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Dear my friend  作者: 万寿実
第二章 colored
14/34

9限目 文化祭

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


 Dear my friend.

 Why did you come here while everyone was on their feet?





 *****


 爽やかな風が行き交う秋空のもと、第68回北谷高校文化祭が始まる。

 活気づく学校と周辺地域の空気を感じながら、私達は文化祭前の全校集会に足を運んでいた。諸々の注意事項を聞きながらも周りの空気はそわそわしており、これから始まる学校行事への期待と楽しみが膨らみ続けている。


 私と咲希はつい最近まで重苦しい空気を抱えていた。どうすることもできず、どうしたら良いのかも分からないなか時間だけがただただ過ぎていった。

 けれど今朝になり咲希が話しかけてきた。本人曰く、彼氏の辻本 一輝とすれ違いが続き破局の危機だったらしい。


 咲希からすれば辻本のバンド活動も理解はしているし応援もしていた。だからこそ、何もかも頑張り過ぎな辻本が時間を割いて自分と過ごすことに引け目を感じていたという。いろんなことが落ち着くまで距離を置くことも踏まえて話し合っていたが、二人の会話は平行線となっていたという。それが昨日の夜に解決したらしい。


「こんな痴話喧嘩に安芸を巻き込むんもなーって感じで言えんかった。ごめんな」


 一段落付いたからか咲希の表情は明るい。


「解決して良かったわ」


 なにか力になれたらと思ったけれど、なんにせよ問題が解決したようで良かった。

 私達は全校集会が終わり、それぞれのクラスに帰る。文化祭開始前の最後の準備とチェックを行い、いよいよ文化祭が開始となる。



「ちょっと待てよ、なんでこれがここにあんねん」



 浮かれ立つクラスの中で、誰かが大きな声を上げる。ちょうど私の後ろでの出来事であり振り向くと、クラス委員長がなにか持っている。よく見れば、事前に放送委員に提出するべきクラス案内の放送用紙だった。それがなければ放送委員による校内放送でクラス催事のお知らせをしてもらえない。

 事前提出のもののため、無ければ無いで放送委員が気づかなければならないのだがスルーされてしまったようだった。


「八木ー!」


 クラスの放送委員の名前が呼ばれるが、反応する声はない。確か、放送委員の八木は文化祭開始早々に放送係となっていたはず。


「放送室まで持っていってくるで」


 すぐ後ろでの出来事だったので私は委員長にそう声をかける。申し訳無さそうな委員長だったが、私が去年放送委員をしており多少は顧問の先生に顔がきくと分かるとホッと安堵したような表情を浮かべる。


 そそくさと教室を出て放送室を目指す。学校中が飾り付けられ、活気とそわそわに溢れている。知っているはずの廊下や教室の景色が不思議と華やかで、全く知らないところに来ているような緊張感が少し堪らない。いつもの学校のざわめきとは違う雑音がどこかワクワクを助長さながらも、いつもと違うところに違和感も覚える。でも、こういうワクワクとそわそわが入り乱れる空気はそれはそれで嫌いではない。


 すでに文化祭が始まり、正門が開かれている。そのため一般客が何人か校舎にたどり着いており、普段の学校とは違うのだと外からの来訪者の存在が強くそれを示しているかのようだった。


 いくつかの教室を通り過ぎ、角を曲がって階段を昇る。通り慣れた道なのに、今日に限っては知らない道のりのようだった。規律と静寂を信条とするかのような校舎が、今は彩りとざわめきに支配されている。


 違和感だらけの学校を進み、そこにたどり着く。関係者以外立ち入り禁止と書かれた張り紙を無視し、私はノックをして中に入る。


 突然の来訪者に驚く放送委員と先生に、私は諸事情を説明し放送用紙を手渡す。クラスの放送委員の八木は「うっかり忘れてた」と話し、顧問の江藤先生に注意されていた。


 ひと仕事終えた私はクラスに戻るためと廊下を引き返し、文化祭を楽しむ。特にクラスメイトが特別仲が良いというわけではないが、こういう行事の時は自然の話す機会も増え、やるべきことはお互いにやって楽しむ。


 交代に店番をしながら、私はいつものメンバーと文化祭を回る。早織はバレー部の催しがあるため、あまり一緒にはいられないがスキマ時間に戻ってきては4人で限られた時間を謳歌する。


 毎日のように通う学校なのに、こうして彩り、そして外部の人間が平然とやってくると不思議で楽しい。特にうちは軽音バンドが有名であり、他校の生徒や近隣住民、そしてOBたちが軽音ライブを楽しみにやってくる。


 屋外ステージでのライブが目玉ではあるが、それに出場出来なかったバンドが体育館で順番にミニライブをしたり、不定期で小さなバンドが学校の何処かでライブをすることもあり常に音楽に溢れている。


 ざわつくなか、友達と校内を巡るのは楽しいの一言に尽きる。日頃の勉強に対する鬱憤や将来の進路に関する不安なんてものが、こうしている今だけは感じなくて良い。つまらないことでさえ、4人でいれば何だって面白くなる。


 他の学年やクラスの出し物であるお化け屋敷や巨大迷路などを騒ぎながら楽しみ、天文学部の手作りプラネタリウムを見てのんびり過ごし、ダンス部の舞台発表を盛り上がりながら鑑賞する。


 文化祭のパンフレットを片手に回るのは楽しくて楽しくて仕方がない。



 それなのに、ふとした瞬間に我に帰るように世界から切り離されたような感覚が蘇る。自分はここにいるのに、ここにいないような不思議な感覚が時たまやってくる。フィルター越しに世界を見るかのような、どこか色あせた世界を目の当たりにする。



 それが何なのかも分からないし、考えても仕方が無いので気にしないようにして文化祭を回った。

 昼食後はそれぞれバラバラになる。早織はバレー部へ、遥香はクラスの店番へ、咲希は辻本との約束へと解散する。私は特に予定がないので、クラスの他の子を誘うかどうかしようかと思い廊下を彷徨う。



「斎藤」



 そこに誰かが声をかけてきた。聞き慣れたような、あまり聞き慣れないような声に振り向く。


「辻本」


 すらっとしたイケメンがそこに立っていた。最初は他の誰かに呼び止められたのかと思ったが、辻本以外に私の方を向いている人はいない。


「ごめんな、色々」


 申し訳なさそうに私にそう言いながら辻本は近くに来る。去年同じクラスだったため何度か話したことはあるが、それでも私にとってはNIKKUのボーカルといえば雲の上の存在に感じられる。


「これ、咲希と来て」


 辻本は私に何かを手渡す。紙切れ2枚だが、それは今日この学校で一番価値のあるものだった。


「屋外ステージの特等席やん、どうしたん?これ」


 手渡されたそれは、文化祭のフィナーレを飾るにふさわしい屋外軽音ライブの一番前の席のチケット二枚だった。屋外ライブのチケットは文化祭当日に整理券が配られ、抽選制となっている。整理券番号があたれば購入でき、席も基本的にはランダムでありすべてが運に任される。


「知ってる奴が当たっててん。ちょっと賄賂渡して貰った、内緒やで?」


「やるなぁ、バレたらヤバいやつやん」


「バレへんから大丈夫。咲希にも言うとくから、また後でな」


 笑って辻本はそう良い、去っていく。手に残ったチケットを見つめ、不思議な気持ちになる。文化祭の目玉である屋外ライブは盛り上がるし、行けたら楽しそうだろうな程度にしか思っていなかった。私にとって学校にあふれる音楽は耳に届くが、だからといって何か心に響くものではない。


 そんな私が誰もが欲しがる屋外ライブの特等席というプレミアムチケットを持っている。楽しみといえばそうだが、もっと本気でほしいと思っている人もいるのに・・・。


 辻本が咲希ではなく私にチケットを渡してきたのは、たぶん私と咲希がこの間まで重い空気の中にいた事、それが自分たちのことが関係していることを知っていたからだろう。お詫びの品みたいなものなのだろうし、そして咲希にもこの日のために仕上げたNIKKUをみてほしいのだろう。



 なぜか私はそのままの足で、いつものあの場所――選択Bの教室へとやってきていた。この階の教室は生徒の休憩室として使われており、選択教室はどこも各学年やクラスの生徒が何人かいる。しかし、多くの生徒がここを使うことはなく、静かなものだった。


 選択Bの教室には他には誰もおらず、私はいつもの席に腰掛け外を見る。いつもならグラウンドを見ても特に面白いものなんてないのに、今日見下ろすグラウンドは彩りと活気と人で溢れている。そしてなによりも、屋外特設ステージが一番目を引く。日常とは違う景色に違和感を覚えながらも、私は友達からの言葉に微笑む。


 君はどうしてここに来たのか――そう尋ねていた。


 そんなものどうしてか分からない。ただ、思ったことだけを返事しておき私は大きく伸びをして外の景色をぼんやり見つめる。




 Dear my friend.

 Maybe I wanted to meet you.

 Why did you come?



訳:皆が浮き足立つ中、君はどうしてここに来たんだい?


訳:君に会いたかったのかもね。君こそどうして来たんだい?


文化祭などの行事は楽しい反面、いつもの学校とは違う異質な感じに少しワクワクのような、緊張感のあるドキドキのような感情が織り交ざっていたなぁと懐かしく思います。

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