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 昨夜早く帰ってきたおかげで夜更かししなかった私は、しっかり眠って、早く目を覚ました。

 目覚めは爽快! 朝の光が清々しい! シュリオス様への感謝の念は微塵も薄らいでおりません! この思いの丈を、今こそお手紙にしたためるべし!!

 母が起きだすまでに下書きをすませて、それから庭師のところへ行って、手紙に付ける花を見繕っておけば、最速でお手紙を届けられる。


 ただし、起きたのが使用人に知られると、やれ着替えだ、食事だ、湯浴みはどうすると、邪魔が入るので、そっと起きだして、自分でカーテンを引き、ライティングデスクに陣取った。


「ええと、書き出しは、……この時期の時候の挨拶ってどんなのがあったかしら……」


 たしか蔵書室に、時候の挨拶集があったはず。でも、この部屋から出るには着替えが必要だし、着替えにはメイドが必要。家令に取ってきてもらうのも同様。私が起きているのが使用人に知れるのは本意ではない。


「時候は後回しにしましょう。では、本文ね! ……親しくない目上の人への正式なお礼ってどう書けば。……そうだわ、手紙の例文集が蔵書室にあったはず……」


 私はしばらく考えて、手に持ったペンを戻した。


 なんてこと……。お友達や知り合いに出すのと違って、失礼だけは避けたいと思うと言葉が出てこない。先に花を見繕うにしても、パジャマで庭に出るわけにもいかないし……。

 あら、いやだわ、昨夜寝る前に考えた恩返し計画が全滅だわ。そのために、こんなに早く起きたのに。どうしよう。


 部屋を見まわす。隅に置かれた裁縫籠が目に入った。

 今から取りかかれば、お昼までにハンカチにワンポイントくらいは刺せそう。感謝のしるしに添えるのはどうかしら。

 幸い刺繍は得意。真面目に修行を積んでいるもの! 夫や子の持ち物に刺繍を入れるのは、淑女の嗜みですからね!


 ジェダオ公爵家の家紋はどんなだったかしら。蔵書室に家紋集が……、て、そこまで必要ないわね。紳士の努めで手を貸した令嬢から家紋を刺したハンカチなんて届いたら、むしろ怖いわよね。恋人気取りとか思われたら、いたたまれない。

 下手なモチーフを入れるより、イニシャルでも刺しておいたほうがよさそう。


 鮮やかな緑の瞳を思い出す。


「よし、では緑の糸で。どんなデザインにしましょう。あのサンプラー、どこにやったかしら……」


 当初の予定とは違ってしまったけれど、これはこれでいいのではないかしら?

 早起きした分の時間を、シュリオス様のために何かできることが嬉しくて、ご機嫌で刺繍に精を出した。




 翌日、シュリオス様からお礼のお手紙が届いた。要約すると、「あなたの刺繍を見て、刺繍好きの祖母が、若いお嬢さんとおしゃべりしながら刺繍をしたいと言いだした。体が弱くて外出できない老人の相手をしに、ぜひ来てもらえないか」とのこと。

 おお、神様、機会をくださってありがとうございます! これでご恩返しができます!


 すぐに、「そちらの都合のよいときにいつでも伺います」とお返事を出した。

 そのお返事はその日のうちに届いて、「明日おいでください」と。

 いきなり明日!? と思ったけれど、いつでも伺うと言ったのはこちら。もちろん承諾のお手紙を出した。


 ……そして、今。どーんと豪勢な家紋入りの馬車が、来ています。こんな小娘のお迎えなのに!?

 及び腰で乗りこんだ。座り心地がいいのに、お尻の据わりが悪い。場違い感が甚だしい。


 窓から外を見ていると、どんどん王城に近づいていく。そんな一等地でありながら、門をくぐってからも道がいつまでも続いている……。ここ、全部庭よね!? どれだけ広いの!?


 馬車が停まった。窓から見える豪邸におののく。館というか、宮殿!?

 え? 来てよかったの? 社交辞令を真に受けすぎた? 私、世間知らずの痛い令嬢だったかも!?


 嫌な汗が噴き出してきた。

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