介護士は礼儀を考える
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「国王陛下からの召喚状だ。」
騎士がやってきて、俺の前で手紙を読み上げた。
内容は、ドラゴン討伐の功績で褒めてやるから指定の日時に王宮へ来いというものだった。
民間人たる俺は、この国で最強の権力者である国王――その代理人として召喚状を読み上げる騎士に、跪いて応じるしかない。
「――以上である。」
「謹んで拝命致します。」
「うむ。
……我々も、あなたのおかげで命拾いをしました。本当にありがとうございます。あなたはまさに、我が国の英雄です。」
国王代理としての役割を終えて、騎士はその態度を変える。
単独でドラゴンに勝つ人物を前にしたら、機嫌を損ねないように下手に出るのは普通の反応だろう。俺としてはどうも困ってしまうが。民間人が騎士に敬語を使われるなんて、普通ではない。普通は逆だ。なにしろ騎士というのは貴族なのだから。なんで貴族が平民に敬語を使うのか。
実際には、戦ったら俺が勝つ。騎士としては命の危機にさらされているようなものだ。俺の前に立つだけで恐ろしいだろう。まあ、俺がむやみに攻撃することはないが。……それを知って貰うには、まだ時間が足りない。
そんなわけで王宮。
大理石でできた床や壁、装飾的な凹凸を施された無数の柱、よく分からないが高級そうな調度品。王宮というのは、平民の俺からすると博物館みたいなものだ。
マクセンやアルテナも呼ばれているが、緊張して声も出ないようだ。視線だけキョロキョロと周囲をせわしなく見回している。一方、アーネスは落ち着いている。さすがに公爵の娘だ。
「Aランク冒険者ジャイロよ。こたびの働き、まことに大義であった。」
謁見の間で、玉座に座った国王の顔を見ることもなく、頭を下げて床を見つめる。
国王に対しては「会うこと」も「直接その姿を見ること」も特権行為なのだ。謁見の前に、メイドからその作法を教えられた。平民が「会う」だけでも大変に特別な事態だから、間違っても直接その姿を見ないように、と何度も言われた。ちなみに王宮のメイドは貴族の子女だ。
そして国王は無駄に装飾的な言葉を使って「ついては褒美を取らす。何を望むか」という事を尋ねてきた。これに対して「陛下の御心のままに」と答えるのが作法だそうで、俺はその通りに喋った。様式美とはいえ、尋ねられて要望を言えないというのは、とんだ茶番だ。
まあ、でも、そういう文化なのだから仕方ない。郷に入っては郷に従えという。認知症の老人が、間違ったことを言っても、それを否定していたら話が進まない。それと同じで、相手に合わせてやることが重要なのだ。
「されば、褒美として男爵の地位と領地を与える。」
国王からの褒美を受けて、俺は貴族の仲間入りをした。
後日、冒険者ギルドでもこの事が重く取られて、俺はSランクに昇格した。
マクセンとアルテナも「俺の仲間」として「大義である」なんて言葉を貰っていた。国王から「直接声を掛けて貰う」というのも特権行為だ。もちろん「国王に」直接声を掛けるのも。だから定型文以外の言葉を口に出してはいけない、とも言われた。最悪、不敬罪で処罰される。
国を滅ぼす戦力がありながら、何を恐れる事があるのか。それは本質だが、同時に「周囲の迷惑を考えなければ」という条件付きだ。統率力を失えば集団は瓦解する。だから統率力を発揮するために、処罰するべき相手を処罰しなければならない。たとえ無理だとしても何らかのアクションは起こさないといけない。可哀想なのは、それに付き合わされる現場の兵士たちだ。そして、その背後にいる彼らの家族も。
老人ホームはサービス業だ。だから、そこに入った老人たちには、1人1人に「サービス計画書」が作成される。こういう状態なので、こういうサービスを実施します、という計画書だ。たとえば歩けないから車椅子をレンタルするとか、自力で食べられないから食事介助をするとか、リハビリとして写経をやってもらうので毎日決まった時間に道具を用意するとか。
で、このサービス計画書を作るに当たって、面倒なことが起きる場合がある。老人本人とその家族の意向が食い違う場合だ。たとえば老人本人は「酒が飲みたい」と思っているが、家族は「飲み過ぎて健康を損なったのだから酒は控えて欲しい」という。
突然なんの話かと思うだろうが、つまりそういう作業に慣れているという事だ。誰かを見れば、その関係者はその人をどう思っているのだろうか、という事に思い至る。面倒くさいから蹴散らそうなんて短絡的な思考はしないという事だ。
自由とは何か、という話にも通じる。自由とは「やりたい事を好き放題にやれる」という事ではない。やる事もできるが、我慢する事もできる、という事だ。それが自由。あえて我慢する事もできるのが自由なのだ。我慢できないというのなら、それは不自由なのだから。
「さて、ゴーファ公爵が娘アーネス。」
「はっ。」
「女性だけの部隊を新しく作ったと聞く。今回はその初陣たる出撃で、既存の警備隊に劣らぬ働きをしたとか。新しい試みは国を富ませる可能性がある。大義であった。」
「お褒めにあずかり、恐悦至極に存じます。」
「うむ。
いずれはゴーファ公爵の領地で、徴兵制の改革をおこなうつもりであろうな。戦力の拡充は喜ばしい事だ。ただし、対象の年齢をすべて兵士に取るということは、他の産業や国民生活にどのような影響が出るか……改革を実行するかしないかはゴーファ公爵の判断にゆだねるが、どのような判断になるかも含めて、余は興味深く思っておる。」
「ご明察です。
それ故、父も慎重になっております。」
うむ、と国王はうなずき、話はそれで終わった。
やってみろというのではなく、判断をゆだねるという。なかなか面白い国王だ。制限しないで自由にやらせるというのは、職場の風通しをよくする。聞き方によっては、一切の責任を負わないための逃げの口上なのかもしれない。だが俺の印象では、前者だ。興味を持っているという一言によって、有用なら国策として取り入れる可能性をも示唆している。勝手にしろというのとは随分ちがう。
読者様は読んで下さるだけで素晴らしい!(*≧∀≦*)b
評価とかブクマとかして下さった読者様、ありがとうございます。
作者は感謝感激しつつ、小躍りして喜んでおります。(o´∀`o)キャッキャッ♪
獣人編はこれで終わりです。
次はエルフ編を始めます。