コランタンの申し出
目が覚めたタイミングで扉がノックされたので驚いてしまった。
結局、昨夜はシャツにスカートのままで眠ってしまった。
慌てて返事をすると、扉が開いてコランタンが美貌をのぞかせた。
その子どもっぽい仕種に、おもわず笑ってしまった。
「ミキ、どうだい?」
「は、はい。だいぶんとよくなりました。結局、一度も目を覚まさずぐっすり眠っていたようです」
彼は、わたしがそう答えている間に室内に入って来た。
「よかった」
その声はほんとうにそう思っているという響きがあった。
「その、体調が悪くなければ、朝食を作ってくれないかな? もちろん、おれも手伝う」
「ええ、もちろんですとも。たとえ体調が悪くても、料理するのは大好きですからいい気分転換になるのです」
「じつは、部下たちが到着してね。きみの料理のことを話したら、ぜひ食ってみたいと」
「ええっ? みなさんに召し上がっていただくほどのものでは……」
「きみはなんでも謙遜がすぎる。きみの料理は、なんでもうまいよ。これはお世辞でも社交辞令でもない。ほんとうにめちゃくちゃうまい。それだけではないが、おれがきみに惹かれたから……」
「はい? 申し訳ありません。最後のほうがよくきこえなかったのですが」
すでにレシピを考え始めてたから、彼の言葉をきき逃してしまった。
「い、いや、なんでもない」
「それで、何名いらっしゃるんでしょうか?」
「四名だ。どいつも万年腹を空かせている。朝だし、そんなに手の込んだものでなくていい」
「パンを焼くには時間がかかりますね。パンケーキに卵とベーコン、生野菜のサラダとヨーグルトにフルーツを添えましょう。いかがですか?」
「充分すぎる」
「では、さっそく。あの、コランタン様、着替えたいのですが……」
「おおっと、すまない」
慌てて部屋を出て行ったコランタンが可愛すぎた。
クスクスと笑いながら手早く着替えた。
先に部下の方たちを紹介してもらった。
驚くべきことに、一人はレディである。
コランタンの従姉だというそのレディは、それはもう美しい人である。
セリエール家が美男美女ばかりということが容易に想像出来る。
コランタンと従姉のアリソンだけでなく、他の青年たちも手伝ってくれたのであっという間に朝食を作ることが出来た。
そして、やはり一心不乱に食べた。
食後、あらためて自己紹介しあった。
男性陣は、レオン・カンタール、フィリップ・モラン、サミュエル・ラングレーという若き将校たちで、彼ら以外にもコランタンの片腕的存在の参謀がいるとか。
すっかり忘れていたけれど、コランタンの帰りを、というよりか公の場に姿を現すことを、だれもが待っているという。
これ以上、好き勝手してもらっては困ります。
彼らは、コランタンを頭ごなしに叱りつける。
それを見ながら、コランタンはほんとうにみんなから愛されているんだ、とつくづく感じた?
コランタンたちは、明後日には帰国の途に着くという。それで、明日その挨拶も兼ねて皇宮とわたしの屋敷を訪れることになった。
その準備の中、アリソンといろいろ話をした。
彼女は、ほんとうにいい人である。
こんなわたしにやさしく接してくれるのである。
そのアリソンから教えてもらった。
じつは、コランタンは外交を言い訳に逃げてきたらしい。
祖国では、彼の自称妻候補たちが大勢待ち構えているとか。が、彼にその気はない。だから、外交を理由に逃げだしたという。
だけど、彼はこれから職務が忙しくなる。その為。勝手な行動や自由気ままな生活に終止符を打たねばならない。
「ミキ。きみさえ嫌ではなかったら、このまま夫婦としてユルバン王国に来てくれないだろうか?」
アリソンから話をきいた後、コランタンから打診された。
なるほど。わたしが彼の婚約者か恋人として同道すれば、彼の妻候補たちへの牽制になるわよね?
だけど、それはわたしが彼の婚約者や恋人として完璧な場合よね。どう考えてもわたしは彼と釣り合わない。それどころか、われこそはというレディたちに笑われるだけかもしれない。
正直、力不足だわ。
それでもいいのかしら?
とはいえ、その申し出はうれしかった。




