、少し寂しくもホッとする自分がいた。



 そうして、楽しくも少し物寂しい修学旅行は流れ去るように終わってしまった。楽しみにしていたし、実際に仲の良い友達と過ごす時間は楽しくて楽しくて仕方がなかった。けれども、そこにいたくてもいられない人のことを時々思うと、少し寂しく物足りない気持ちもあった。



 修学旅行から帰ってきて、私と秋元はいつも通り吉田のお見舞いへと行った。修学旅行へ行く前から吉田の検査結果が良くなく、面会禁止となっていた。会うことなく修学旅行へと行き、お土産を持って面会となる。行けなかった吉田に少し申し訳なさを感じるが、吉田も秋元もいつも通りだった。


 修学旅行での出来事を話し、吉田はそれを聞いて笑ってツッこんで、あまりにもいつも通りだった。それが楽しくも、やっぱりどこか後ろ髪を引かれるところがあった。



 変わらぬ時間を過ごした私と秋元は吉田の病室を後にする。慣れてしまったとはいえ、やはり違和感だらけの病院の廊下を独特の匂いと空気を感じながら歩く。


 ふと、病棟の廊下から見える景色に足を止める。


「斎藤、どうしたん?」


 共に歩く私の気配が途切れたからか、秋元が私の視線の先に気づく。今まで何度か面会には来ていたし、軽く窓の外は見てきた。けれど、私は何故か今それが気になった。


「秋元くん、斎藤さん、修学旅行やったんやってー?」


 私が口を開ける前に声がかかる。若い看護師さんが声をかけてきた。


「多田さん、久しぶりですね。トシがってたんですか?」


 多田さんはフレンドリーで良く話しかけてくれる看護師さんだった。私も何度か軽く話したことがあり印象はとてもいいし、秋元も見かけるたびに挨拶をしているのを見る。


 私にとって異質な空間の病院という場所の中で、気軽に挨拶をしたり、取り留めのないことを話したりする人がいるのは少し安心するところがある。


「吉田くんも行けたら良かったのになー。高校の修学旅行なんて、めっちゃ楽しいに決まってるのになぁ」


 どこか懐かしそうに笑いながら多田さんは話し、取り留めのない修学旅行の話を少しする。病院独特のにおいや、夕方の勤務交代のざわつきといったものから私たちだけが除外されているかのような時間が少し不思議と安心する特別感を感じる。


「多田さん、あそこって何ですか?」


 少し話をしたあと、私は先程から気になっているものを聞いてみる。病棟の廊下から見えるのは、病院の建物と1階で繋がっているもう1つの建物だった。今いる5階の病棟から見えるのは2階建て程度の高さの白い建物で、今まで見た事はあったが病院の何らかの施設や設備なのかと気に留めることはなかった。


「あー、あそこな。多目的室とか研修室とかあるとこ。多目的室は防音やからボランティアさんが演奏してくれたり、患者さん同士の集いがあったりして色々やってるとこやねん」


 私と同じ窓から外を見ながらそう説明され、病院と言えども意外と色々な催しがされているのかと思った。



 そして、なぜかひとつの考えが頭の中に自然と浮かぶ。




 多田さんはまだ仕事中のため、早めに会話を切りあげ私と秋元は慣れた足取りでエレベーターへと向かう。

 変わらず充満する匂いは異質だった。それに漂う空気、聞こえてくる音も流れる時間も私の中で病院のそれらは慣れないものだった。


 病棟帰りの、このエレベーターに乗った瞬間から私と秋元のいつもの沈黙は始まる。以前、一度秋元がその沈黙を破って自分の思いを話したことがあった。けれど、私たちはそれから帰りの沈黙を破ることはなく、変わらず黙々と共に歩き続けてきていた。



「なぁ、秋元」



 だけど、今回は私がそれを破る。

 二人でエレベーターに入り、躊躇うことなく1階を押して扉が閉まってエレベーターが動き出したタイミングで私は友達の名前を呼ぶ。


 返事をする訳でもなく秋元は静かにこちらを振り向き、少し驚きながらも冷静に私の言葉を待っている様だった。


 私は自分でも驚くほど自然と次の言葉が口から滑り落ちる。



「秋元と吉田の音楽、聞いてみたい 」



 自分の意思とは関係なく口が動いたかのように、本当に何も意図せずその言葉が紡がれた。

 教室や病室で秋元の音は何度も聞いたし、吉田との音楽を作っているのは知っていた。けれど、二人の音というものを私は聞いたことがない。


 秋元は何かを言うことも反応を示すことも無く、私の様子を伺っているかのように動かない。エレベーターはいつもと同じように順調に1階へと向かっているのに、不思議と私は時間がゆっくりと流れているかのように思えた。


 秋元のギターの音は何度も聞いたことがあったし、それが素人の私の耳でも分かるくらい常人離れしていることは一目瞭然だった。そんな秋元が相棒だと言い張る吉田と作る音楽は、一体どんなものなのだろう?


 自分の中に眠っていた思いを口にして、それ以上何を言えばいいのか分からず時間だけがすぎていく。秋元の凡人とは思えない音を言葉で表すことも、吉田との音楽に期待する気持ちとか──思うことはあるのに、それを言葉に当て嵌めることが出来ずに歯がゆくなる。


 私を見ていた秋元は視線をエレベーターの扉へと向け、初めて聞くような声色で言葉を口にした。



「color」


 呟くような秋元のその言葉が不思議とはっきりと聞こえ、なぜだか耳に残る。


「それが俺らのバンド名」



 弾むような声の秋元はこちらを向き、初めて見た静かで穏やかな笑い顔に不思議とこちらも表情が緩んでしまった。



訳:とても素敵な案だね。ワクワクし過ぎて寝れないよ。


高校の修学旅行って響きだけで、めちゃくちゃ青春って感じですね。大人になっての旅行は楽しいけど、あの時にしか感じられなかったり、楽しめないこともあった気がします。

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