介護士は察知する
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王と一緒に城へ戻ってみると、そこは宰相一派に乗っ取られていた。
「なんという……。宰相め、いったい何を考えておるのだ。」
エルフの王が、ため息とともにつぶやくように言う。
宰相一派といっても、国全体から見るとクーデターに加担するような過激な連中というのは、それほど多いものではない。誰だって命は惜しいのだから、危険な賭けをやるとなれば、よほど確実に成功すると思える場合か、さもなければどうしてもやらねばならぬという差し迫った状況でなければ、動かない。あとで処罰されるのが分かっていてバカをやるほど無能では、貴族なんて務まらないのだから。それもクーデターとなれば国家反逆罪だ。どう減刑されても処刑は免れない。悪くすれば一族郎党皆殺しの憂き目に遭う。
俺たちがこの暴挙を冷静に見ていられる理由は、彼我の戦力差がこちらに有利だからだ。見たところ城を占拠している連中は、貴族の中でもほんの一部、兵士の数だって軍全体のほんの一部にすぎない。高慢なようだが、俺がパワードスーツゴーレムまで装着してここに居るのだから、たとえ全軍が寝返ったところで根こそぎ張り倒して城を取り戻すぐらいは、わけもない。……いや、わけもないとは言い過ぎだが、現実的な方法として選択肢に入ってくる。
とはいえ、王城は国家機能の中枢だ。そこに保管された書類がなければ、昨日までと同じように国を運営することはできなくなる。奴らにしてみれば、1ヶ月でも篭城できれば相当に国家機能を弱らせることができる。黒幕としては、それで十分なのかもしれない。
俺たちの国を狙っていたはずなのに、エルフの国を弱らせてどうするのか理解に苦しむが、そこは本人に聞いてみるしかないだろう。俺はてっきり、エルフの国を掌握して、こちらに戦争でも吹っかけてくるものと思っていたが、そうだとすればエルフの国を弱らせる意味がわからない。
俺たちは、一旦城から離れた。
兵を招集する間、王は俺に質問した。
「洗脳されているというのが本当なら、正気に戻す方法はないものか?」
「あります。殺さない程度に戦って倒せばいいようです。」
「殺さないように、か。」
前世なら、これはかなり難しい注文だ。
スタンガンやゴム弾、催涙弾やスタングレネードなんかを使ってやるしかない。ところが相手の方がこちらを殺すつもりで襲ってくるとなれば……それもこの相手というのが軍隊の一部で、訓練も装備もこちらと遜色ないときている。そうなると、反逆者に配慮してこちらの手勢を無駄に失いたくないから、実弾で応戦してしまえという判断が、銃社会の国々ではおそらく多数派を占めるだろう。
一方、こちらの世界では非殺傷の攻撃手段が充実している。電撃、衝撃、睡眠、麻痺といった前世と同じような方法に加えて、石化、冷凍、生き埋め、水攻め、はては致命傷を与えておいてから回復魔法をかけてほどほどのダメージにしてやるという拷問みたいな方法まで、多種多様にそろっている。
もともと、王に従う兵士の方が多いとなれば、これは俺の出番などないだろうと、俺はのんびり構えていた。
「ジャイロ。」
最初に気づいたのは、アルテナだった。探知魔法の範囲が広いおかげだ。
アルテナの視線を追って、俺も探知魔法をその方向へ伸ばしてやる。他の方向にも広がっていた魔法が縮んで、1つの方向へ伸びる。そうすると範囲は狭くなるが、射程距離は長くなる。
捉えた。
例の男だ。王城から2kmほどの距離をとって、なにか大きな魔法を使おうとしているらしい。
「この気配は、またドラゴンっすか?」
探知魔法は苦手なはずのマクセンまで気付く。
それほど巨大な気配が現れようとしていた。
「まずいな。」
このままでは王の軍が挟み撃ちになる。エルフの魔法は人間より優れているというが、同じエルフとドラゴンとの挟み撃ちになったのでは、いくらなんでも分が悪いだろう。
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