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Dear my friend  作者: 万寿実
第三章 colored leaves
15/34

10限目 音

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

 

 Dear my friend.

 Did my sounds reach you? I hope it has arrived.





 *****



 文化祭が終わった。

 楽しくて、ざわめきあった時間は一瞬で過ぎていった。


 文化祭の屋外ライブは迫力満点で、学校内でも屈指の実力を持つバンドたちがそれぞれに音楽を奏で歌っていた。それぞれに個性と特色があり、一曲一曲を積み重ねるごとにみんなのテンションも上がっていった。


 そんななか、最後の大トリを飾ったNIKKUのライブは大盛りあがりだった。ステージと観客席が一体化し、NIKKUのメンバーの声と観客の歓声が呼応し熱狂的な空気を生み出していた。



 熱くて楽しい時間なんて無かったかのように、学校は今もうすでに通常運転へと切り替えられている。同じような景色が続き、規律と静寂が再び学校を支配しだす。いつもの空気感にどこか安堵しながらも、文化祭の空気がどこか名残惜しい。


 学校の一大イベントが終わり、どこかクラスのみんなも燃え尽きたように過ごしている。どこか覇気ややる気のない空気がクラス中に充満し、きたるべき中間テストに頭を抱えていた。テスト範囲が次々と提示され、続々と学校中がテストモードへと切り替わっていく。



「安芸、かえろー」



 いつものごとくホームルームが終了し、帰り支度を整えた咲希がやってくる。毎回思うが、咲希の帰り支度が早すぎる。


「ちょい待ちー・・・」


 カバンにノートや教科書をしまい、最後にペンケースを入れようとしたが見当たらない。カバンや机の中を見たが見つからない。


「あ・・・、選択Bか。取ってくるからちょっとまってて」


「ほーい」


 最後に授業を受けたのが現代社会だったため、急いで選択Bの教室へと向かう。各クラスが終わり、生徒たちが帰宅や部活などに向かうざわめきを遠くから感じられる。早い人はもうどこかでバンド練習でもしているのか、ギターの音が聞こえてきたりもする。


 階段を登り慣れた足で向かう途中、ギターの音が聞こえてきた。誰かが練習しているのだろうと思い進み、その音は少しずつはっきりと聞こえてくる。やがて、選択Bの教室の前まできた私は妙に緊張してしまう。確実にその音は今目の前の教室からしている。


 誰かがここを練習場所に使っているようで、入るのには少し緊張する。それに・・・。



(めっちゃ上手い)



 単純にそう感じた。扉一枚越しでさえ伝わる音が今まで聞いてきたものとは違った。ひとつひとつの音が不思議と共存し、それぞれが独立し、ときに強く争うように音が耳に入ってくる。聞いたことのないメロディだが不思議とすっと胸に入ってきて、初めて聞いた音だというのにずっと聞いていたくなる。


(あかん、あかん)


 ハッと我に返り、私はそっと教室の扉を開ける。


「!」


 開けた瞬間、扉一枚というフィルターをなくしただけで音が格段にはっきりと聞こえ、思わず息を止めてしまう。眼の前にはいつもと何一つ変わらない教室があり、机が整列し、黒板があり、それ以上に余計なものはない。いつも見ているはずなのに、誰かの奏でる音が何かを底上げし、教室に彩りと明るさを感じる。


 窓際の私の席に誰かが座りそこでギターを弾いている。丁寧に弦を弾き、そこから音が生まれていく。空気が震えながら音を届け、その空気の振動が丁寧に美しく、そして不思議とカラフルに世界をつくっていくかのようだった。この誰かの作り出す世界がいつもの教室を知らないどこかへと変え、音ひとつで世界は明るくも、暗くも、カラフルにも、モノクロにも変わっていくようだった。


 思わず音の世界にひたり、教室の入口で立ち止まってしまう。



 ふと、視線を感じたのか私の席に座っていた生徒が手を止めこちらを見る。明るい茶髪のくせ毛の男子生徒は驚いたように私を見る。


「あ、ごめん邪魔して。そこ私の席で、忘れ物とりにきたんやけど」


 音が鳴り止んだ途端、男子生徒が織りなした世界が消え私は現実世界へと連れ戻される。名残もなく綺麗さっぱり消え去った音の世界が少しもったいないと思うが、私は本来の目的を果たすべく男子生徒が座っている席を指差し近づく。机の上にはすでに男子生徒のノートが置かれおり、私のペンケースは無いようだった。


「この筆箱、斎藤のんか」


 男子生徒は忘れ物と聞いて何かを思い出したようで、机の中からなにか取り出す。そこには紛れもなく私のペンケースがあり、ほっと安堵しながらも別のことが気になった。


「名前、なんで知ってるん・・・」


 斎藤とはまさしく私のことであるが、私はこの男子生徒をたぶん知らない。クラスメイトではないし、去年同じクラスだった人でもない。文系合同の授業でも見たことあったかどうか定かではない。辻本ほどの有名人なら勝手に向こうが知っているなんてことは多いだろうが、私はしがない一般生徒でしかない。


「あー、俺ら直接喋ったことないもんな。俺、六組の秋元や。トシ──吉田の友達」


 戸惑う私に男子生徒──秋元は納得したように頷きながらそう言う。吉田という生徒の名前を聞いた途端、蓋が外れたように記憶と感情が蘇る。


「秋元って・・・」


 まっすぐとこちらを見つめ返す瞳に吸い込まれそうになりながらも、私は一年ほど前の出来事を鮮明に思い出す。当時、放送委員をしていたときに同じく放送委員となった別のクラスの吉田とペアを組んでおり、放課後の放送係を終えた吉田を秋元が放送室まで迎えに来たことがあった。背が高く、明るい茶髪が印象的だったが実際に話したことはなく、吉田に「友達の秋元」と紹介された時も軽く挨拶したかどうかでしかなかった。


 それから放送室に誰かが来ることもなかったので、すっかり忘れていたし思い出したこと自体が奇跡のように思える。


「思い出したか?クラスもちゃうし、合同授業もかぶらんからなー、俺ら」


 話したことのない初対面の同級生に対して、秋元は飄々とした態度と言葉で接してくる。

 ペンケースを受け取り、秋元の正面に立つ。ギターに添えられた手は大きく、かつキレイだった。その指がギターの弦を震わせ、あの圧倒的な世界を創り出す音を奏でている。背が高く体格がしっかりしていそうな男子とは思えない、不思議と繊細そうなその手が少し気になった。


「秋元、それ・・・」


 魅入られるように秋元の手元を見ていた私は別のものを見つける。

 秋元が座っているのは選択授業の際に私がずっと使ってきた席であり、誰とも分からない友達と言葉を綴り合ってきた場所でもあった。本日最後の授業だった現代社会のときに、いつものメッセージを綴って終わっていた。


 しかし、机の上には秋元のものと思しきシャーペンや消しゴム、電子辞書が広げられている。


 そして、私が書いたメッセージは消えており「いつもの友達」の几帳面そうな角張った文字で「いつものメッセージ」が綴られていた。私がつい今しがた書いた言葉に対する返事が書かれており、私は思わず秋元を見る。何をどう切り出すべきか考えるが、言葉が何も出てこない。



「あんたやったん?」



 やっと出てきた言葉に秋元は先程までの飄々とした空気や表情を一変させ、少し真剣そうな表情を浮かべ私の目を見て静かに頷く。

 卒業するまで「友達」を見つけることなどできないと思っていたし、見つけるつもりもなかった。こんなかたちであっさりと相手がわかったことに少し拍子抜けになるが、相手がわかったところで聞きたいことは色々ある。


「斎藤」


 聞きたいことを口にする前に、静かに強く凜と秋元が私の名前を呼ぶ。それだけで何故か背筋が伸び、一瞬で緊張感が宿る。


「トシのこと覚えてるか?」


 突然の問いかけに身構えるが、その内容は呆気にとられるようなものだった。


「当たり前やん、吉田がおったから去年いろいろ何とかなってたし。今年もクラスちゃうから全然会わんなー。吉田も元気してるん?」


 秋元のことは本当に話したことがないので、廊下ですれ違ってもすれ違ったかどうかも覚えていないだろう。けれど、去年一緒に放送委員をした吉田は一年間ずっと顔を見て話しており、学校一忙しい委員会の仕事を共に乗り越えてきた。たしか吉田も秋元と同じ六組だったはずで、合同授業になることもないので吉田のクラスと関わることはなかった。


 私の言葉に秋元は曖昧に頷きながらも、真剣味を帯びた空気は変わらない。



「明日の放課後、予定ある?」



 どこか迷いながら秋元は口を開いているようだった。さっきまでの飄々とした様子とは違う、どこか慎重な言葉遣いや空気にこちらも緊張する。


「ないけど」


「ほんなら、ホームルーム終わったら正門前に集合な」


 私の返答に対し、秋元は急にそう言う。


「え――」


 何の話なのか、どういうことなのかと聞こうと口を開きかけた私のもとに聞き馴染んだ声が届く。



「安芸ー、遅すぎるで」



 待たせていたことも忘れていた咲希が教室を覗いて口を開く。そうだった、咲希に待っててもらってペンケースを取りにきたんだった。秋元のことや、「友達」の正体で色々思うところがあり忘れていた。


「ごめん、俺が斎藤引き止めてもうてん」


 さっきまでの少し重苦しい空気と緊張感は、秋元の声で打ち破られる。聞きたいこともあるが、今はそういう空気ではなくなったため私は秋元に軽く手を振って咲希と選択Bの教室を出る。


 階段をくだり、教室へと向かいながら咲希は秋元について聞いてきた。誰なのかと聞かれても、同級生の秋元という情報しか私も知らない。



 秋元の書いていたあの文字と、奏でていた音を思い出しながら私は咲希と学校を出て家路につく。



訳:君にこの音は届いているかな?届いているといいなぁ。


向こうのことは知らないのに名前を呼ばれるとドキッとしませんか?

作者は学生の時、クラスも違い名前も知らない同級生と思しき人に名前を呼ばれてビビりまくってました。未だにあれが誰なのか分かりません。

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