10.湖
【注意】虫を想起させる場面があります。
次の日。目的地に行くために、また歩き通しだったが、不意に甘い匂いがするようになってきた。
「あま……なんだこの匂いは」
「奥に行くに連れてつよくなってる気がするっす〜」
熟れたメロンのような香りだった。
「もう近いぞ」
「ベル〜まさかとは思うっすけど……どんなモンスターか聞いてるっすか」
「モーゲだぞ」
「うわああ!ベル!私がそういうモンスター苦手だって知ってて黙ってたっすね!」
こんなにリサが慌ててるのは珍しい。が、気持ちはわかる。見た目が、ちょっと、苦手な人は苦手なモンスターなのだ。
モーゲとは、ちょっと大きめの蝶みたいなモンスターである。羽の鱗粉がモーゲの餌となる花以外を枯らしたり弱らせるため、増えすぎると環境問題に繋がることがある。ただし、この餌となる花は、匂いの通り味も甘いので、普通に採取して蜜を搾り、甘味として食べることもある。
「遠方から攻撃するんだから大丈夫だろ?」
「…………こういう時は今まで以上に魔法使えて良かったって心から思うっすね」
リサがげっそりした顔をしていた。
「攻撃してくるわけじゃないんだけど、逃げると他で巣を作るから厄介なんだよな……」
「がははは!そこは俺様が凍らせてやるから安心しろって!」
正直私もモーゲ系のモンスターは慣れたとはいえ得意ではないので、ダズが心強く見えた。
あれ?でもモーゲって、わりとどこにでもいるから、討伐依頼は来るにしても原因解明依頼は来なくない……?と思った時、匂いが一気に強くなった。
「あ"ま"!!!」
鼻がもげるかと思った!
ちらほらとモーゲが姿を現すようになったので、倒しながら進むと視界が開け、湖に出た。目につくところほぼ全てにモーゲがいた。それはもうびっしりと。鳥肌ものだった。
「うぎゃあああ無理っす!歩いてくる時に倒してるのでも鳥肌止まらなかったんす!おえ!……うっ……ううっ……しんど……ぐすん」
リサは早く全てを凍らせて倒させてくれ、とガチ泣きしている。ちょっとかわいそうだ。
「おい、どういうことだ……異常すぎるじゃないか」
ベルも驚いていた。
「ダズ、なるべく広範囲で凍らせること出来るか?」
「俺様に任せろって!何匹か逃がしちまうかもしれんが」
「かまわん」
「アインフリーレン」
ピシッとモーゲ達が動きを止めた。宙を飛んでいたヤツはゴトリと落ちて砕けて消えた。
「さて、割っていきますかな」
「うわーん!物理っすか!ここで見てちゃダメっすか!」
「いいけど……1人で大丈夫か?」
「無理っすうううぅぅううう」
ということでリサは私についてきた。
「目瞑ってていいから、肩に手を置くか、袖捕まってるかしてろよな」
「ありがたいっす〜!助かるっす〜!」
ひとまず落ち着いたみたいだが、見るのが苦手なら見ないのが1番だろう。動かないモンスターを倒すのは簡単なので、多少動きづらくても問題ない。
「全部倒したらお花持って帰りましょうっす〜!売れるっす!食べてもいいっすけど、この光景見たら食べたいとは思えないっすよね……知らぬが仏っす……」
甘いものが苦手でなければ、誰しも一度はこの花の蜜を使ったスイーツを食べたことがあるだろう。
スポンジの生地に練り込んであったり、コーティングとしてかかっていたり、パンケーキにかかっていたり。私はアーモンドケーキに風味として混ざっているのがとても好きである。
つまり、とっても美味なのである。
「美味しいから好きなんだけどね……」
「お、オレガンって甘い系平気っすか?今度メリーも誘ってスイーツ食べに行かないっすか!?ついでに荷物持ち頼むっす!」
「あはは、荷物持ちが目的だろそれ。でも僕で良ければいいよ、行こっか」
ベルガーとのデート予定に加えて、女子会の予定も出来てしまった。嬉しい。
にしてもそこらじゅうに花が咲いている。モーゲさえいなければかなり綺麗に見えるだろう。
「あ、オレガン!右側むちゃくちゃ花の匂いが強いっす!」
リサは目を閉じている分匂いがわかるのだろう。それにしても右側……?
「右側って……湖だぞ」
「え!?」
広い湖が広がっているばかりである。
「なんかあるのかな……確認してみるからちょっと待っててくれ」
と言ってリサをその場に待たせ、湖に近付いた。
特に何かあるようには見えない。覗き込んだその時だった。
ずるっ
何かに袖を引っ張られ、湖にぼちゃんと落っこちてしまっもがもがぶくぶく。
"やっと人が来てくれたのネ"
と聞こえたかと思うと、ずるんと口の中に何か潜り込んできた。うぉえ!苦し!
「かはっ!げほげほ……っ、あーびっくりした!溺れるかと思った!」
慌てて水面に出ると、3人に見下ろされていた。
「だ、大丈夫っすかあぁああ」
リサは大泣きしている。1人で待たせてごめんて。
「がはは!おまえおっちょこちょいだな〜!」
ざばーんとダズが持ち上げてくれた。服が水吸って重かったのでとても助かる。
「リサ、火出せるか?俺薪集めてくるから」
「ううぅ……あい……」
リサは火を出してくれて、ベルとダズは薪を集めに行ってくれた。ありがたい。
「リサごめんな、1人にしちゃって」
「それは大丈夫っす……それよりなんで湖に入っちゃうんすか……。なんかあったんすか」
何、か。あれはなんだったんだろう。聞こえた声は幻聴かもしれないな。苦しかったのもきっと水を飲んじゃったからに違いない。
"そんなわけないじゃない、おばかさんネ"
「誰!?」
「なななななに急にどうしたの!?」
リサがびくついていた。
「今声がしなかった?」
「怖いこと言わないでよ!」
半泣きになってしまった。いつもは気丈なのに今日はちょっと参っているらしい。
"今出るわネ"
と聞こえたかと思うと私の胸がぱーっと光った。
「なんだこれ!」
「なん……!?な、何が起こってるっすか!」
あまりの眩しさに2人とも目を瞑った。
恐る恐る目を開けると、大きな白い猫がいた。にゃーんと鳴いた。
「ご機嫌よう。私はケイシー。よろしくネ」
「「どわーーーっ!!!」」
2人で腰を抜かしてしまった。
なんだ騒がしいなと帰ってきた2人も
「「どわーーーっ!!!」」
同じ反応をしていた。
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