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介護士は考え方を変える

読んでくれてありがとう(*´▽`*)

楽しんでくれると嬉しいです。


読者様には申し訳ない事ですが、不定期更新になる予定です。

 短所とは、同時に長所でもある。

 同じものを見ても、どう()()()、それだけの違いなのだ。

 どう()()()かを考えてしまうと、それは価値観の違いになる。価値観とは過去の体験によって形成されるものであり、今の状態、今の幸せレベルを形成している原因だ。だから、もし今までよりも幸せになろうとするなら、今までの価値観とは違う「もっと幸せになるための()()()()()」をしなければならない。


 ダークサイドに墜ちた介護士(おれ)は、その後、老人を「仕事の()()()」としか認識できなくなった。

 人間の形をした()()を、いかに効率よく介助する(うごかす)か。

 そういう思考回路になってしまった。もはや相手を人間として見ていない。やりがいを感じないので、無理に目標を作った。1回のおむつ交換を1分で完了させよう、と。実際には早くても3分かかるので、いかに素早く、短時間で、効率よく()()するか、という事に注力した。

 この期間に、相手の体を回転させることで浮かせるようにして動かす技術を習得した。たとえば寝かせるときに、上半身を倒しながら下半身を持ち上げる。腰を軸にして回転させるのだ。こうすると相手の重さが消える。ただし、重さを消すには、それなりの速さで回転させなくてはならない。

 空手で、濡れた和紙の上で和紙を破らずに型を披露する演武がある。空手の動きは「円」の動き、「回転」の動きだ。だから優れた型をおこなえば、遠心力で体重が消されて、濡れた和紙が破れない。それと同じことを、介護の現場で、老人を相手にやるのだ。

 だが、勢いよく振り回される事になるから、老人にとっては恐ろしい介助だった事だろう。制御をミスして手足をベッドにぶつける事もあったし、それで皮膚が破れてしまう事もあった。


 転機が訪れたのは、居合をやって3年目だ。

 全体を俯瞰して見る視点が身についてきたらしく、同僚たちの言葉遣いが気になった。


「危ない! 立たないで! 座ってて!」

「何やってるの! ……は? そんなの放っておけばいいから!」

「帰れないよ! 泊まりだからね!」


 確かに、立てないのに立とうすれば転ぶ。危ない。座っていた方が安全だ。

 確かに、床にゴミを見つけて拾おうとされると、椅子から転落する危険がある。放っておけばこちらで掃除するのだから放っておいてくれればいい。

 確かに、今日は施設に泊まる日だ。家には帰れない。

 言っている事は正しい。だが、言葉遣いがあまりに否定的だ。だから老人たちは反発する。


「危ない! 立たないで! 座ってて!」

「ええい、うるさい! そこまで行かないといかんのじゃ!」


「何やってるの! ……は? そんなの放っておけばいいから!」

「それでも何か落ちてるし。」


「帰れないよ! 泊まりだからね!」

「いやだー! 帰りたいー!」


 これに気づいて、俺は考え方を変えた。

 自分にルールを課したのだ。年寄りを褒めちぎろう、と。


「おっ! 立つの? いいね! どこまで行く?」

「ん? そこまで行こうと思って。」

「いいね! 元気だね! 頑張って歩こう! やればできる!」

「へへへ。」←嬉しそう


「おっ? 何か見つけた?」

「あれ。なんか落ちてる。」

「いいね! よく見えたね! 目がいいね!」

「そんな事ないけど、あのぐらい見えるよ。」←照れている


「おっ? 帰りたいの? いいね! 良く覚えてたね!」

「うん。帰れる?」

「帰れるよ! 今日は泊まって、明日帰れるからね!」

「明日か。じゃあ、今日は泊まりか。」

「正解! いいね!」

「ふむ……。」←しょうがない今夜は泊まるか、みたいな顔


 褒めちぎると決めて、実行して、効果が出たのは即時だった。

 明らかに老人の態度が違う。

 後から気づいたが、これもまたマズローの欲求階層説、第4欲求:承認欲求だった。

 仕事を引退し、体が不自由になり、危ないからと禁止される事が増え、やりたい事もできず、してやりたい事もしてやれず、もはや自分は何の役にも立たない人間になってしまった――と、老人たちは、そういう自己評価に陥っているのだ。承認欲求が満たされず、砂漠を水なしでさまよっているような状態である。

 そこに、むやみやたらに褒めちぎる男が現れた。何でもない事を承認しまくって、承認のシャワーを浴びせてくる男だ。水なしで砂漠をさまよっている老人に、清らかな水をたっぷり浴びせまくって、なんなら溺れさせる勢いの男だ。


「お兄ちゃ~ん!」

「あー! 居たー!」


 1ヶ月ほど続けると、俺は人気者になった。

 同僚たちはまだ気づかない。夜勤が大変だという。老人たちが寝てくれない、と。

 だが、俺が夜勤のときは、老人たちは静かに寝てくれる。寝なくても騒がない。承認しまくる男が今夜の当番だと知ると、安心して寝るのだ。同僚たちが「夜勤が一番大変だ」と言っているそばで、俺は「夜勤が一番楽だ」と思っていた。

 じゃあ、同僚たちに教えてやれって? それはダメだ。教えるというのは、今までと違うことをやらせるという事だ。今までと違うという事は、今までのことを否定するという事だ。承認の基本は、否定しないことだ。事実を事実として認めるのが承認だ。

 だから俺は同僚たちには承認の効果を教えない。同僚たちが承認していないという事実を指摘しない。ただ、3ヶ月も続けると、同僚たちは自分で気づいていった。まさしく、これこそが承認による教え方だ。世の中には「やってみせ、言って聞かせて、褒めてやらねば、人は動かじ」なんて言葉もあるが、承認に限っては「やってみせる」だけでいい。ひたすらそれだけで、人は気づくのだ。承認するほうが、今までのやり方よりもメリットがある、と。

読者様は読んで下さるだけで素晴らしい!

( ・`д・´)キリッ


なお、評価とかブクマとかしてくれると、作者が喜びます。

(σ*´∀`)

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーむ、深い (語彙さんがどっかでオイって突っ込んだ) [一言] 事実を事実として認められない人が世の中にはどれだけいる事か…… この作品はそのセリフを噛み締める作品になる ような気…
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