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第二話 学校の階段で怪談事件


学校の階段で怪談事件





優華が怖がっていたスリラーハウスと同じほど怖い事件があった。


その切欠は、夜に学校を開放した、納涼肝試し大会に関係したことだった。


当然、この催し物は教職員や保護者監視の下で行なわれるのだが、「階段が危ないのでは」という意見が多く上がり、中止が危ぶまれた。


しかし、俺が匿名で企画書を作り、学校に送りつけた。


やはり階段の角や手すりを乗り越えると危ないことはよくわかっているので、小学五年生になったばかりの俺は、この肝試し大会のためだけではなく、学校が常に危なくないようにするための、校舎の改良提案書も添えて出したのだ。


まずは、手すりと手すりの間を滑らない素材のもので塞いでしまうこと。


そうすればその間から下階に転落することはない。


次に階段の角は柔らかいウレタン材で覆うこと。


だがこれをすると、上履きがウレタンに吸い付いてしまい逆に危険になるので、校舎内は裸足か靴下で移動することなど、考えられるメリット、デメリットなどをびっしりと記したのだ。



学校では会議が行なわれて、市議会にもこの話しが波及し、俺の通っている小学校だけで試験的に行なうことになり、校舎の階段周りの改良工事を行った。


改良後に、悪ガキたちが様々な悪さをしたが、誰一人として怪我はしなかった。


当然、教師は怒りまくっていたのだが、子供の俺たちとしては、さらに学校が安全なものになったと喜んだ。


もっとも、踊り場から飛び上がってしまうと当然怪我をすることになるが、そのような自殺行為的な危険なことは考えないとして、反対意見には取り入れられなかったようで、肝試し大会を決行することなった。



だがその前に、誰がこの提案をしたのかが話題になり、犯人捜しのようになってしまったのだ。


俺は幼なじみどころか父母にも何も言わずに企画書を作ったので、真実は俺しか知らない。


もちろん、俺たち四人が集まった時にもその話題が上がった。



「父兄の誰かじゃないの?」と俺はしらっとした顔で言った。


この意見が順当なのだ。


「だけどね、伯父さんが言ってたの?

 きっとね、子供だって?

 だからね、工事ができてよかったって?」


優華がたどたどしく言うと誰もがうなづいた。


「本当に感心しちゃったもん…

 階段が全然怖くなくなっちゃったから。

 それに、つまずくこともぜんぜんないから、

 前よりもすっごく安心だもん」


爽太郎が美少女顔で真剣な顔つきで言うと、俺たちは大いにうなづいた。


「優華ちゃん、その提案書って見せてもらえないの?」


彩夏が聞くと、「伯父さんに聞いておくの?」と優華が答えた。


「でも、どうしてそんなに知りたいわけ?」と俺が聞くとそれは愚問だと言わんばかりに、三人はとんでもない勢いで俺をにらんできた。


「お礼、言いたい?」と優華が言うと、爽太郎も彩夏も大きくうなづいた。


「…あー…」と俺はついついため息を漏らしてしまった。


俺が自分で作った企画書なので、その考えが全く沸かなかったのだ。


もし俺が作っていなかったとして考えると、俺も礼を言いたいと思ったはずだ。


そして、かなり大事になりそうなので、俺は渋々白状した。


この瞬間から俺は、三人に白い目で見られるようになってしまったが、いち早く正常化したのはやはり爽太郎だった。


「いいことをしてくれたんだから、怒っちゃだめだよぉー…

 僕たちだけでも、きちんとお礼言おうよぉー…」


爽太郎の意見があまりにも正論なので、優華も彩夏も機嫌を治して俺に丁寧に礼を言ってくれた。



そして翌日、学校に行くと、俺が企画書を送りつけた犯人だと断定されていた。


ばらした犯人は当然のごとく優華だ。


やはり一番の年少者だということと、俺のことをみんなによく見てもらおうと思った結果だ。


しかも、自分の家の食堂で言いふらしたので、父兄からあっという間に広がったのだ。


口止めをしなかったことがその大きな原因だったのだが、口止めをしたところで優華は誰かに話していたはずだ。



この日家に帰ると、母にこっぴどく叱られてしまった。


俺の両親だけが匿名で出した提案書のことを知らなかったからだ。


この日の朝、俺が登校した後に、優華の母に聞かされたようでかなり驚いたそうだ。


だが父は俺を弁護するようにほめてくれた。


「俺は誰よりも拓生を信用するだろう。

 この先も、拓生の思い通りに生きればいい」


俺は心強い味方ができたことで、これほど喜んだ日はなかったはずだ。


だが母は、父の言ったことがよくわからなかったようだが父が、「口が堅い、自慢もしない」と言ったところで、「あー、まあ、その通りねぇー…」と言って母はようやく理解できたようだ。


「さらに言えば、もし拓生が堂々と

 企画書を職員室に持っていった場合、

 子供の言っていることと

 なおざりにしたんじゃないかと俺は思うんだ。

 もしそこまで考えていたとしたら、さらにすごいな」


父の言葉は俺にもよく理解できたが、俺としてはただただ恥ずかしかっただけだったので、この件に関してはすぐに否定した。


だが父は笑顔でうなづいて、俺の頭をなでてくれたのだ。


~ ~ ~ ~ ~


この近辺の連続放火事件だが、動きがあったようで五月たちの表情は明るい。


しかもまだ午後7時なのだが、一階のレストランに入ってきたのだ。


どう考えてもありえない時間で、ここ数日は俺が家に帰る11時ごろに鬼のような形相で来店した日がほとんどだった。


すると俺と眼があって、五月たちは俺めがけてガラス張りの指定席へと猛然と走ってきたのだ。


優華が笑顔で扉を開けると、まったく知らない警察関係者も俺を笑顔で見てくれた。


「拓生君っ!!

 本当に協力ありがとうっ!!」


五月はいきなり俺の両手を取って握手をした。


オレには何がなんやらわからさっぱりわからなかった。



だが昨日の帰宅中のことだが、ふと気になったことを交番の前で思い出し、珍しく立ち番をしていた、数回言葉を交わしたことのある警察官に話しかけただけだ。


この場にいた優華は満面の笑みを浮かべ、休憩中の彩夏は、『何をやったんだぁー…』と言わんばかりに俺をにらんでいた。


「まさかまさかだったんだが、君のアドバイスが大いに役立ったっ!!

 本当に脱帽だよっ!!」


五月は多少白髪混じりだが、かなり立派な頭髪を持った頭を目一杯下げて喜んでいる。


五月の部下たちも俺に笑顔を向けたまま頭を下げてくれたのだ。


「…俺、アドバイスとかした覚えは…」と五月に言うのではなく、喜んでいる優華と怒っている彩夏に向けて言った。


「交番勤務の三島君がね、君から聞いたと言って教えてくれたんだよ。

 君って、本当に謙虚だと、しみじみと思ったなぁー…」


五月はまだ俺を解放してくれないようで、両手を握ったままだ。


俺はまるで逮捕されてしまったように感じてしまった。


「あっ! どうぞおかけくださいっ!」と優華が普通に言って五月たちに席を勧めてくれたので、俺はようやく拘束から開放された。


この部屋は基本4人しか使わないのだが、優華が狭いのは嫌だったようで、20人ほどならなんなく座れるスペースがある。


俺たちの家族全員がこの部屋に入って丁度いい広さになっているはずだ。



五月は背筋を伸ばしてすぐに椅子に座ると、部下たちもそれに倣った。


やはり警察官だけあって、動きはかなり機敏で、学生気分の抜けていない俺にとしては見習うべきだと感じた。


「交番勤務の交代について質問したようだね」


「ええ、ずっと気になっていたことだったので。

 たまたま立ち番をしていた三島君に聞いてみたんですよ。

 さすがにまったく知らない仲だと聞けなかったんですけどね」


五月は大きくうなづいて、「移動手段も…」というと、「はい、音が出ない方がいいんじゃないかと」と俺が言うと、五月たちは大きくうなづいた。


「さらには移動経路…」


「ええ、もし俺が犯人だとすると、多少は気にしていたと思ったので…」


「君の助言をふまえてアレンジして、普通に勤務していただけで、

 今日未明に連続放火犯を現行犯逮捕したんだよっ!!」


五月は言って、上機嫌で大声で笑った。


偶然にいい方向に転がっただけだが、犯人が捕まってよかったと俺はほっと胸をなでおろした。


「あ、申し訳ないのだが、まだ取調べ中なので、マスコミには…」


五月が彩夏に顔を向けて言うと、「はい、承知いたしました」と彩夏は超美人的な薄笑みを浮かべて言って、五月が彩夏から視線を外したあと、鬼のような形相をして俺をにらんできた。



なぜだか五月たちはここで食事をすることになってしまったようで、優華がメニューを持ってきた。


俺としてはのんびりと過ごしていたい部屋なのだが、この喜びのおすそ分けも悪いものではないと思い直した。


「やはり、お役所仕事ではいけないんだなぁー…」と五月が野菜炒め定食に手をつけながらしみじみと言った。


もちろん定食だけではなく、から揚げプレートとフライ盛り合わせも注文していた。


まさに自分へのごほうびというように見えた。


「防犯を心がけて事件を起こさせない方が平和です」


俺が言うと、誰もがしみじみとうなづいている。



優華が立ち上がって、ドアを開けて爽太郎を招き入れた。


爽太郎は大事な話だろうと思ったのか、部屋に入ることを途惑っていたのだが、彩夏を見つけてほっとしていたところに、優華がドアを開けたようだ。


「みなさん、お疲れ様でした。

 ニュースで見ました。

 連続放火犯、全ての犯行を認めたようですね」


爽太郎が言うと、五月は慌てて携帯電話を取り出して、メールを読み始めた。


「あとは所轄に任せてきたのでね。

 初犯じゃないことはわかっていたので、

 祝杯を挙げてもいいだろうと思ったんだよ」


五月は少し照れた笑みを爽太郎と俺に向けた。


「防犯強化などというよりも、

 常に方法を替えた方が防犯になるんだなぁー…」


五月はしみじみといった。


「交番勤務もそうですけど、コンビニなどに、

 警察官立ち寄り所という看板がありますよね?

 あれも気になっているんですけど…」


「訪問順路が決まっているんだ…」


俺の言葉を待っていたかのように苦虫を潰した顔をして五月が答えた。


もっとも、あまり複雑化できないだろうと思ったが、何かいい方法があるのではないかと少し考えた。


結論が出たので、また三島にでも伝えておこうと俺は思った。


「今回は自転車検問はしなかったのですか?」


さすがに五月は驚いたようで、少し目を見張って俺を見た。


「詳しすぎるので逮捕するっ!!」と言って五月はむんずと俺の手をつかんで大声で笑った。


「いえ、夜中に一度遭遇したので知っていただけですよ」


「自転車の場合、ほとんど飲酒検問だね。

 もちろん、防犯登録番号の照会も行なうんだ」


五月は俺の手を放して穏やかな声で言った。


「ええ、無線でやっていましたね」


俺は笑顔でうなづいた。


「一昨日にそれをやったんだが、やはり出てこなかった。

 その効果が今朝現れたのかもしれないなぁー…」


五月は笑みを浮かべて天井を見て満足げに言った。


五月たちは一時間ほどこの部屋で過ごして、さすがに申し訳なく思ったようで、かなり丁寧に頭を下げて店を出て行った。



「おまえ、今からでも遅くない、転職しろっ!!」と彩夏が叫ぶと、俺も優華も爽太郎もかなり困った顔をして彩夏を見た。


「警察の外からの助言の方がいいんだよ。

 お役所仕事に縛られないからな。

 だけど一般人だと権限はないし、意見が通るとも限らない。

 今回はうまくいっただけの話しだ。

 さらに言えば、警官の三島君が上司に話した手柄でもあると思う。

 それがなかったら、今頃は五月さんたちがこの店に来て、

 暗雲がたちこめていただろうな」


俺が言うと、爽太郎は柔らかな笑みを浮かべたままうなづいた。


優華はずっと、胸の前で手を合わせていて笑みを変えない。


彩夏ひとりだけが怒っているのだ。


「そもそも、そんなに刑事ドラマや推理ものって見てないだろ?

 出てるのに…」


「だからこそ見ねえんだよ」と彩夏に言い返された。


「超美人に映っている自分が気に入らない…」


「俺にはよくわかんねえんだっ!」


彩夏がさらにふてくされてしまったので、俺は困った顔を爽太郎に向けた。


「拓ちゃんの言った通りだよ。

 でもね、子供の時に出会った刑事さんたちに再会したから、

 何か困ったことがあったら頼ってきてくれるかも」


爽太郎がとんでもないことを言い始めたので、「爽太郎、やめろぉー…」と俺は言ったが、彩夏の機嫌がすぐに治った。


「仕事、取ってきてやる」「頼むから余計なマネはやめてくれ」


さすがにここは俺だけでなく爽太郎も優華も彩夏を止めた。


すると彩夏はわなわなと震え始めた。


「…そうしないと…

 そうしないと、拓生さんの活躍を見られないじゃないっ!!」


彩夏は心からの叫びを俺に向けたようだが、少々様子がおかしい。


「俺、今回も何にもしてないぞ」


「何もしてないのに犯人が捕まったことがすごいじゃないっ!!

 世間話だけで誰にも犯罪者を捕まえられっこないわよっ!!

 その一部始終を私は見ていたいのっ!!」


彩夏は乱暴な言葉ではなく、まさに女優といった迫真の演技を俺たちに見せてくれたので、俺は思わず拍手をしてしまった。


「中堅女優以上の迫真の演技…」と、俺が言うと、「おっ! サンキューなっ!!」といつもの調子の彩夏に戻って言った。


少しは彩夏のストレス解消になったようだ。



「優華、撮ったよな?」と俺が聞くと、「あー、っていうかぁ?」と言って優華はこの室内にある監視カメラを見た。


もちろん固定カメラだが、きちんと録画されているはずだ。


「今のシーンだけ欲しいな…

 どこかのテレビ局に売り込もうっ!!」


俺が言うと、優華も爽太郎も笑顔でうなづいていた。


「くっそっ!! やられたぁ―――っ!!」と彩夏は頭を抱え込んで大声で叫んだ。


もし彩夏が余計なことをすると、今の映像をテレビ局に流すことになり、彩夏はかなり面倒なことになるはずだ。


「俺も面倒だからイヤなんだよ。

 それに、すべてにおいてうまく行くかどうかはわからないからな。

 さらには俺の発した言葉には人命が関わってくるんだ。 

 最終的に警察の責任と言われたとしてもだ。

 テレビドラマなどの探偵が実在したとすれば、

 とんでもなく肝が据わってないとできないと思う。

 だからこそ俺は今までのスタンスを変えないぞ」


「わかったよぉー…」と彩夏は唇を尖らせて言った。


~ ~ ~ ~ ~


肝試し大会は滞りなく終ったのだが、その二日後から階段に幽霊が現れるとうわさになっていた。


俺としては特に興味はなかったのだが、彩夏がどこからか詳しく情報を仕入れてきた。


幽霊かどうかは定かではないのだが、ひとりの女子生徒が夕暮れ迫る薄暗い踊り場に人影が見えたと確認したと同時に、超高速で階段を降りてきたというのだ。


まさに神がかり的な速さで、腰を抜かして顔を伏せ、しばらくして顔を上げたのだが、何もいなかったという。


廊下にも薄いウレタンマットを敷いているので、その女子生徒には怪我はなかった。


「手すりを使って滑り降りることはできないからね。

 手すりの上にもウレタン、敷いてるから」


俺が言うと、彩夏、爽太郎、優華が神妙な顔をして同時にうなづいた。


これと同じ事がほかにも二件あったという。


教師にも知らせているようだが、階段には変わったことはなかったという話だ。


「…目的、なんだろ…

 驚かせること…

 どうして驚かせたいんだろ…

 ありえないことをやってみたかったから…」


俺が言うと爽太郎が、「実はね…」と言って俺に神妙な顔を向けていた。


「拓ちゃんって、すごく人気があるんだよ。

 マリア様のことも、動物園のことも…

 さらに、今回の学校の改修工事のことも」


俺はこの時かなり照れたのだが、いきなりあのビリビリ感が俺を襲った。


俺は辺りを見回した。


すると、誰かが走り去ったように感じたのだ。


それはかなり離れている校舎の間にある中庭だった。


木が数本植わっていて、その辺りに誰かがいたと感じたのだ。



「あーあっ?」と優華か怪訝そうな顔をして言った。


「誰だかわかった?」と俺が聞いたが、優華は首を横に振った。


彩夏は、「待ちなさいっ!!」と大声で怒鳴って走り出した。



「好意を持たれる者は、決して全員には好かれることはないね」


俺が言うと、爽太郎は瞳を閉じてうなづいた。


「そんなことないもん?!」と言って優華は否定した。


「ひがむ、って言う言葉があるんだ。

 誰かをすっごくうらやましく思って、

 それを見返してやろうと少し悪い考えを持つことだ」


俺が言うと、優華は理解できたようで小さくうなづいた。


「だからね、ボクよりもすごいことをやってやろうと思ったんだろうね。

 だけど、方法がよくないよねぇー…

 人を悪い意味で驚かせちゃったら、

 騒ぎになることはわかっているはずなのに…

 みんなが楽しく思うことで、驚かせた方が数倍いいよ」


俺が言うと、爽太郎も優華も深くうなづいた。


「方法はもうわかっちゃったけどね!」


俺が言うと、優華はもろ手を上げて喜んだが、爽太郎は驚きの顔を俺に向けた。


「滑らないウレタン。

 証拠は残らない。

 僕たちは軽い」


俺が言うと、爽太郎はにっこりと笑った。


「手すりは今までよりも奥に深いからね。

 大きいソフトボールよりも奥行きがあるから、

 普通にすべるよりも早いかも。

 そういった工作が好きな人…

 文化クラブって…」


俺が言うと爽太郎は、「美術、書道、化学、考古学、ものづくり」と言った。


運動クラブは土曜と日曜に学校の体育館と校庭を開放して行なっていた。


文化クラブは放課後の午後5時半まで活動していた。


「ふーん…

 ひとりじゃないのかなぁー…」


「メイク、とか?」と爽太郎が言うと、俺はうなづいた。


「わかんないっ?!」と言って優華が怒り始めたので、俺がこと細かに説明した。


理解できたようで、優華は満面の笑みを俺に向けた。



「じゃ、ものづくりクラブに行って造ろうっ!!」


俺が言うと優華は喜んだが、爽太郎は驚いてしまったようだ。


「材料とか、いいものがあればいいんだけどね」


俺が言うと、「あ、それだったら…」と言って、ものづくりクラブの工作室には行かずに、用務員室に行った。


「山際さん、こんにちはっ!!」とオレたちがあいさつをすると、ほとんど老人に見える用務員の山際が笑みを浮かべてオレたちを見た。


そして、「おっ! 有名人がいたっ!!」と言って、俺の頭をなでてくれた。


「松崎君はもう子供じゃないなぁー…」と山際が感慨深く言ってくれたことをよく覚えている。


優華は自分のことのように喜んだ。



事情を説明すると、当然のように山際も知っていた。


教師に呼ばれて現場検証のようなものに立ちあったそうだ。


俺が何があったのか憶測で説明すると、「危険じゃないから簡単にできそうだな」と山際が言って俺たちの工作を手伝ってくれた。


ほんの三十分ほどで完成して、早速試運転に行った。



踊り場に立つと少し足が震えたが、まずは手を突いて感覚を確かめて、階段の中ほどから手を放した。


「おおっ!!」と言って俺はかなり驚いた。


考えられないほどのスピードが出たのだ。


だが、難なく廊下に着地した。


「少しスピードを緩めよう」と山際が言って、ベルトに細工した丸い球のネジを少し締めた。


そして手で回して動きが重くなっていることを確認した。


そして俺は、手すりのウレタンを見たが、傷もあとも残っていない。


「間違いなさそうだね」と俺が言うと、山際は笑みを浮かべてうなづいた。


再度踊り場に立って、手すりに座るようにして、今度はすぐに手を放した。


すると俺の体はゆっくりと手すりを滑って、難なく廊下に着地した。


そしてすぐにウレタンを見たが、今は少しくぼんでいたが、しばらくすると完全に元に戻った。


「じゃ、職員室に行こうっ!!」と俺が言って、みんなの先頭に立って歩き始めた。



俺の担任の女性教師の眉沢先生に事情を話すと、「そういうことだったの…」と言ってオレたちを笑みで見た。


もちろん、用務員の山際がいることが信憑性を高めた。


眉沢先生は近くにいた教頭先生に事情を説明して、手すきの教師と打ち合わせを始めた。


オレたちは帰ろうと思ったのだが、彩夏がいないので山際に礼を言って別れてから探しに出た。



まだ4時半を少し過ぎていただけだったのでなので、高速移動する幽霊は出ないだろうと思い、俺たちは工作室に向かって廊下を歩いていた。


「あっ!」と言って、優華が階段の踊り場を見た。


そして、俺の影に隠れてうしろから抱きしめてきた。


少し遠いのでよくわからないが、人ならざる風貌をしていることはなんとなくわかった。


「危ないから手すりを滑っちゃダメだよ」と俺が言うと、怖い顔をしていた者が驚いた顔に変わった。


「おっ! お化けが驚いたぞっ!!」と俺が言うと優華が、「あはははは?!」と妙な勢いで笑った。


「もう先生に説明したから。

 明日にはネタばらしされるよ」


お化けは前向きのまま後ろに下がって、上の階に上がって行った。



工作室に行くと、彩夏が上級生をにらんでいた。


「彩夏、帰るよ」と俺が言うと、「えっ?」と言って彩夏は不思議そうな顔をした。


「多分ね、もう出ないから」と俺は言って素早く、クラブ員たちの顔色をうかがった。


すると全員がぼう然として俺の顔を見ていたので、犯人はここにいる全員だと感じた。


「だったらいいんだけど…」と言って彩夏は素直に俺たちのそばに来て、工作室を出た。


この頃の彩夏は小さなことはあまり気にしなかったので、オレたちは何も説明しなかった。



翌日のホームルームで担任の眉沢先生から、お化け騒ぎの顛末を聞くことになった。


オレたちが下校した後に、懲りずに眉沢先生を驚かせようとしたようで、事情を把握していた先生は手すりを滑ってきた生徒の首根っこを捕まえて職員室に連れて行ったそうだ。


職員室にいた一部の先生たちは、「ウサギのお化けか?」と言って笑ったそうだ。


腰に下げた少し大きめの球が確かにウサギっぽいと思って俺も笑った。


~ ~ ~ ~ ~


「事情くらい説明しやがれぇー…」と言って彩夏は俺をにらんだ。


「聞かれたら言おうと思ってたぜ。

 それは当たり前のことだ」


俺は平然とした顔で言った。



この事件の時の心境を優華はこう語っている。


『ちがうちがうちがう! ただただ悲しい』


優華のこの心境がわからないでもない。


そして優華の今の心境に、俺が考えたことと同じ内容のものが綴ってある。


『拓ちゃんはお兄ちゃんじゃない。

 拓ちゃんはナイト様と思っても、

 拓ちゃんが遠くに行ってしまったので、

 拓ちゃんはお兄ちゃんでしかなく、ただただ悲しかった。

 生まれてたった二年しか違わないのに、

 これほど大きな溝ができてしまったことが、

 悲しくて悔しかった』


成長段階で大人だと認識されることが、オレ自身にも大きな成長になってしまった。


年相応の優華がその俺について来られなくなった。


それは、俺が爽太郎と語っていた時に、まるで妹のようにだだをこねたことなどによってよくわかる。


この状態が、俺が中学に上がるまで続いている。



「何ニヤついてんだ、ごらぁー…」と彩夏がケンカを売ろうとしたので、俺はすぐに説明した。


すると彩夏は怒っていた顔の眉を下げた。


「すっげえわかるな…

 爽太郎はもうすでに大人だったし、拓まで…

 俺の場合は勢いでごまかしていたようなもんだ」


彩夏の言い分もよくわかった。


背伸びをしていたわけではないが、俺も爽太郎も彩夏に頼っていた部分が大いにある。


しかしこの一件を境に、彩夏はのめりこむように菓子造りを始めた。


そして、料理番組のほかにドラマへの出演を始めた時に、俺と爽太郎に追いついてきた。


外の世界の大人を見ることで、彩夏は成長したようだ。


俺が中学を卒業するころまで、彩夏が俺たちのそばにいないことがよくあった。


よって、彩夏の知らない事件も数多くあったのだ。


「あーっ! もういいからっ!

 おまえだけが体験した事件のことを教えろっ!!」


「おまえ、テレビいらずだな」と俺が彩夏を茶化すと、無言でにらまれてしまった。



すると、爽太郎がやってきて、俺たちに手を振った。


「やあ、最近遅いな。

 まだ受験シーズンじゃないだろ?」


俺が言うと爽太郎は、「階段の幽霊話だよ」と意味ありげに言った。


俺はぴんと来たので、「ついに伝説になっていたんだなっ!!」と言って俺は大声で笑った。


爽太郎も認めるように、上品そうに口に手を当てて大声で笑った。


「で? 階段の怪談話はどんな様変わりをしたんだ?」


俺が聞くと、彩夏も興味津々で前のめりになった。


「血を流したウサギが満月の夜に

 滑らない手すりを滑って遊ぶ光景を見た者は

 ウサギになって月に行くってっ!!」


爽太郎は後半は半分以上笑いながら言うと、聞き終えたオレたちも大声で笑い転げた。


「SF要素もあってなかなか面白いなっ!!」


俺はさらに笑い転げた。


「だからきちんと話したわ。

 山際さんがまだ働いてらっしゃるから聞けばすぐにわかるし、

 その証拠も持っているって」


爽太郎が言うと、俺は懐かしく思って何度もうなづいた。



すると、携帯電話は電源を切っていたはずだったのだが、胸ポケットで振動した。


切ったつもりだったんだろうと思い、胸ポケットから出して電源を切った。


「おい、どこからだ?」と彩夏が嫉妬深い夫のように俺に言った。


俺が思ったことをそのまま言うと、彩夏は妙に照れた顔をして、「あ、あなた… ごめんなさい…」と若妻のように言って赤面したので、俺と爽太郎は大声で笑った。


「まあ、いいんだけどな」と言って、俺は電源を入れてメールの内容を読んだ。


彩夏はいいと言われたので、のぞきこんで俺の携帯の画面を見ている。


「同窓会かぁー…」「行くんじゃあねえぇー…」


まさに今の彩夏は俺の夫だった。


「俺はな、そんな心の狭い妻はいらねえ」と言うと、「あ、はい、ごめんなさいっ!」と彩夏はドジッ子若妻風に言って、拳骨を頭に当てて少しだけ舌を出した。


爽太郎は俺たちの会話がかなり面白いようで腹を抱えて笑っている。


「おまえ、本当に役者になった方がいいと思うぞ…」と俺が真剣な顔をして言うと、爽太郎も笑みを浮かべてうなづいた。


「へんっ! 菓子造りの腕が落ちるからやなこった」と彩夏は言ってそっぽを向いた。


「それは一理あるな…

 …いつだ?」


俺は携帯の画面を見て、その内容を確認した。


普通であればひと月以上先が妥当だろうが、二週間後の日曜の日付を指定している。


「ちょっと急だな…

 何かあるのかなぁー…」


俺が言うと、「俺も行くっ!!」と彩夏が言い出した。


「あ、それはありだな。

 おまえ有名人だし、特別ゲストで。

 みんなもきっと喜ぶだろうし、

 俺はあぶれた者たちと大いに語ろう」


彩夏は顔色を変えて、「うー…」と言ってうなり始めた。


「という俺たちの会話をこいつらは期待してんだよ。

 おまえたち三人は俺も含めて仲のいい有名人だからな。

 できれば四人で来て欲しいんだと思うぞ」


俺が言うと、爽太郎も彩夏も笑みを浮かべて拍手をしてくれた。


「あ、それ、送ってみよう…」と言って、俺はそそくさとメールを打って返した。


すると、待っていたかのように返信があった。


「どうしてわかったっ! だってさっ!!」と俺は笑い転げながら言った。


爽太郎も彩夏も俺に釣られたように笑い始めた。



すると怒った顔をして優華が部屋に入ってきて、かなり乱暴に椅子に腰掛けて俺をにらみつけた。


「なんだよ…」と俺が言うと、「楽しそう?」と言って優華はふくれっつらを見せた。


「今のおまえは妹でしかねえ…」と言うと、さすがに堪えたようで、「何の話かな?」と引きつった笑みを浮かべて聞いてきた。


「同窓会がある…」「行っちゃダメェ―――ッ?!」と俺の言葉を遮るように優華が叫んだ。


オレたち三人はまた笑い転げた。


全ての事情を優華に話すと、「絶対に行くもんっ?!」と優華は鼻息荒く言った。


俺の気のせいかもしれないが、俺の同窓生に何かあるのかと思い、優華に聞いた。


どうやら図星だったようで、優華は少し上目使いで俺を見た。


「俺を狙っているやつがいるんだな」と言うと、優華はこくんとうなづいた。


「ま、それもあるだろう。

 だけど、彩夏の魅力に勝てるほど、

 俺は光ってねえと思うんだが」


「千代ちゃんだもんっ!!」


優華は大声で懐かしい名前を口にした。


俺は少しうなづいて、「もし、男関係が真っ白だったら考えるかもしれないな」と言うと、優華は俺の言葉には答えず、上目使いで俺を見ているだけだ。


「なるほど、真っ白か…

 あいつにしては奇跡に近いな。

 だからこそ本気だ」


俺の言葉に、優華はまたこくんとうなづいた。


「じゃ、四人で行くって返していいんだな?」


俺が言うと、三人とも真剣な顔をしてうなづいた。


メールを返信したあとすぐに、幹事であるお調子者の友坂友二が喜びの返信をしてきた。


俺としてはごく普通に楽しみにしただけだったのだが、優華と彩夏は修羅場に向かうような気合の入った顔をした。



俺は今でも比較的交流のある小学校から大学までずっと一緒に通った赤木武に電話をした。


コールしているので携帯を切っているわけではないのだが、なかなか出ない。


ごく普通に手が離せないのか、もしくは携帯の画面に出た俺の名前とにらめっこしていると感じた。


第一声ですぐにわかるだろうと思っていると、『…やあ…』と妙に小さな声が聞こえた。


「都合が悪いんだったらかけ直すけど?」と俺が言うと、『あ、いや…』と言ってやはり歯切れが悪い。


「知っていること全部白状しろっ!!」と俺が叫ぶと、「事件だぁ―――っ!!」と言って彩夏が大声で叫んで喜んだ。


優華も楽しそうな顔を俺に向けている。



赤木はまずは俺にひたすら謝った。


言うなよと言われてすぐに話すやつはまず信用できない。


その間にいた赤木をかわいそうに思っていると、『連続放火事件だよ…』と赤木は申し訳なさそうな声で言った。


「どこまで聞いたんだ?」『松ちゃんが関わっていたって…』


「誰情報?」『後輩の三島洋子ちゃん』


―― 妹か… ―― と俺は思って、―― 家族に捜査情報を話すのは… ―― と思ったのだが、俺の発言は事件に直接は関係していない。


ただただ、三島巡査に交番の勤務について聞き、一番安全な可能性を示唆しただけだ。


三島巡査が何かの賞をもらったのかもしれないと俺は感じた。


となると、当然何が理由でもらったのかを説明することが必要なのだが、俺の名前をついつい出してしまった。


彩夏たちほどではないが、俺も地元では少々有名人なので、うわさはすぐに広がったはずだ。


地元で起こった放火犯の逮捕劇について詳しく聞きたいのだろうと思い、同窓会を開いてオレから聞きだそうという魂胆だろうと感じた。


「その件について、もし俺が関与していたとしても、何も話さんぞ」


『あー、そうだよね…

 松ちゃんならそう言うって思ったけど、

 ほかのみんなは何か企んでいるようなんだよ』


「犬塚千代」


俺が言うと、『はは、簡単にわかるよね…』と赤木は明るく答えた。



赤木に礼を言って電話を切って、幹事の友坂に電話を入れた。


そして赤木との会話の件を話すと、俺を怒らせないように低姿勢になった。


ここで俺が同窓会に出席しないとなれば、確実に中止になるはずだからだ。


「千代は何を企んでいるんだ?」


俺の言葉には相当な破壊力があったようで、友坂はついに黙り込んだ。



出欠については何も語らずに友坂との電話を切ってから、母に電話をした。


確実に情報通なので何かを知っているはずだ。


もちろん父母にも連続放火事件の話しはしていない。


そして予想通り、「帰ってきたら怒っちゃう?」と母が優華のように言ったので、俺は大声で笑ってから電話を切った。


母は今日、放火犯人逮捕に俺が関係していると耳に入れたようだ。


夕食の時は何も言わなかったが、きっと父に叱られるとでも思ったようだ。


同窓会についても友坂は最近それを耳にして企画したはずだ。



「交番に行ったら三島君に驚かれるだろうなぁー…

 やっぱ、それはやめておこう…」


俺が言うと、三人ははっと息をついて肩を落とした。


「三島洋子、優華は知ってるよな?」


俺が言うと優華は少し考えて、「あっ!」と言って、三島巡査との関係性を気づいたようだ。


「…すっごいおしゃべり…」と言って優華は嫌悪感満載の顔を俺に向けた。


「なるほどな。

 しかし、うわさの出所が特定できただけでも大収穫だ。

 学校の怪談と同じで、

 真っ先に確認すれば尾ひれがついてない分、

 なんてことないことなんだよな」


俺の言葉に、三人は笑顔を俺に向けた。



( 第二話 学校の階段で怪談事件 おわり )


( 第三話 6年3組の過去事件 につづく)



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