介護士は魔法のコツを掴む
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読者様には申し訳ない事ですが、不定期更新になる予定です。
草原を畑に変える。
村人はクワを手にして、せっせと耕している。
それを見ていると、何となくおむつ交換のときを思い出した。クワにひっくり返される土が、おむつ交換のために体の向きを変える老人のように思えてくる。
母が魔法を教えてくれたとき、いつも「イメージをしっかり持て」と言われた。徴兵で訓練生になったときも、教官から同じ事を言われた。土魔法なら、土をどう動かして、どういう形にするかを、しっかりイメージする事が重要らしい。固形物である土を流体のように扱い、重たくて脆い土を空気に浮くほど軽く、岩のように硬いものとしてイメージするのは、かなり難しい。だが、それをやらないと、土を思い通りに動かすことができず、狙った形に維持することができない。俺はまさにこの訓練が足りないので、魔法を使うのが下手だ。
しかし、土を老人に見立て、耕すのを体の向きを変える事に見立てたら……?
「体位交換ッ!」
土魔法を帯びて、地面から30cmほどの深さまで、土の体位を変える。仰臥位から腹臥位へ。そして1cm浅くして、腹臥位から仰臥位へ。さらに1cm浅くして……と、1cm刻みで地面をひっくり返す。
土魔法で広範囲を一気に処理できるので、クワを使って耕すより早い。というか、耕耘機より早い。むしろ一瞬で終わると言っていい。1回の体位交換に0.1秒だから、30cmなら3秒だ。
「おお! 凄い魔法だ。」
村人たちが驚く。
うん、まあ、普通に魔法だな。
介護技術のイメージでやったら、魔法が早く発動した。魔法にはイメージが重要……なるほど、こういう事か。普通に「土を耕す魔法」とかイメージすると、発動までに10秒以上かかる。
……あれ? 待てよ? ……という事は……?
「むんっ!」
木刀を振る。連続攻撃の型を使って、もっと細かく、もっと多く、地面を切り刻むイメージで。
風魔法を帯びての型稽古。目に見えないから分からないが、真空の刃的なやつが飛んだらしく、地面がズタズタに切り裂かれた。
「……ふむ……。」
耕すのとは少し違う結果になった。やはり「耕す」には「土をひっくり返す」動作が必要だ。
そうえいば、死んだ祖父が「耕す」ことを「土を起こす」とか言っていたっけ。
畑仕事としては失敗だが、どうやら飛ぶ斬撃っぽい技ができた。これはこれで収穫だろう。
木刀をしまって、再び素手で地面をひっくり返す。
土魔法をまとって――
「体位交換ッ!」
ドババババババババババ! と勢いよく土が耕された。1発(実際には30回)で10m四方が、草原から畑に変わる。
もう少し時間を掛けて魔力を大量に込めると――
「体位交換ッ!」
ドババババババババババババババババババババ!
「おお……!」
一気に100m四方が耕された。これは凄い。(自画自賛)
「兄貴……。」
「ジャイロぉ……!」
土まみれのマクセンが涙目で俺を呼ぶ。やめろ、おっさんがその顔はキモイ。
同じく土まみれになったアルテナが、恨めしそうな目で俺を睨んでいた。
驚いて見ていた村人たちが、2人の格好を見て、一斉に笑い出す。
「……すまん。加減が分からなかった。俺のミスだ。」
マクセンはため息をついて「しょうがないっすね」と許してくれた。
アルテナは――
「このあんぽんたん!」
土をぶつけられた。
クワがまるで槍投げ器か投石器のようだ。
器用なものである。アルテナは、魔法以外の補助武器として投擲器を持っておくのもいいかもしれない。
……補助武器のサイズじゃないな。
ともかく、畑作りは順調だ。これなら明日にでも種まきができるかもしれない。
……いや、肥料とか入れるのが先か。たしか、祖父の畑仕事のときは、除草剤も入れていたっけ。
とはいえ、この世界で化学肥料だの除草剤だのは手に入るまい。まあ、そういうのは農業の専門家たる村人たちに任せておけばいいか。
それよりも、川が少し遠い。今後の利便性を考えて、水源を近くに用意したいところだ。
やはり井戸だろうか。
地中探知の魔法を使ってみると、地下水脈があるのは分かった。まあ、川の近くなのだから、川の水が周辺の土壌に染み込んでいくのが当然だ。その水が最終的にどこへ行くかといえば、通れる所を通って、それが地下水脈になる。
さて、どうやって井戸を掘るか。普通に掘ったら大変な重労働だ。やはり魔法を使うのがいいだろう。イメージが大事だという事は理解した。穴掘りのイメージといえば……。
「摘便ッ!」
施設によっては看護師に任せろと言われるが、俺が勤めていた施設では介護士もやっていた。というか、看護師の手が足りなくて摘便ぐらい介護士でやれと言われていたから、むしろ看護師は摘便なんてしなかった。
ああ、ちなみに摘便が何なのか理解できない人は、ググってくれ。まあ字面から分かると思うが、そういう事だ。老人施設で「掘る」といったら、これを意味する。
ドバアアアアア!
掘った土が地上へ噴き出す。
もうアレにしか見えない。
上下逆さまだが、これはもうビチビチのアレだ。
フタになっている硬い部分を掘り出すと、あとは水分を多く含んだ部分が一気に噴き出す。やがて水だけになって、ゆるゆると出続ける。
自噴する井戸だ。素晴らしい。くみ上げる必要がない。……ん? ナニを連想したんだ、キミタチ? え? 俺か? 俺は、冬の凍った水道だが? 似てるなー、といつも思ってたんだ。……なんだ、その白い目は? ああ、そうか、分かったぞ。その目は見た事あるやつだ。カレー食いながらう*この話をしてしまった時に、関係ない業種の奴が向けてくる目だ。同業者だと平気で話せる。これも職業病かな。
さて、急いで水路を作ろう。畑のほうに水が流れ込むと、土がグチャグチャになってしまう。水田じゃないんだから、水やりはほどほどにしておかないと、作物が育たない。
「上方移動ッ!」
ベッドに寝ている老人を、頭側へ移動させる介助。あのイメージだ。
介護用ベッドは頭側がモーターで持ち上がる。リクライニングみたいな機能だが、介護士や看護師はリクライニングではなくギャッジと呼ぶ。上げるのをギャッジアップ、下げるのをギャッジダウンという。で、ギャッジアップしたあと、ギャッジダウンすると、たいてい老人の体が足側へズレてしまう。そこで頭側へ移動させる介助が必要になるのだ。
ちなみにギャッジというのは、介護用(医療用)ベッドを開発した人の名前らしい。
今回はそれを土魔法を帯びて地面相手にやる。土が一気にズボッと移動して、水路ができた。
「兄貴の呪文の詠唱は意味わかんないっす。」
「効果は凄いわね。」
2人が呆れている。
解せぬ。なぜ呆れられるのか……。
「もうこんなに開拓したのか!?」
警備隊長アーネスが現れた。
驚いて目を見開いている。美人のああいう顔もいいな。……じゃなくて。
そうだよ。こういう反応が欲しいんだよ。俺の成果に驚いてくれるこういう反応がいいんだ。承認欲求が満たされるのを感じる。幸せだ。
読者様は読んでくださるだけで素晴らしい!( ´∀` )b
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