13限目 彩る世界
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
Dear my friend.
It's really fun and brightens my day. But how long can it last?
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学校のテストも授業も重だるいと思いながら、私は毎日を過ごしていく。不思議と秋元と吉田と再会し、放課後を共に過ごすようになってから目の前の世界が色鮮やかになる。時にはどうしようもないことに色褪せることもあるけれど、それでも彩られた毎日が不思議と楽しい。
秋元は放課後にバイトをしていることもあり、バイトの日はそれまでの時間を選択Bでギターの練習や曲作りをして過ごしているようだった。バイト以外の日は、選択Bに来ている日もあれば吉田のお見舞いへ行ったり、クラスの友達と遊びに行くこともあるという。
聞いていれば、秋元は本当に周りに人がたくさんいるような人だった。明るく面白い秋元はクラスでも、学年の中でもそれなりに顔が知れ渡っているようだった。
たまに廊下で秋元を見かけることがあるが、常にクラスメイトや誰かが秋元とつるんでおり、私とは住む世界が違う人のように感じられた。
どちらかと言えば、目立たないタイプの吉田とは正反対であり吉田と秋元の出会いとか関係が不思議でしかない。
そんなタイプも何もかも違う私たちは、お互いの予定を確認して吉田の元に集まり放課後のような時間を過ごす。吉田の治療や体調のこともあるから、面会に行ける時もあれば無理な時もある。
吉田の面会が可能な時は病室へと行き、3人で過ごす。治療や吉田の体調によっては面会ができなかったり、直接会うことが出来ない時もある。特に薬の影響で免疫力が下がってクリーンルームに入らなければならない時は、秋元と共にテレビ電話をしたりもした。
画面越しの無機質な病室が冷たく感じられるけれど、秋元も吉田も気にした様子がない。そういう些細な2人のやり取りとか空気感に、毎回いつも敵わないと思ってしまう。2人とも私にとっては同級生で、友だちで、共に過ごす中で楽しくかけがえのない存在だと断言出来る。
でも、あの2人はもっと違う関係性なんだろう。同級生であり、友達であり・・・・・・理解者というか、なんというか。どういう言葉を当てはめたらいいか分からないけど、信頼しあってるのはよく分かる。
他愛のない雑談をだらだらと話すのが楽しくて楽しくて仕方がない。秋元と吉田がオリジナルの楽曲を作り上げていく様子を見ているのも楽しくて、思わず私も2人のバンドに入っているかのような気持ちになる。
聞けば聞くほどに秋元の音に魅せられる。背が高く、体格がしっかりしている秋元だが紡ぎ出す音はとても繊細で優しい。秋元がギターの弦を弾く度に、空気が震えて世界を彩る音が次々と生まれていく。
心や体が軽くなるほどの軽やかなテンポもあれば、深い海底に身を置くような深くて重いリズムも、思わず体が動き出してしまうようなアップテンポも・・・秋元が作り出す音はそれだけで目の前の世界と私の気持ちを変えていく。
音の存在が目に見えてしまいそうなほど、その音は今まで聞いてきた音楽たちとは別格だった。音ひとつでこれほど、気持ちと目の前の世界が変わるものを私は秋元以外で体感したことがない。
奏でる音一つでこんなにも世界を彩り、眼の前の景色を変えていく──はじめて出会った秋元の音は私を虜にしている。むしろ、どうして誰も秋元のこの音に気づかないのだろう。ひとたび人の耳に届けば、きっと秋元の紡ぎ出す音は世界を変えうる。
「トシ、お前・・・進みすぎやろ」
バンドや音楽の話で盛り上がりもするが、私達はときに学校の課題やプリントも一緒にこなす。秋元は文系、吉田は理系らしい。吉田は休学中だが学校からプリントなどをもらっており、病室で勉強しているという。
「暇やからな。俺も病院でこんなに勉強するとは思ってなかったで」
吉田の手元にある数学や英語などのプリントはすでに私達の習っている範囲を超えており、私達は驚愕する。
「いくら暇でも勉強しようって思える吉田が凄いわ」
「俺ぜったいやらんで」
手に取った吉田のプリントを前に私と秋元は空いた口が塞がらなくなる。驚き倒す私達を静かに笑って見ながら吉田はぽつりと言葉を漏らす。
「俺はもう一緒に卒業とかできんからな・・・」
寂しそうに笑う吉田に返す言葉が見つからず、私は吉田の文字が羅列されているプリントに視線を落とす。
吉田は2年生になってから休学しており、もう半年以上経過している。出席日数の問題もあり、治療が落ち着いて復学するとなってもおそらく留年ということになるのだろう。本来過ごすことが出来たであろう学校生活やイベント、今後楽しみにしていた行事など一切をともに過ごすことができない。復学すれば学年は違えど限られた中での高校生活をともに出来るだろうが、それでもずっと思い描いていた生活とはかけ離れる。
「トシが後輩か、可愛くないな」
吉田の言葉に秋元は笑って茶化す。
「めちゃめちゃ可愛いやろ」
秋元の言葉に吉田はすかさず言い返し笑う。少し重くなった病室の空気は秋元の一言で元に戻り、和気あいあいとした空気が流れる。
三人で病室で過ごす時間は楽しくて楽しくて仕方がない。けれど、時折訪れる現実が冷たく私達の前に立ちはだかる。どうしようもないことがあることも、それを受け入れていかなければならないことも分かる。でも、暖かい時間を感じてしまうとその現実の冷たさがあまりにも残酷に思えてしまう。
もし、吉田が病気にならずに学校へ行っていたのならどうなっていたのだろう。
そんなことを考える。クラスが違うので多分こうして集まって話して過ごすことなんてなかっただろう。秋元と吉田のバンドが表立って活動していたならば、少しくらい覗きに行ったりもしていたかもしれないが、でも私にとって吉田は良く知っている同級生という程度の仲だから二人のバンド活動を見に行っていない可能性もある。
吉田たちと私の関係は結局、そういうものだから・・・たぶん普通の学校生活を送っていたらこうして二人と笑い合っている私はいなかっただろうとも思う。
他愛のない忘れられていくような雑談を繰り返し、言葉を重ね合いながら眩しいほどの放課後を教室の片隅ではなく、消毒液や独特な匂いのする病院の一角で私達は過ごす。異質だった空間はいつの間にか、少しずつ馴染みのあるものへと変わっていく。
ざわめく校舎でも、人がせわしなく行き交う街中でもない場所が、私と吉田と秋元にとって今の世界でなによりも楽しく輝いている場所なのかもしれない。
訳:本当に楽しくて、毎日が輝いている。でも、いつまで続けられるのかな?
作者は少し医療知識をかじっていますが血液内科や白血病に関しては素人なので、よく知ってる方は「ん?」と思うこともあると思いますが、フィクションということで大目に見てください。




