【最終話】彼とわたしの人生最高の日
「王妃というのはとてつもなく大変だ。当然、王妃教育も受けてもらわねばならない。そういう意味では、これまで以上に過酷になる。その点はすまないと思う。だが、どうしてもきみでなければならないんだ。ミキ、愛している。きみを一目見たときから、きみに参っている。かならずしあわせにする。だれもがうらやむ家庭を築こう。きみとおれとまだ見ぬ子どもたちとともに。ああ、そうだ。料理は出来うるかぎりしてくれていい。王妃はなにもしてはいけない、ということはない。ここでやってくれたように、いっしょに料理やスイーツを作り、話をしながら食事をするんだ。どうだろうか? ぜひともいい返事がほしい」
彼は、いっきに告げるとピタリと口を閉じた。
両肩で息をし、美貌は真っ赤になっている。
「なんて一方的で傲慢なのかしら。わたしだったら即『ノー』と答えるわ」
アリソンがつぶやいた。
「想いを伝えろと言ったのはきみだぞ、アリソン。ああ、くそっ。だったら、どう言えばよかったんだ? ミキ、すまない。きみの気持ちや都合を考えず、またしてもデリカシーのないことを言ってしまった。だが、おれのきみに対する気持ちに嘘偽りはない。本気だ……」
「あの、わたしですか? 人違いですよね? それとも、ご令嬢たちを遠ざける為の手段? 契約結婚とか夫婦のふりをするだけとか? いくらなんでもこのわたしだなんて、冗談にしても笑えませんよ」
だって、そうでしょう?
「ミキ……。きみは自分自身を過小評価しすぎている。きみのドレス姿は、きみの美しいと謳われている姉よりもずっとずっと美しい。内面は言うに及ばず、知性やその他もろもろも他の多くのレディたち以上だ。だが、おれはそういうことよりも精神と精神のつながりみたいなものを感じている。これは表現が難しいが、とにかくきみとは生まれながらに結ばれているという、そういう感覚がある。きみには迷惑かもしれないが。そうだな。いくらなんでも急ぎすぎた。すこしずつでもおれを知ってくれればいい。とりあえず、おれといっしょにユルバン王国には行ってくれるだろう? すこしずつ距離を詰めていこう。これでどうかな?」
まだピンとこないけれど、コランタンの気持ちはうれしい。国王になる云々とか、わたしが王妃になるとか、そういうことは別にしても、わたしも彼をもっとよく知りたい。
ほとんどなにも知らないから。
いまはっきり言えることは、わたしは彼のことを好きだということ。
いいえ。愛している、ね。
まさかわたしが男性を愛するなんて、まったく想像しなかった。
だけど、これは現実。
だったら、彼のことを愛してもいいわよね?
「コランタン様。これからはなんとお呼びすればいいでしょうか? 殿下でしょうか。それとも、陛下でしょうか」
「呼び方なんてどうでもいいが……。コランタンって呼んでほしいな。って、いっしょに来てくれるのか?」
「では、いままで通りコランタン様でよろしいでしょうか。一つだけお願いがあります。王宮で料理の勉強をさせていただけますか?」
手に職をつけておけば、いつ放り出されてもどこかしらで働けるかもしれない。
「きみの望みどおりにする。うれしいよ、ミキ。今日は、人生最高の日だ」
コランタンは、わたしの手から自分のそれを放して抱きしめてきた。
そして、あっと思う間もなく口づけをされていた。
わたしの人生初の口づけ……。
「はしたない。ほんっと傲慢でいやな男よね。『野獣将軍』とわざと噂を流したんでしょうけど、いまのあなたはそのままだわ。ミキがかわいそうすぎる」
アリソンのつぶやきがきこえてきたような気がしたけれど、頭も心もポーッとしていてわからなかった。
人生初の口づけは、驚くほど甘くてやさしかった。
わたしにとっても、今日は最高の日だわ。
(了)




