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翌朝。

ブリジットは甲板へ出た。

「ダブリン、皆を集めろ!」

「へい」

ダブリンはうなずいて、船室へ駆け込んでいった。


「おらー! 野郎共、集合ぉー! 集合ぉー!」


声が響いてきて、ガンガンと鍋を叩く音がする。


船団員たちがダーッと走ってきて、甲板に並んだ。


「全員、集合しましたぁッ」

「我々はフロストランド軍の調査を受けてはいるが、訓練をしなくていいという訳ではない」

ブリジットは怒鳴った。

「停泊中でも訓練は続行する!」

「えー!?」

船団員たちはあからさまに嫌そうな顔をした。

「えー、じゃない! あたしらの訓練度をフロストランドの紳士諸君に見てもらうくらいの気持ちでいけ!」

「ウィース」

船団員たちは最初こそダラダラしていたが、次第にキビキビとした訓練モードに切り替わった。


「おわっ!?」

「なんだ、これ?」

ゴブリン兵たちが驚いてる。

いつものように乗船してきたのだった。

「おはよう!」

ブリジットが気付いて、挨拶をする。

「いつもの日課です、気にしないでください」

「そ、そうですか…」

ゴブリンの指揮官は若干、気圧されたようだった。

「我々は毎日訓練をしてまして」

「はあ、それは殊勝な事ですな」

ブリジットが言うと、ゴブリンの指揮官は社交辞令を述べた。

「おらー、おまいらもっと早く動かんかいッ!」

「うわっ!?」

突然、ブリジットが部下たちを怒鳴る。

ゴブリンの指揮官とその部下たちは驚いてビクッとなる。

「失礼、私たちは訓練では手を抜かないようにしているので」

「はあ、厳しいですな」


そんなやり取りをして、その日はゴブリン兵たちは帰って行った。

次の日も、その次の日も訓練に明け暮れる。

ゴブリン兵は最初こそ戸惑ったようだが、すぐに慣れたようだった。


「お嬢、食糧がなくなりやしたぜ」

ダブリンが申告してきた。

「む、そうか」

ブリジットは眉を潜める。

「じゃあ、仕方ない。缶詰を食べるか。あと、お嬢って言うな」

「いや、でも、缶詰食べちゃったら何のためにメロウの町まで行ったか分かんなくなりますぜ」

「あたしが許す!」

ブリジットは自信たっぷりに答えた。

「じゃんじゃん食べてしまえ!」

「えー、いいんですか?」

「いいって言ってんだろ! なんならゴブリン兵にも分けてやれ」

ブリジットはそう言って自ら缶詰を開けた。

魚の切り身が詰まっている。


ガスッ


フォークを刺して、切り身を持ち上げ口に運ぶ。

「うめえ!」

「女の子が豪快すぎますぜ」

「うるさい」


そんなこんなで買い込んだ缶詰を開けることになった。

「メロウの町特産の缶詰ですが、よかったらどうぞ」

ブリジットは袋をゴブリン兵に手渡す。

袋には缶詰がギッシリ詰まってる。

「い、いや悪いだよ。こんなに」

ゴブリン兵の指揮官は言ったが、

「遠慮は無用です。エリンがケチくさい貧乏性なんて思われたら困りますからね」

ブリジットは冗談を飛ばす。

「はあ…」

「では、訓練がありますので!」

ブリジットはそう言って部下たちの方へ行く。

自分も一緒になって訓練に参加する。

いつもの光景だ。



「……バカなのか、コイツら」

ゴブリン兵の指揮官はつぶやいた。

ゴブリン兵は全員、調査も忘れてエリン兵たちを見ていた。

「バカだあ」

「うん、バカだあ」

「ワケわからん」

「……だけんど、憎めねえかも」

「バカ、おめ何言ってんだ」

「あいづらは侵略者だぞ」

「んだ、気を許しちゃなんねーだ」

「……もちろん、気を許すなんてあっちゃなんねーだ」

ゴブリン兵の指揮官は言った。

「んだども、悪いヤツらじゃねーだかな」

ポツリと付け加える。

「え?」

「はあ?」


ゴブリン兵も、エリンとフロストランドが既に協定を結んだ事は知っている。

だから、この行為は協定違反だというのも分っている。

いつまでもエリン船を引き留める訳にもいかない。

この辺が潮時だ。


「ふん、そろそろ限界か」

ゴブリン兵の指揮官はため息をついた。

「おい、あれを用意しろ」

「へい」

「ガッテンでさぁ」

ゴブリン兵たちが、ずだ袋を持ってくる。

「オレらの意気も見せてやるだよ」

「へい」

指揮官が言うと、皆、うなずいた。



次の朝。

「皆さん、おはよう!」

ブリジットが挨拶する。

ゴブリン兵たちはいつもより早く甲板へ上がってきた。

「おはようだべ」

指揮官が挨拶を返した。

「早くから精が出るだな」

「ええ、ウチらはバカしかいないけど、訓練量だけは他に負けないと思ってますから」

ブリジットはワハハと笑った。

「ホントにバカだ」

「え?」

「オレらの言い分なんぞ無視して通っちまえばいいのに」

「はあ」

「これ、もっていけ」

ゴブリン兵はずだ袋をブリジットへ渡した。

「な、なにこれ?」

「オレらの里で取れた芋だぁ」

指揮官が言って、笑う。

他のゴブリン兵たちも同じように笑っている。

初めて見せた笑い顔だ。

「缶詰のお返しだべ」

「あ、ありがとう」

「もう行っていいだよ。疑いは晴れたっつーことで」

指揮官はそう言って、

「おめーら行くぞ」

「へーい」

さっさと小舟に乗ってグレムリンへ戻って行った。


「バカモン!」

大氏族長のリアムは怒鳴った。

「すみません」

ブリジットは素直に頭を下げている。

「船団員を守るための措置だったんだ」

「フロストランドの言うことに付き合う必要はなかっただろ」

リアムはブチブチと文句を言った。

リアムは自分が人々を引っ張って行くより、各氏族勢力の意見調整をしてきた人間だ。

そのせいで自分の意見というのが弱い。

ちょっとした事でくよくよ悩み、文句を言うクセがある。

「それは得策じゃない」

ブリジットは食い下がった。

「フロストランドの連中ともめ事を起こせば、エリンとこれから先、友好関係を築けなくなる」

「むむむ」

リアムは唸った。

「でも、ゴブリン族だろ。雪姫勢力とは別組織だろ」

「よく調べてるねぇ」

ブリジットは呆れている。

「ゴブリン族だとしても同じ事だよ。彼らと仲良くしなければエリンの未来は暗い」

「ふん」

リアムは視線を逸らした。

「エリンの将来を考えたら、下らない小競り合いになんか構ってられない」

ブリジットは断言した。

もちろん黄太郎の受け売りではあるが。


「それでさ、思いついたんだけど、ゴブリン族の土地って里芋とか山芋とかが特産なんだって」

「ふん、それを買おうってのか?」

「話が早いね」

ブリジットはうなずいた。

「代わりに小麦粉とかを売ればいいよ」

「うーむ」

リアムは考えている。

打算を弾いてるのだろう。

「モーリアンがあれば海の交易ができる。

 メロウの町の海産物、ゴブリンの土地の芋。

 ウィルヘルム、クリントの小麦粉。

 アルバの石灰、メルクの瀝青。

 遠くの物を運んで交換する。

 これはエリンだから出来ることだ」

ブリジットは一気に淀みなく言った。

「うむ、分った」

リアムは折れたようだった。

「……大分、成長したな」

「え?」

「私は嬉しいぞ」

リアムはちょっと涙ぐんでいるようだった。

「父上、大げさだよ」

「いや、いずれは婿を取ってお前が大氏族長に……」

リアムはテンションが上がってきた様子だ。

「まだ早い、そんなの!」

ブリジットは慌てて逃げるように大氏族長の部屋を出た。


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