09.火守り
もうそろそろ交代では!と飛び起きたら、火の番をしていたベルと目が合った。ふはっと笑った顔が可愛い。
「交代なら起こしてくれよ」
私も火の側まで行った。
「よく眠っていたからね。起こすのが忍びなくて」
周りを見ると、双子組も一緒の毛布に入ってぐっすり眠っていた。
それからパチパチと燃える火を見ていた。しばらくお互い黙ったままだったが、唐突にベルが口を開いた。
「聞いてくれる?最近俺ね、婚約者が出来たんだ」
おっと、なんだか盗み聞きをしている気分だ。だが、どんな話がされるのか気になって続きを促してしまった。
「聞くのが僕でいいのなら」
「あの双子に話しても揶揄われるだけさ。オレガンなら、そういうことはしないだろ?」
そりゃあまあ……自分のことですからね。
「しないよ。それで、今から僕は惚気を聞かせてもらえるんだね?」
「惚気……そうだね。これは惚気だ。初めてなんだ、そういう人が出来たのは」
ベルは嬉しそうだった。
「ほとんど毎日会いに行って、少しおしゃべりをして帰ってくる。それだけなのにね、とっても楽しいんだ。次は何を話そうかなって考えてる。俺はいつから乙女になったんだ」
ベルはクスクス笑っていた。
「彼女ってば本当に可愛いんだ。容姿にコンプレックスがあるみたいなんだけど、それも愛おしくてね。ギルドにいたら気にならないようなことなんだけど、やっぱり女性は気にしてしまうのかな。どうにか気にしなくていいよって伝えられたらいいんだけど」
その気持ちすごく伝わってます。今までの周りの目や陰口もあって、私が自信がないだけで……というかそういう風に考えてくれていたんだなあ。すごく嬉しい。
「あ、もちろん可愛いのは容姿だけじゃないからね!」
べた褒めしてくれてニヤけてしまう。顔が見えなくて良かった!
「このピアスも、彼女がくれたんだ」
と自慢げに耳をこちらに向けた。
「似合ってると思うよ」
「彼女が選んでくれたんだから当たり前だろ。でさ、今度休みができそうだから、お礼も兼ねてデートに誘ってみようと思うんだけど、どこが良いと思う?」
突如舞い降りたデートのお誘いに飛び上がりそうになった。でも今私はオレガンなのよ、そう振る舞わないと。
「僕は彼女のことを知らないからなんとも言えないな。ベルの好きなところに連れて行ってみたらどうだい?」
ベルの趣味を共有してみたくて提案してみた。
「俺の好きなところ……体鍛えるのが好きだから、休日は筋トレや剣の稽古ばかりしていてな……後はクエストとか……だから考えておく」
体は程よいしなやかさがあるのに、思ってたより筋肉バカのようだ。私もクエスト楽しいから気持ちはわかる。
「それなら、直接聞いてみたらいいよ。その方が、きっと楽しい」
「そうだな。そうだ、オレガン、お前会ってみたくはないか?」
ぎくりとした。私はオレガンと同一人物なので、会うことは出来ない。
「い、いや〜僕はいいかな。いつか会えたら嬉しいと思うけど、水入らずのところ邪魔したくないし、緊張しちゃうよ」
「そうか。向こうも会いたがっていたから、いつか会ってくれな」
私はうん、と言えずに曖昧に誤魔化してしまった。
時間が経つに連れて私がオレガンだって言いづらくなってることに気がついた。
もしかしたら、こんなおてんば娘は願い下げだ、と婚約破棄されてしまうかもしれない。そう考えると益々言い出し辛くなってしまった。
ずっと内緒のまま、ひっそりギルドを引退するべきかもしれない。だが、しばらくは、このまま楽しんでいたいなあと思ったのだった。
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