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 夜会には必ず男女のペアで参加するもの。てっきり兄と行くのだと思っていたのに、公爵家の夜会に行くとは思えない格好でうろうろしている兄を見つけて、呼び止めた。


「お兄様、まだ着替えていらっしゃらないの?」

「なにかおかしいか? クラブに行くんだが」


 腕を広げて私によく見せつつ、おどけた仕草で自分の格好を見下ろしている。


「ジェダオ家の夜会はどうするの? 私に一人で行けと?」


 腹立たしくて、責める口調になってしまった。クラブで社交をしているなんて言っているけれど、実質、女性の居ないところで賭け事や飲んだくれて馬鹿騒ぎしているだけではないかと疑っている。そんなところより、公爵家での夜会の方が重要ではないかしら!?


「何を言っている。シュリオス様が迎えに来るのだろう?」

「えっ!?」


 だって、シュリオス様は主催者のご子息で、そんな方のパートナーに私がなるなんてありえない。あちらは公爵家で、こちらは伯爵家、身分が違うし、親族ですらないのに。


「セリナ、そのまぬけな顔は、人前でしてはいけないよ、特に今日は」


 兄が無遠慮に、ぐいぐいと人の顎を押し上げてくる。ああ、いけない、いけない、口がぱかっと開きっぱなしだわ。


「ああ、ほら、馬車の音がする。シュリオス様ではないかな。それは出掛けられる格好なのか? そうでなければ、急いで用意して、出迎えないといけないよ」


 私はあわてて玄関へと向かった。

 玄関ホールには、もう父や母が居た。ということは、先に連絡が来ていたのね!?


「私、聞いていませんわ」


 母の横に立って囁くと、母がちらりとこちらを見て、「そうだったかしら。ドレス合わせのときに話したと思うけれど」と言う。


 そう言われてしまうと、記憶があやふやだわ。あれこれしてもらっている最中にそんなことを話されても、受け流してしまったかもしれない。でも、シュリオス様の名前が出たら、いくらなんでも覚えていると思うのだけれど……。


「シュリオス・ジェダオ様がいらっしゃいました」


 家令の知らせに、背筋を伸ばす。

 背の高い人が入ってくる。ドキッとした。ぐるぐる眼鏡のいつものシュリオス様なのに、なんだか今日は颯爽としていて格好いい。夜会服のせいかしら。

 ……ポケットチーフの色や装身具の意匠が私とおそろい!? 本格的にパートナーの装いをなさっている!?


「ごきげんよう、ネレヴァ伯。それに、奥方も」

「ようこそいらっしゃいました」


 彼の視線(というか、眼鏡の向いている方向)が、両親から私へと移った。



「ああ、セリナ嬢、今日のあなたは一段と美しく、愛らしいですね」


 カッと頬に血がのぼった。

 お世辞以上の気持ちがこもっているように聞こえるのですがー! それも、かなり熱烈な感じにーー! 褒め上手ですね、シュリオス様!


「あ、ありがとう、ございます。ラーニア様が、用意してくださって……」

「ええ、祖母と二人で選んだのです。思った以上です。まるで花の精霊のようですね」


 うーわー!? うーわー!? シュリオス様とお二人で!? とっても誇らしげなお顔に、彼が誇らしくなるほど似合っているのだとわかって、嬉しいやら、もっと顔が熱くなってくるやら……。


 実を言うと私も、このドレスは私を花のように見せてくれると思っていた。薄緑のマーメイドラインは、瑞々しい茎や(がく)のようで、栗色の髪をさらに赤みがかって見せる。そう、まるで、咲き初めの花みたいに。


 んん、それにしても、得意満面なお顔が微笑ましい……。年上の男性をそんなふうに思っているなんて、絶対に言えませんが!


 大きな手が差し伸べられて、「セリナ嬢」と呼ばれる。どきどきして震えそうな手を、ゆっくりと乗せた。握り込まれて、もっとドキッとする。彼のぐるぐる眼鏡から目を離せない。


「シュリオス様」


 甘えた響きの声が耳に入ってきて、ぎょっとした。あれっ!? これ私の声!? えっ!? どうして私、シュリオス様を呼んだの!?


「はい、セリナ嬢」


 腰を抱かれて、すぐそばで顔を覗き込むようにして、甘やかに囁き返される。

 んあーーっっ!? ぶわーって全身が熱くなったー!! なんだか頭がふわふわするーーー!?!?!?


「お嬢さんをお預かりします」

「よろしくお願いいたします」


 なななななにか、やりとりが婚約者のようですね!? いえ、まったく違うのは承知しておりますが! 兄としか行ったことがなかったから、こんなの初めてなのです! これが普通なんですか!? こ、こんなに密着して、親密そうにしているのを両親に見られるの、恥ずかしー!!!

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