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お前ら全員静かすぎる!  作者: ぷにこ
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第4話






――古代樹の森。



 それは、俺達が暮らす魔導国家ベスティエラを囲む大森林。現在確認されているだけでも四つのダンジョンを内包しており、数多くのモンスターが入り交じる危険地帯であるのと同時に、多種多様な植物が生い茂る素材の宝庫でもある。



「さて……と」


 草むらを掻き分け、目的の品であるアタタカ草を探す。


 アタタカ草は、大陸全土に自生している薬草の一種。味はピリっと辛く、食べると体がポカポカ温まる薬草で、鼻にツンとくるその風味には愛好家も多い。森の中でも特に日当たりのよい場所に生える草である。


 収穫時期を迎えたものは葉が赤く染まるため、見つけるのはそう難しくないが……見た目の似ている薬草には注意が必要だ。


「あった。……うん、いい色だ」


 見つけたその葉を摘み取り、ポーチに仕舞い込む。


 これで十五枚目。依頼の内容は、アタタカ草の葉を二十枚集めてほしいというもの。俺一人でもすぐに集められそうだ。これなら、皆で手分けして探す必要もなかったかもしれない。ロココとヘレナもそれぞれ探してくれているだろうから、そろそろ合流するとしよう。


「おーい、ヘレナ」


「ふぇぁっ!?」


 ちょうど近くでアタタカ草を探していたヘレナは、ただでさえ小柄なその身をさらに小さく縮こまらせて振り返る。その手には、八枚の赤い葉っぱが握られていた。


「……その……ま、まだ、これしか……」


 広げられたそれを見て、俺は違和感を覚える。よくよく目を凝らして見ると、アタタカ草ではないものが混ざっている。


「これ、オオベニだな。これも、こっちも。似てるけど、別の葉っぱだよ」


「ええっ!?……ごめ、なさ……」


「あ、いや、大丈夫。大丈夫だよ。実はもう、必要な分はほとんど集め終わったからさ。そうそう、オオベニの葉っぱとアタタカ草は間違えやすいんだよな。わかるわかる。よく見ると、ほら……先端の形が違う。オオベニは尖ってるけど、アタタカ草は丸いんだ」


「ぁ……ほんと、だ……。全然、気づかなかったです」


「ええと……アタタカ草は、三枚か。これだけあれば十分だな。それで、ええと……あれ?ロココはどこ行った?」


 ヘレナは辺りを見渡し、困ったような表情を浮かべて俺を見る。ぐるりと見渡した限りでは、その姿は見当たらない。どうやら、探しに行く必要がありそうだ。


「じゃあ俺、探しに行ってくるから。ちょっとここで待っ――いや、一緒に行こう。わざわざバラバラになる必要はないしな」


「は、はい……」


 ここでヘレナを一人置いていって、ロココを見つけて戻ってきたら今度はヘレナが居なくなっている、なんて状況になったら大変だ。なるべく、一緒に行動しよう。ヘレナが集めてくれた三枚のアタタカ草を受け取ってポーチに仕舞い、俺達は共に歩き出す。


「とはいったものの……どこを探したものかな。そう遠くには行ってないだろうけど……うん?なんだ、この匂い」


 ふと、気づく。木の幹に深々と刻まれた切り傷と、血の跡。木の陰を覗き込むと、今まさに黒い瘴気となって消えゆくモンスターの死骸が横たわっていた。


「っ」


「……なんだ、こりゃ」


 その木の向こうに広がっていた光景に思わず息を飲む。見渡す限りの、血の海。地面を埋め尽くす死骸の山。立ち込める瘴気に、後ずさる。血は乾いていない。それはつまり、この惨状を作り出した張本人が、まだ近くにいるということだ。


 普通なら、腕利きの冒険者の仕業だろうと考えるところだが……


「これは……冒険者の仕業じゃないな」


「わかるんですか……?」


「こいつは、キラーファングだ。こいつの牙は高値で売れる。なのに、どいつもこいつも牙を剥ぎ取られてない。それ以前に、素材を剥ぎ取った形跡がないんだ。だからこれは多分、モンスターの仕業だろう。手を付けないほうがいいな」


 なにせ、これだけの数だ。牙を剥ぎ取って持ち帰ればかなりの額になる。だが、それはまずい。これがモンスターの仕業なら、これらの死体はそいつの「獲物」ということ。獲物を横取りするような真似をすれば、次の獲物は俺達だ。


 小動物たちもそれを理解しているのだろう。これだけ血肉の匂いがするのにも関わらず、周囲の木々には鳥の一羽も見当たらない。


「……あ、あそこ」


「ん」


 ヘレナが指差す方に目を向ける。死骸の山が連なる向こうにしゃがみ込む人影。見覚えのあるピンク色のモコモコ。間違いない、ロココだ。


「ロココ!ここに居たのか。――何してるんだ?」


「……」


 駆け寄ると同時に、俺はうっと声を漏らす。ロココが覗き込むその地面には、血まみれの少女が倒れている。うつ伏せに倒れ込んだまま、ぴくりとも動かない。俺は慌ててその身を抱き起こした。


「お、おい大丈夫か!?しっかりしろ!」


 滑らかな触手状の赤い髪と、赤みを帯びた肌を持つ魚人種の少女だ。恐らくは「狩り」の現場に運悪く居合わせてしまったのだろう。軽くその身を揺すってみるも、反応はない。だが、まだ微かに息はある。


「……よかった、生きてる」


 俺は予め買っておいたポーションを口から流し込んでやる。


 同時に、その首に掛けられた鉄の首輪に目がいく。この首輪、ひょっとして……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「ヘレナ。治癒魔法は使えるか?」


 返事代わりの頷きに、俺も頷きを返す。


「一応、診てやってくれ。深い怪我は流石にポーションじゃ治せないからな。と、その前に血と泥を流してやったほうがいいか。ええと、……ロココ。そこのでかい木の実を採ってくれ」


「ん」


 ロココのすぐ近くに実っていたそれは、タポンの実。この大きな果実の中には、地下から吸い上げられた水が蓄えられている。この水で、顔や体の汚れを落としてやろう。それでいて魚人種だから、水をかけてやれば元気になるかもしれない。


「……っ」


 ふと、ヘレナが戸惑っているのに気づく。


「どうした?ヘレナ」


「……この子、怪我してません。無傷です」


「それ、って――」


 抱いた少女に視線を落としたその瞬間。少女がハッとして目を覚まし、今まさにその顔の泥を拭っていた俺の手に噛み付く。黒く大きな眼が俺を見上げた。

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