04.舞踏会にて 前編
ベルガー様に剣をもらったあの一件から、報酬の受け取りや何か申請がある時以外はギルドにあまり顔を出さないので、知り合いという知り合いは増えなかった。だが、体を動かしストレス発散という充実した日々を送れていた。
受付嬢以外と話すことはなく、あのおっちゃんもお酒を飲んでいるところをよく見かけるが、特に関わりはない。ベルガー様の姿はあれきり見ずに6年が経った。
◇
本日私はストレスMAXデーなり。鬱屈としながら、私はちびちびドリンクを飲んでいた。
そう、ここは舞踏会である。
親の挨拶回りにも(一応)ついていき、妹と比べられ、両親にも出来損ない扱いされる一連の作業が終了し、やっと1人になれたところである。勿論壁の花となることに精を出している。
というかもう帰りたい。1人で先に帰ろうかな、どうせ話す人もいないし、やることはやったし。舞踏会が無かったら今日もギルドで遊び(?)放題だったのにな。
と考えていたらざわ、と空気が変わった。王族の方々が入場されたのだ。その中にはベルガー王子の姿もあった。
久しぶりに見たわ。あの頃よりも御立派になって。と思っていたら、ぱちりと目が合った。
わっ!!!
思わずバッと目を逸らしてしまった。しまった!やらかした!これは失礼に値する!
父に叱られたらどうしよう、と見ると談笑しているようでほっとした。
そのままベルガー王子の方を見直すと、まだこちらを見ていた。
メイクで隠したはずだけど、傷が見えてしまっているのかしら、と変な汗が止まらない。
誤魔化すように微笑むと、にこり、と返された。
「「「きゃーーーーーー!!!」」」
女子達の黄色い声が上がった。
私とベルガー王子の間には距離があったため、その間にいた女子達は、私に微笑まれた、いいえ私よ!と言い合いしていた。
そっか、そうだよね。私と目が合ったわけじゃないんだわ。
自意識過剰で恥ずかしいような、安心したような。そんな気持ちをかき消そうと、夜風にあたるためにテラスに出た。ベルガー様はもみくちゃにされていた。
テラスに出ると、庭に繋がる階段を見つけたので、落ち着くまでは時間を潰そうと庭に降りた。
そよそよと風が吹き、植物が丁寧に手入れされていて、とても穏やかな環境だった。ふーんふふーんふふふふーんとのんびり鼻歌を歌っていたら、クスクス笑い声がした。
嫌な予感がする。
「どなたですか」
と振り向くとベルガー王子が立っていた。
「ベルガー様でいらっしゃいましたか。失礼しました。では」
お辞儀をして立ち去ろうとしたら、
「まって」
と腕を掴まれた。
やめてください私は呑気な鼻歌を聞かれて恥ずかしいんですと思ったが、王子様を蔑ろに出来ない。
聞こえないように私はため息をついた。
「ここにいらっしゃって、大丈夫なんですか?」
「ああ、上にいるとすごい人だからね。避難してきちゃった」
普段から舞踏会などの人が多いところは好きじゃないようですから、納得です。
「ねえ、君の名前を聞いてもいいかな?」
ベルガー様はフランクに話しかけてきた。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした。アーノルド家の長女、クロエと申します」
と言うとベルガー様は、うん知ってるとにっこり笑った。
あら、意外。やっぱり傷のことで知っているのかしら。
そこではたと気がついた。
もしかしてベルガー様が呼び止めた理由って傷について聞きたいだけなのでは?きっとそうに違いない。それなら時間を取らせるわけにもいきますまい。
「ええと、この顔の傷はですね、私が6つの時ガンゲというモンスターに「ストップストップ!な、なんで傷の話をするの!」
ベルガー様は、すごく慌てていた。
「なぜ、って……私を呼び止める理由が傷について以外思いつかなかったので……あ、体に付いてる傷の方がいいですか?と言っても脇腹あたりにザッと入ってるので「ストップストップ!!!なんでそんな赤裸々なの!!!」
ベルガー様は顔を真っ赤にしていた。
「舞踏会やお茶会で私に話しかけてくる方は、その話以外されなかったので」
私の発言に、今度は王子の顔がさあっと青くなった。赤くなったり青くなったり、忙しない人だ。
「それは……ええと、嫌なことではないのかい?」
「ええ、まあ嫌でしたけど。慣れましたよね」
と返すと王子様は黙り込んでしまった。
この話題はどうやら話したいこととは違うらしい。でも他に何を話していいかわからない。
「傷のことではないのなら、なぜ呼び止められたのですか?」
わからないなら、失礼な発言をする前に聞くことは大事である。するとこんなことを言ってきた。
「クロエ様が魅力的だったので、つい」
魅力的!
誰にでも言ってるんでしょそんなこと!
照れるよりもそんなことを考えてしまった。だって今まで醜いと言われこそすれど、魅力的だなんで言われなかったので、疑うに決まってますよね!……お世辞でも嬉しいですけど。
「それはありがとうございます。では」
ぺこりとお辞儀をして動こうとした。
「ちょちょちょっとまって、なんでさっきから立ち去ろうとするの!」
ベルガー様にまた腕を掴まれた。
「用件は伺ったようですので」
それに人がいるのは嫌なのでは?と思ったが、口には出さなかった。
「用件って……」
としどろもどろとしているベルガー様を尻目に立ち去ろうとすると
「あのさ!」
とベルガー様が叫んだ。
「はい?」
「この舞踏会ってなぜ開かれたか知ってるかい?」
「いえ……」
他者と滅多に話さないので、顔さえ出していればいいと考えていた。だから内容なんて知ろうとしたことがなかった。
首を傾げていると、ベルガー様は言った。
「実は、俺達王族の婚約者を探すためなんだ」
ああ、だから今日はいらしていたんですね、と納得した。
「それで……俺の婚約者になってくれませんか?」
ベルガー様は爽やかにはにかんでいた。
「え、」
ええええええ!!!
やっと、お嬢様パートです。
いちゃいちゃ……できるのかしら?
読んでくださりありがとうございます!