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「私、思いあまって、王宮の舞踏会で庭に誘って、植え込みの影で二人っきりになって抱きついたのよ。なのに、『社交に疲れたのだろう』って、ずっと背中を撫でてくれたのよ! 舞踏会が終わるまで、ずうううううっとよ!?」
え? 何もおかしくないわよね? それはそう思うと思うし、すると思う。ラーニア様が怒っているから言わないけれど。
子爵家の次男が、派閥の違う公爵家のお嬢様によくしてもらうなんて、そうとしか考えられない。それに、もしも私がシュリオスに抱きしめられて彼が動かなくなったら、疲れているのかなと、背中をポンポンすると思う。あるいは膝枕を申し出るとか。
「お顔に出ていますよ、お顔に」
ラーニア様に不満そうに言われ、思わず両手を頬に当てた。
「あなた方の場合、自信がない、というのとはまた少し違うというのもわかっています。ここぞというときは、どんなに味方が乏しくても、自分が正しいと思う行動を取りますものね。
謙虚すぎる、というのが近いのかしらとは思うのだけれど、その違いがわかるほど近しい者でなければ、卑屈と捉えるでしょう。
卑屈な者は、侮られます。公爵家の者として、それはなりません」
はっとする。
「マデリナさんがどれだけ素晴らしいレディか、あなたも知っているわね? そのマデリナさんに認められたとなれば、あなたも自信を持って迷わずに振る舞えるようになるのではない?
自信を持って振る舞う者は、侮られません。まずはそこから目指しましょう」
「はい! ラーニア様、マデリナ様、どうぞよろしくお願いいたします!」
「まあ。素敵な笑顔ね。それに綺麗なお声。発音も良いですわ。ご両親の尽力の賜ね」
クールビューティーな貴婦人に、素敵な笑顔でそんなふうに言ってもらえると、舞い上がってしまうー!!
「セリナさん、今日はあなたと打ち解けられたらと思って、お呼びしたの。家のことは、まだお義母様も私もいますから、ゆっくり慣れていけばいいですよ。まずは、このお茶を楽しんでもらえたら嬉しいわ。
あなたはタルトを好むと聞いたから、いろいろ用意させたの。いかが? どれがいいかしら?」
心遣いが嬉しい。感極まって、深々と頭を下げてお礼を言いたい! けれど、ここで畏まるのは、たぶん違う。素直に無邪気に喜んでみよう。
「わあ、ありがとうございます! 嬉しいです! ……どうしましょう。どれも美味しそうで迷ってしまいます。マデリナ様のおすすめはどれですか?」
「そうね……。梨はどうかしら? 料理長が、良い物が手に入ったと言っていたわ」
「ではそれをお願いします」
控えている侍女が、取り分けてくれた。
美味しそうな得も言われぬ香りが立っている。フォークで一口切り取り、口に運ぶ。ふわあ、相変わらず生地がサクッとしていて絶品ー! なんて美味ー! ああ、幸せ! 口の中で繰り広げられる神の慈悲に、うっとりだわ……。シュリオスにも食べさせてあげたい。
「こちら、シュリオス様の分もわけていただけませんか? こんなに美味しいタルト、きっと喜ぶと思うのです」
「ええ、もちろんよ。届けさせておくわね」
「ありがとうございます!」
嬉しい。明日のお茶が楽しみ! 案外甘い物好きだから、絶対、ほわ~ってお顔をするわ。無意識にこぼす無防備な表情がかわいらしいのよね……。
「シュリオスを心から好いてくれているのですね。嬉しいかぎりです」
マデリナ様の言葉に、お茶を噴きそうになった。
えっ? 何故そんな話に!? ううっ!? お二人の目が生温かいわ! どうして!?
思わず口を噤んで、自分が言ったことを反芻する。……もしかしてタルト!? タルトをシュリオスにも食べさせたいと言ったから!?
そ、そうかもしれない……。私も人がそんなことを言うのを聞いたら、きっと微笑ましいと思うわ……。
瞬時に顔が熱くなる。
二人の視線が痛くて、しばらく目が合わないように、お菓子とお茶を堪能するふりをし続けるしかなかった。




