ここはどこ? わたしはどうなっているの?
ほんとうに突然だった。
ハッと気がついた。大げさかもしれないけれど、唐突に目が覚めた。
一瞬、自分がなにをしていたのか、どこにいるのかわからない。
うす暗闇の中、天蓋がボーッと浮かび上がっている。
天蓋? 上に見えるのはそうよね?
って、天蓋?
飛び起きてしまった。
寝台? しかも、広くてクッションのきいたマットとフカフカのお布団?
たしか馬車で屋敷を出た、はずよね?
家族から解放された安心感と馬車の揺れが気持ちいいのが重なって……。
ちょっとだけ瞼を閉じ、これからのことを考えよう。
たしかそう思いついたのだったかしら。
そして、実行に移した。
それがなぜ寝台の上で眠っているの?
というか、ここはどこ?
寝台の上で上半身だけ起こし、部屋の中を見まわしてみた。
大きなガラス扉がある。カーテンの隙間から月光が射しこんでいるので、室内の様子がわかる。
大きな部屋だけど、過剰な装飾品や調度品はない。機能性重視で、ちょうどよさそうな位置に調度品が配置されている。
わたし、いったいどうしたのかしら?
もしかして、だれかに売られたの? それとも誘拐された?
お姉様だと思い込んでいるでしょうから、なんらかの価値があると思って売ったりさらったりしたの?
様々な疑問がわいてくる。
「クルルルル」
そのとき、お腹が控えめに鳴った。
まあああっ!
こんなときに?
わたしのお腹って意外と図太いのね。
笑ってしまった。
そのとき、テーブルの上になにか置いてあることに気がついた。
寝台からすべりおり、そちらに向かった。
素足で歩くと、絨毯の毛が足に心地よく感じられる。
歩きながら見下ろすと、お姉様のお古のドレスを着用したままである。
テーブルに近づくと、テーブル上のトレイの上にかかっている布巾をとってみた。すると、サンドイッチとリンゴと葡萄ジュースが現れた。
まあ、これ以上悪いことは起きないでしょう。起きたとしても、これまでよりかはずっとマシなはず。
とりあえずいただきましょう。
そういえば、屋敷で最後に野菜のクズとカビの生えたパンを食べたのはいつだったかしら。
椅子に座ると、月光を浴びつつありがたくいただくことにした。
サンドイッチ用のパンの切り方は雑すぎるし、はさんでいる具材は、なんていうか……。野菜は水けをまったくきっていないからパンがグズグズになっているし、ハムは分厚かったり薄かったり厚みがバラバラ。チーズは、あきらかにサンドイッチには適さない種類。バターはパンに塗っているというよりかは塊を落としている感じで、マヨネーズはつけすぎている。そして、切るときにグチャグチャになったみたい。
サンドイッチの原型をとどめてはいない。
つまり、食べられたものではない。
いったいだれが作ったのかしら?
手の込んだサンドイッチなら失敗もあるかもしれないけれど、これだけ単純なハムとチーズのサンドイッチで、これだけ悲惨な仕上がりになるなんて……。
もしかして、わざと?
わたしに対する嫌がらせとか?
そうよね。きっとそうよ。それなら、こんな悲惨なサンドイッチの説明がつく。
お皿の上にのっているサンドイッチであろう得体の知れないものを眺めつつ、それでもいままでよりかはずっとマシだと溜息をついてしまった。
嫌がらせであれ、わたしの為にだれかが作ってくれた。
それだけでも感謝しなくては。
というわけで、見てくれは悪いし、おそらくは味も期待出来ないけれど、ありがたくいただくことにした。
葡萄ジュースがあってよかった。
これならば、腐りかけていたりカビやなにかしらの菌が増殖している食べ物とあまりかわりはない。
それらを、葡萄ジュースで流し込んだ。噛んだり味わったりなんてとんでもない。
涙が出てきた。
それでも完食した。
どこのだれとも知らない作り手に感謝しつつ。