第3話
「はいっ!お疲れ様でした。これにてパーティ登録完了です。頑張ってくださいね」
受付嬢さんの言葉に、ひとまず胸を撫で下ろす。俺達は無事に手続きを終え、パーティ登録を済ませることが出来た。二人とも、俺とパーティを組むことを了承してくれたのだ。
「改めて、これからよろしくな。二人とも」
「よろしく、お願いします……はい……」
「おー」
どうやらヘレナは何度も集会に通って共に戦う仲間をずっと探していたようだが、極度の人見知りで中々話しかけることも出来ず、話しかけられても上手く返答することが出来ず、結局誰とも組めずにいつも最後まで取り残されていたらしい。この話を聞き出すのにもかなり苦労した。
「そういえばロココは、集会参加するの何回目なんだ?」
「しゅーかい……?」
「さっき参加してたやつだよ。ほら、この本部の隣の、俺達がさっきまで居たあそこが集会所だってことは分かってるよな?」
「……?」
ロココは眠たげな眼をぱちくりさせて、首を傾げるばかり。どうやら分かっていないようだ。恐らくずっと寝ていたんだろうが……この子は一体何をしに集会所へ来ていたんだ?居眠りするため、とかじゃないだろうな。
「あの、すみません。この子のジョブとかって分かりませんか?一応本人にも聞いたんですけど、よく分かってないみたいで……」
「ジョブですか?ええと……ちょっと待ってくださいね」
受付嬢は背後の棚から分厚い紙束を取り出し、ぱらぱらとめくったかと思うとその中の一枚を取り出した。
「ありました。ロココ・エ・ルザ・フィーリエ。ジョブはエンチャンター。補助魔法に特化した魔法支援系のジョブですね。立ち位置は後衛になります。……あれ?この名前、どこかで……」
「エンチャンター!?そりゃあいい!正直、前衛がソルジャーだけってのは不安だったけど、エンチャンターがいれば何とかやっていけるかもしれないぞ」
ソルジャーは様々な仕事を幅広くこなせる前衛職。バランスが良いといえば聞こえはいいが、つまりは器用貧乏。中途半端ということだ。攻撃も防御も索敵も、それぞれの専門職に比べれば大きく劣る。だが、エンチャンターの補助魔法があれば何の問題もない。
ちなみにウィッチは様々な魔法を操る後衛職。魔法の詠唱中は無防備になるという弱点こそあるが、その代わりに高い攻撃力を持つパーティのメインアタッカーだ。当然、エンチャンターがいればこの攻撃力をさらに伸ばすことも出来る。
「俺達は運がいいぞ。まさか、エンチャンターとパーティを組めるなんて」
「……で、でも……スカウトが……」
ヘレナがぽつりと呟いて、俺はあっと声を上げる。
「あぁ……そうだな。スカウトが居ないのはちょっとまずいよな。幸い俺はソルジャーだから、兼任できないこともないが……」
「すかーと……?」
ロココはまた首を傾げる。受付嬢が肩をすくめた。
「スカウトは冒険者パーティにおける役職の一つで、主に偵察を行うジョブですね。ダンジョン攻略の際には誰よりも先行し、敵や罠の有無などを確認する役目を担います。スカウトの腕次第でダンジョン攻略の難易度は大きく変わってくるんですよ」
「ぉー……」
「よく分かってなさそうだな。まあ、つまりはパーティの目だよ。スカウトがいないってことは、真っ暗闇の中を手探りで進むようなものなんだ。――ですよね?」
「その通りです。人数が三人なので仕方ないところではありますが……やはり、いるのといないのとでは大きな差が出てきます。アサシンか、シーフ辺りのジョブをなるべく早くパーティに迎えるべきでしょう」
「そうですね……うまいこと見つかればいいんですけど」
ヘレナとロココは顔を見合わせる。受付嬢はそんな俺達を見てにっこり笑い、カウンターに紙束を置いた。
「では、こちら。最下級クラスの簡単な依頼の中から、小規模パーティ向けのものをまとめました。といっても、採取系のものばかりですけど……受けていきますか?」
「ありがとうございます。やっぱり新人は採取からですよね」
「それが、最近の新人さんはあんまり採取系の依頼受けてくれないんですよ。採取なんかより、とにかくダンジョンに行きたいって子が多いみたいで。冒険者としては結構なことですが、おかげで採取系の依頼がたまってて……こちらとしても困ってるんです」
「そうなんですか……そういや、いきなり上級ダンジョンに行くって奴もいたな……」
「いるんですよねえ。そういう子たち。きっと今頃は神殿でお説教を受けているか、あるいは……さて、どうなっていることやら」
俺が受付嬢さんと話している横で、二人は無言のやり取りをしている。
「……」
ヘレナが依頼書をいくつか手にとって、ロココに見せる。どれが良いかと尋ねるように。しかしロココは首を傾げる。伝わっていない。
「っ」
それならばといった様子でヘレナ別の依頼書を手に取って見せると、今度はあくびが出た。困ったヘレナが顔を上げると、二人の無言のやり取りを見ていた俺と目が合う。途端に、その顔が真っ赤に染まった。
「その依頼、受けてみようか?」
「えっ、ぁ……私は、どれでも……」
「採取系の依頼は、どれも似たりよったりだからな。ええと、アタタカ草の採取か。いいね。じゃあ、これで」
「はーい。では、こちらで手続きしておきますね。簡単な依頼ではありますが、街の外では何が起きても不思議ではありません。くれぐれも、お気をつけて」
顔を見合わせ、頷き合う。何だかんだで初めての依頼だ。気合を入れていこう。