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「セリナ! いらっしゃい!」


 こっちよ、と皆に手を振られる。気が置けないお友達ばかりが揃っている。


「ごきげんよう、皆さん! ありがとう、チェリス、お茶会に招いてくださって」

「あなたったら、この頃ご無沙汰だったでしょう? 私こそ来てくれて嬉しいわ」

「少し忙しかったものだから」


 彼女の目がギラリと光る。他のお友達も似たり寄ったりだ。……そうよね。そう来ると思っていたわ。


「それよ、それ! 噂になっているわよ。さあ、座って話してちょうだい。私達には話してくれるわよね?」


 噂にさらされるのが嫌で、どこの夜会にもお茶会にも顔を出していなかったのだ。あんな家紋の付いた立派な馬車で毎回お迎えを寄こしてくだされば、嫌だって噂が立つもの。


 正式に招いていることを示してくださっているのはありがたいけれど、実はこっそり裏門からうかがうので全然かまわないと思っている。こんなふうに、いろいろ面倒なことにならないから。


 『仲良くしてもらっています』と得意顔で吹聴するには、相手が大物すぎるのよね。大きな権力のあるところには、大きな軋轢も生じる。何かあったときに、うちごときでは巻き込まれてグシャッと潰れる未来しか見えない。


 そもそも、ラーニア様にどのくらいお気に召していただけるかわからなかったし。『たいへん気に入られている』なんて匂わせておいて、その後パッタリ呼ばれなくなったら、それはそれで大きな負の評価になってしまうし。

 確たることは言えなくて、聞かれそうなところは避けてまわるしかなかった。


 でも、とりあえず今は、私とラーニア様は両思いだと判明したから! そこだけは、というか、そこを強調しないと、ジェダオ家のご子息たちとの関係を疑われるから、しっかりお話しするつもりでやってきましたよ!


 どう釈明しても、噂は噂として囁かれるだろうけれど、良い噂を流すのに、お友達の力を借りたい。もちろん、シュリオス様の株を上げるのも目的だ。


 私はかいつまんで話した。


「早くあなたが帰ってしまったあの日に、そんなことがあったなんて。そう。あーんなぐるぐる眼鏡で陰気な方なのに、とっても親切なのね」


 チェリスが、くるくると自分の顔の前で指を振る。


「もう、チェリス! 失礼よ! それに」


 眼鏡を取ったら美男子よ。と言おうとして、口を開けたまま黙り込んでしまった。……なんとなく先を想像したら、言ってはいけない気がして。

 美男子で高貴な血筋で、となったら、王女という婚約者がいても、お近付きになりたくて突撃する女性が出てきてしまうかもしれない。


 シュリオス様を煩わすのは本意ではない。なにより、顔や地位におびき寄せられる女性ではなくて、その人柄を見てくれる人に出会ってほしい。顔で品定めするような殿下と同じタイプとくっついてほしいなんて、どうしても思えなかった。


「それに、何かしら?」


 にやっとしたチェリスに先を促される。


「噂通りに、誠実で穏やかな方よ。伯爵家程度の小娘でも、きちんとレディとして扱ってくださるの」

「あら、それはポイントが高いわね」


 高位貴族の子弟の中には、身分が自分より低いと、あからさまに見下す方も多い。シュリオス様には、そんなところが一切ない。国内で最も古参で格の高い公爵家の嫡子なのに。それどころかレディ扱いしてくださり過ぎるくらい。


「ねえ、ねえ、フレドリック様には会った?」


 シンディが興味津々で聞いてきた。


「いいえ、一度も」

「なあんだ。あの御方と本当のところはどうなのか聞きたかったのに。ねえ、シュリオス様はなんておっしゃっているの?」

「まさか! そんなお話をしたことはないわ! 私はラーニア様のところへ刺繍をしに行っているだけなのよ。もし聞ける機会があったとしても、そんなこと聞けるわけがないではないの!」

「まあ、セリナならそうよねえ。いい子いい子」


 隣のチェリスに頭を撫でられる仕草をされ、皆がいっせいに笑う。


「んもう! なぜ笑うのかしら!?」

「あら、褒めたのに。あなたのそういうお人好しなところ、私は大好きよ」

「私もー」

「私もよー」


 チェリスの意見に便乗して、皆がクスクスと笑いながら手を挙げた。私は口を尖らせて不満を示し、ふん、と息を吐いた。


「はいはい、わかったわ。セリナは畏れ多くも殿下と、ジェダオ公爵家のご兄弟をめぐって恋の鞘当てをしているわけではないのね?」

「とんでもない! ラーニア様のお話し相手としてうかがっているだけよ」

「ねえ、でも、先代レディ・ジェダオの刺繍の会と言ったら、知る人ぞ知る超有力者の集まりよ。あなた、すごい方に認められたわね」


 ティアナが興奮気味に言ったが、私は横に首を振った。


「違うわ。そんなすごい集まりには出たことはないわ。本当にただラーニア様と刺繍してお茶をしているだけ」


 密かに、そんなところに呼び出されなくてよかったと思った。貴族の娘なら、有力者と面識を持てる機会を逃すべきではないかもしれないけれど、そんな凄い人達が相手では、歯が立たない。伝手を得るどころか、いたたまれない思いをするのが関の山だわ。


「なあんだ、残念。でも、もし知己を得たら、私のことも紹介してね」


 ティアナが言うと、皆が「私も」「私もー」と手を挙げた。それには頷いておく。貴族社会は持ちつ持たれつだもの。

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