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お前ら全員静かすぎる!  作者: ぷにこ
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第7話



「結局、街まで連れてきちまったな」


「……はあ、……はあ……」


「おい、大丈夫か?とりあえず、中に入ろう」


 無事に街まで帰ってきた俺達は、ひとまずギルドの中へと足を踏み入れる。テーブルを拭いていた受付嬢さんが俺の背中によじ登るムーの姿を見てあっと声を上げた。


「おかえりなさい。その子……魚人種ですよね?わあ、かわいい。この子、どうしたんです?」

 

「あ、あぁ。えっと……拾ったというか、何というか。森で懐かれちゃって」


「人懐こい子もいるんですね~。ポロの実食べるかな?」


 受付嬢さんがテーブルの上にあった果物を手に取ると、ムーは俺の背中から飛び降りてテーブルの下へ潜り込み、するりと椅子をくぐり抜けて受付嬢さんの傍に顔を出す。どうやら彼女はまだまだ元気いっぱい。ついでに食欲旺盛のようだ。


 だが、こっちの二人は……


「……」


 ヘレナはぐったりと座り込んで息を切らし、ロココはギルドに入るや否や入り口傍の長椅子に倒れ込んで動かなくなった。二人はあまり、長い距離を走ったりするのは得意ではないようだ。まあ、無理もない。主に後衛となる魔法系のクラスでは、基本的に座学が中心で体を鍛えたりはしないらしいからな。


「二人とも、お疲れのようですね。ひょっとして何か強そうなモンスターでも出ましたか?」


「そう、そうなんですよ。聞いてください。実は――」



「――魚人種のガキを拾ってきた、だァ?」


 俺の声は、ギルドの奥で酒を飲んでいた老人――もとい「呑んだくれジョージ」の気だるげな声に遮られる。「あれ」は、いつもああして酒ばかり飲んでいることで有名な人物。若者たちの間ではあまり関わらないほうが良いと密やかに避けられている変わり者の爺さんだ。


「てめ~ラ、知らねェーのかよ。魚人種ってのァ、怖ェ~んだぜ。魚人種はな、水を呼ぶんだ。雨を降らせて、津波を引き起こすんだよ。街が沈むぞ。アクア・アルタの再来だァ。てめ~ラのせいだぜェ~エッヘッヘヘ。ヒック」


「も~、ジョージさん。またそうやって新人さんを脅かして」


「嘘だと思うかァ~?そう思ってるうちは幸せだろうなァ~ッヘッヘッヘ。うぃ」


「……アクア・アルタ。ですか……」


 それは、2000年以上前にこの地を襲ったとされる伝説の大洪水。滝のような雨が降り注ぎ、海からは山のような津波が押し寄せ、いくつもの国が水底に沈んだという。そうして元々一つであった大陸そのものが七つに割れ、現在の七大陸が生まれたという話だ。


 この件に関しては記録がほとんど残っていないため詳細は不明であるが……今も海の底に眠っているという伝説の大海獣『アクィラ・マリーナ』の仕業だという説もある。


 アクィラ・マリーナは無数の触手を持つ怪物であるという伝承から、恐らくは魚人種の祖先にあたる存在だと考えられており、このことから魚人種も同じ力を持っているのではないかと言われているのだ。


「(……まさかな)」


 無邪気に果物を頬張るムーを横目に、ごくりと唾を飲む。


「っとと。そういえばモンスターが出たって話でしたね。詳しく教えて頂けますか?もし変異種や上位種がダンジョンの外に出てきたとなれば、討伐依頼を出す必要がありますので」


「は、はい。えっと……上位種とかではないんですが、アンデッドが出たんです」


「……アンデッド?」


 受付嬢の顔から、笑顔が消える。


「もしかして、スケルトンですか?」


「え?あ、はい……スケルトンです。それも、一体や二体ではありませんでした」


 俺がそう言うと、受付嬢は「あちゃ~」といった具合で頭を抱え、ジョージは何故か大笑い。何かまずいことを言ってしまっただろうか。いやしかし、これは報告すべきことであろう。


「あの。もしかして、何かあったんですか?あの森には、スケルトンはいないはずですよね?」


「ええ、まあ……そう、ですね。いなかったんです。つい、この前までは」


「というと?」


「いいですか?これから話すことはくれぐれも内密に。これはまだ一般には公開されていないことなのですが……実は、つい先日、古代樹の森に新たな扉が出現してしまったようで。五つ目となるダンジョンが生成されたのです」


 その言葉に、ぎょっとする。同時に俺は、あの森にスケルトンが居た理由というものを理解した。


「となると、そのダンジョンから……?」


「はい。その通りです。闇属性の瘴気は動植物に悪影響を与えるので、ファーストアタックの準備が整うまで封印障壁でその辺り一帯を隔離してあったはずなんですが……どうやら、想定よりずっと早く封印が破られてしまったようですね。早急に手を打たないと……」

 

「誰かが近くでディスペルでも唱えたんじゃねェか?ヒヒ」


 その言葉に、ぎくりとしてしまう。


「まさか。ありえません。確かに理論上はディスペルで封印を破ることも出来ますが……必要な魔力の量が多すぎます。魔術師団を動かしたならまだしも……それこそ、先生方でもない限りは不可能でしょう」


「ヘヘヘ。あの老いぼれ共が城から出てきたとなりゃァ、そりゃ一大事だな。――案外、新人の仕業かもしれないぜ?」


「も~。冗談やめてくださいよ。そんな逸材を私達が見逃すはずないじゃないですか」


 嫌な予感がする。ディスペルっていったか?あのジジイ。それって、ひょっとして……俺達の仕業じゃないだろうな。いや、そんなまさか。ありえないさ。受付嬢さんもそう言ってる。ありえないよな、ヘレナ――と無言の視線を送った俺は、ぎょっとして目を見開く。



「……、……~……っ!?」


 

 その表情は、いつになく動揺しきっていた。







「そ、それじゃ俺達、ちょっと大図書館行ってくるんで!」


「はーい。またのお越しを」



 ぎこちなく頭を下げ、慌ててギルドを後にするリヒトとヘレナ。その後ろについていくロココとムー。それら四人をにこやかに見送った受付嬢カトレアは静かに目を細め、ふうとため息をひとつ。



「……どう思います?ジョージさん」


「どうもこうもねェだろ。少しは隠す努力をしろってんだ」


「ふふふ。あそこまで分かりやすく動揺されてしまうと、こちらとしても申し訳ない気分になりますよね」


 ジョージは手にした酒瓶の中身を飲み干し、最後の一滴を舌に垂らした。


「そんなことより、よォ。あれ(・・)はどーすんだヨ。もし街に入られたら、まずいことになるぜ」


「大丈夫ですよう」




「――来るとすれば、正門。ノーチラスくんを信じましょう」

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