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お前ら全員静かすぎる!  作者: ぷにこ
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第2話




「……」



――――気まずい。



 どうすればいいんだ?この状況。


 沈黙とは、これほどまでに苦しいものだっただろうか。今までに味わったことのない空気を噛み締めながら、ちらりと顔を上げる。テーブルを挟んだ向かい側に座る二人の少女のうちの一人――気弱そうな魔女と目が合う。しかしまた、すぐに目を逸らされてしまう。


 先程からずっとこの調子だ。


 とはいえ、顔を合わせた勢いのままに「とりあえず座って話でも」と、この状況を作ったのは俺だ。となれば、次の話を切り出すのも俺の役目だろう。しかしそれが難しい。


 冒険者を目指す若者は皆、学校でそれぞれのジョブに応じた技術を学ぶ。だが俺が通っていた「前衛科」には、女の子がほとんどいなかった。女の子と何を話せばいいかなんて分からない。いや、女の子だからと変に意識するからいけないのか。普通に話せばいいんだ。普通に。――普通って、なんだ?


「あの、さ」


「っ」


 俺が声を掛けようとすると、彼女はびくっと肩を震わせてちらりと俺を見る。軽く俯いたその表情は今にも泣き出しそうだ。なるべく怖がらせないように、怯えさせないように……って、ごちゃごちゃ考えても仕方ないだろう。ええい、どうとでもなれ。


「……名前、教えてくれないか?」


「えっ……ぁ、えっと……ヘレナ、です…………」


 よしきた。返事きた。自己紹介が出来れば、話すのはだいぶ楽になる。


「俺、リヒトってんだ。ジョブはソルジャー。キミは……魔法使い、ウィッチだよね?得意な魔法とか――」


「……ない、です」


「あっ、そうなんだ……」

 

 はい、会話終了。その返しは想定してなかった。


 魔法を愛し、魔法に愛された賢者の卵である彼らは、自らが得意とする魔法に尋常じゃないこだわりを持つ。ゆえに、魔法使いと話すときには得意な魔法を聞けばまず間違いない。必ずと言っていいほど盛り上がる話題だと、思っていたのだが……。


「……」


 再び沈黙がその場を支配する。ヘレナはまた俯いてしまう。

 

「(ええと……こっちの子は)」


 そして、俺の視線はもう一人のほうに向く。この気まずい沈黙の中、一人だけ異なる雰囲気を醸し出す眠たげな少女。名前はモコモコ……じゃなくて、ロココというらしいが……この子は、なんだろう。緊張してるわけでもなさそうだし、怯えているわけでもない。ただぼんやりと、斜め上の虚空を見つめている。


「(何を、見てるんだ?)」


 ちらりとその目線を追ってみると、街灯に止まっていた鳥と目が合う。同時に、鳥はすぐさま飛び去ってしまった。俺達のうちの誰かではなく、鳥を眺めていたのか。どうやらかなりマイペースな子のようだ。


「(まいったな。二人とも口数が少ないみたいだ……これじゃあ、会話が……)」


 どうしたものか。思考は巡り巡って元通り。


「(……いや、待てよ)」


 そもそも、俺達は集会所にいた。集会に参加していた。それはつまり、仲間を探しに来ていたんだ。俺も、彼女たち二人も、仲間を探しているんだ。だったら、伝えるべき言葉は一つしかないだろう。そうして俺が覚悟を決めて息を吸った、そのときであった。



「ふわぁ……ふ」



「!」


 沈黙を破ったのは、ロココの可愛らしいあくび。こぼれ出たその声に、思わず力が抜けてしまう。俯いていたヘレナはおずおずと顔を上げる。


 重苦しかった空気が、あくび一つで軽くなった。今なら、いける。


「ちょっと、いいかな」


 二人の視線が、俺に向く。

 ここだ。このタイミング。言え。言うんだ。男リヒト、覚悟を決めろ。




「――俺達三人で、パーティを組まないか?」

 





 


 柔らかな光が満ちるその場所で、立派な杖を手に祈る女性が一人。祭壇の上には、鉄色のバッジが二つ。女性が高く杖を掲げると同時に天窓から光が差し込み、二つの人影が祭壇の上に現れる。


 装備も服も失い、生まれたままの姿となった少年二人が、顔を見合わせた。


「――こ、ここは」


「神殿だ。そうか、俺達、やられちまったんだな。――ありがとうございます。エレオノール様」


 少年二人は裸のまま姿勢を正し、頭を下げる。神官長エレオノールは静かに目を伏せ、ふうとため息をついた。


「お礼ならば、私ではなくあなた方のバッジを持ち帰ってくれた彼女に言うべきでしょう。全く、最近の訓練校では何を教えているのやら」


 エレオノールがちらりと目を向けた場所には、しなやかな尻尾と獣の耳を持つ黒髪の少女。少女は「ふん」と息を吐いてそっぽを向いた。


「あ、ありがとうな。ミーシャ。助かったよ」


「お前が居なかったら、俺達どうなってたか……お前を誘ってよかったぜ。ははは」


「…………っ、ばぁ~~~っかじゃないの!?」


 少年二人は「うっ」と言葉を詰まらせ、俯いてしまう。ミーシャは空っぽになったポーチを祭壇に投げつけた。


「あんたたちのせいであたしがコツコツ貯めたゴルドもアイテムもぜぇ~~~んぶパァよ!どうしてくれんのよ!」


「わ、悪かったよ……」


「ごめんな……けど、ちょっと待てよ。なんで生き残ったお前のゴルドが無くなってるんだ?アイテムも。ポーチ、パンパンだったのに」


「おや、学校で習いませんでしたか?蘇生費は、生き残った方の全財産ですよ。服とポーチを除いたゴルドやアイテム、武器は全て没収です。――その腰のナイフも置いていってくださいね。ミーシャさん?」


 ミーシャはエレオノールをじろりと睨み、その端正な顔に向かってナイフを投げ放つ。しかしその刃は杖で軽く弾かれ、神殿の壁際に積み上げられた武器の山に加わった。


「ありがとうございます。もうお帰り頂いて結構ですよ」


「……ほんと、最悪!もう解散よ、解散!あんたたちみたいな頭バッカスにはついていけないわ!」

 

「はいさようなら。もう来ないでくださいね」


 そのままミーシャは少年たちには目もくれず神殿を後にし、エレオノールはにっこり笑って少年たちを見つめた。


「あの、エレオノール様。俺達の、服は……」


「隣の部屋に古着がたくさんありますので、適当に着ていってください。……いいですか?学校で良い成績を取っていても、あなた方は実戦経験のない新人冒険者。まずは簡単な採取依頼などをこなして装備を整え、危険度の低い下級ダンジョンに向かうのがいいでしょう。――次も帰ってこれるとは限りませんからね」


「は、はい」



「――さあ、お行きなさい。神のご加護があらんことを」

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