介護士はテンプレートに遭遇する
読んでくれてありがとう(*´▽`*)
楽しんでくれると嬉しいです。
読者様には申し訳ない事ですが、不定期更新になる予定です。
「おっと! ……おいおい、何してくれてんだ? 怪我しちまったじゃねーか。」
チンピラみたいな冒険者に絡まれた。
俺が歩いて行く先にわざと足を差し出して、俺に蹴らせたのだ。
さて、どうするか?
選択肢は3つだ。
1つ、普通に撃退するテンプレ展開。
2つ、相手が臨戦態勢になる前に骨折でもさせて「おお、本当に怪我をさせてしまった」とかキティな事を言ってみるアグレッシブな展開。
3つ、とりあえず謝るヘタレ展開。
前世なら間違いなく3だが……ポクポクポク……ティーン♪
反対側へ突き抜けてみよう。
「怪我ですか!? 大変だ! すぐ治療院へ行きましょう! 歩けますか!? 肩に掴まってください! 行きますよ! 1、2の、3! はい、歩いて! 1、2! 1、2! その調子です!」
移乗解除の要領で、ひょいと後ろから支えて歩かせる。
抵抗して暴力を振るってくる老人への対処を思い出しながら、絶対に攻撃を受けない位置(ちょっと身体拘束もする)を取って、有無を言わせず歩行介助に持ち込み、強制的に歩かせる。死役所で1億年も鍛えた介護技術は、両足を開放骨折している人さえ歩かせるレベルに至っている。
そんなバカな? いやいや、これがファンタジーだ。
「先生! 急患です! 怪我人が!」
「ど、どうしました!? 大丈夫ですか!?」
「意識はあるみたいです! あとお願いします!」
大慌てで治療院へ駆け込むと同時に、臥床介助でチンピラ冒険者を床に寝かせる。
治療院の従業員が、俺の態度につられて慌てる。どこかで「今、歩いてなかったか? その怪我人……」という声が聞こえた気がしたが、気にしない。勢いで押し切る。
どさくさに紛れて受け渡し、そのまま即座に退散だ。
怪我人の急患という扱いで治療院に放り込まれたチンピラ冒険者は、そのまま治療院の従業員たちに名前を聞かれたり怪我の場所を聞かれたりしていたが、「うるせえ! 俺は平気だ!」と暴れるので「落ち着いてください!」と錯乱している扱いをされて押さえつけられていた。
平和的な対処法だったと思う。
ちょっとキティだったかな? まあ、気にしない。
そのまま冒険者ギルドに戻り、何食わぬ顔で初めての依頼を受けた。
夕方になって冒険者ギルドに完了報告に来ると、あのチンピラ冒険者が待ち構えていた。
「てめえ……!」
ずっと張り込んでいたのだろうか? ご苦労なことだ。
「ぶっ殺――」
怒声を上げて、チンピラ冒険者が剣に手をかけた。
即座に、脊髄反射で体が動く。
後の先――抜かれる前に間合いを詰めて、抜こうとするその手を押さえ――このへんで意識が行動に追いついてきた――同時にアゴを下から突き上げる。本来は脇差しで首を攻撃する技だが、脇差しがない。代わりにナイフでもいいが、殺すほどの事はあるまい。移乗介助で相手を抱え上げるときの体の使い方を少しアレンジして、アゴを下から突き上げてやると、相手の体重がこちらの体の軸に乗って持ち上がり、相手の体が宙に浮く。
そのまま押し込むと、相手の体は後ろへ回転していく。即座に空中臥床介助に切り替え、これも少しアレンジして、後頭部から床へ落ちるようにしてやる。
ドシン! と勢いよくひっくり返ったチンピラ冒険者。
防具もつけているし、落下ダメージはそれほどでもないだろう。だが、後頭部を強打する影響は、ダメージよりも麻痺だ。視界がドロドロに溶けたように歪んで、まともな平衡感覚はなくなる。立ち上がれないどころか、這いずる事もままならない。
「こんな所で剣を抜こうなんて、危ない奴だな。」
さりげなく周囲にアピール。正当防衛ですよ~っと。
さて、あとは煮るなり焼くなり自由自在だ。
これ以上絡まれても面倒だから、きっちり処理しておこう。
二度と絡んでこないようにする方法は、いくつかある。たとえば殺すとか、奴隷商人に売るとか、心が折れるまで拷問するとか。逆に自分が姿を消すとか、変装するとかの方法もある。しかし、たいていの場合こういう素行不良の連中は、承認欲求が足りてないだけだ。
さて、このチンピラ冒険者は、どんな承認を求めているのか……?
筋肉はあるが痩せ型で、頬がこけており、目がギョロッとしている。眉間にしわが寄って、眉根が上へ曲がり、怒りとともに「困っている」という表情が刻み込まれている。使い古された装備品、粗末な服装、汚れた爪、小さな傷の多い皮膚。
「ふむ……。」
ちょうど後頭部強打のダメージから回復してきたチンピラ冒険者が、むくりと体を起こす。
「てめえ……!」
1度やられた事で、こちらを警戒し、剣は抜いてもすぐには斬りかかってこない。
不特定多数に向けられた怒りと、内側へ向かっている「困った」という感情が交じった顔に、熟練冒険者らしい適度な緊張と警戒、そして色濃く恐怖が浮かんできていた。
「……なるほど。
なぜ、実行しないのかな?」
「あ?」
チンピラ冒険者は、俺の問いかけに「何言ってんだ、こいつ?」という顔をした。
「強くなりたいんだろう?
Sランクとは言わないが、今よりもう1つか2つ、上のランクに行きたい。そうだろ?」
「…………。」
「だったら、そのためには仕事をやるしかない。
俺に……他の冒険者に絡んでいても、ランクは上がらないぞ。
あんたは、誰かに『もう辞めろ』『諦めろ』と言って欲しいのか? ここでボコボコにされて、引導を渡して欲しいとでも?
いや、違うはずだ。『お前ならできる』『頑張れ』『もう少しだ』と言って欲しいんだろう? ゴールはもうすぐそこなんだ。あと少しで手が届くんだ。なのに、どうして手が届かないんだろう? と、そんな事じゃあないのか?
足りないのはスピードか? パワーか? 経験か? 魔法か? 足りないと思うなら、鍛えるしかない。対人戦の訓練がしたいなら付き合ってやる。だが、まずはもうちょっと酒を抜いて、栄養のある物を食え。体を作って出直してこい。体が資本だろう?」
「……うっ……く……!」
チンピラ冒険者は、目に涙を浮かべて逃げるように走り去った。
どうやら図星らしい。
外見から相手の内面を読み取る。これは読心術なんかではない。観察力と共感力だ。介護士には必須の職業スキルである。相手が認知症だと、思考の論理性が破綻していて読みにくいのだが、あんなチンピラ冒険者ぐらいなら簡単だ。
「さて……。」
完了報告のために受付カウンターの前へ並ぼうとすると、ギルドの中が妙に静まりかえっている事に気づいた。
周囲から、しんみりした空気を感じる。
なんだこれ?
「あんなチンピラにはなってなくても、思うようにランクが上がらない心情はみんなよく分かるんですよ。
だからジャイロさんの言葉が心に刺さったんだと思います。」
受付嬢がこっそり教えてくれた。
なるほど。
という事は、どうやら俺の目的は間違いなく達成できたようだ。たぶんあのチンピラ冒険者は、もう二度と俺に絡んでこないだろう。次に来るとしたら、対人戦の訓練を希望してくるぐらいか。
読者様は読んで下さるだけで素晴らしい!
( ・`д・´)キリッ
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(σ*´∀`)