介護士は開拓村を任される
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読者様には申し訳ない事ですが、不定期更新になる予定です。
警備隊長アーネス・ゴーファが、その父である領主ゴーファ公爵に、村人をどうするか相談しに行った。
俺たちが助けた村人だが、そのまま村に残っているとテロ集団「蛇」の増援が来るかもしれない。俺は死にたくないので避難することにした。そして村人たちも一緒に避難してきたのだが、村人たちには生活基盤がない。受け入れ先が必要だ。
待っていろと言われたので待っていると、しばらくしてアーネスが戻ってきた。赤い髪をなびかせて颯爽と歩いてくる姿は、さすが公爵令嬢だ。しかも、ただ歩いている姿が、隙がない。さすが警備隊長。
「待たせたな。」
「いえ……それで、どうなりましたか?」
「ジャイロ殿。」
「はい。」
「貴殿に任せる。」
「は?」
つまり、こういう事だ。
いくら田舎の農村といっても、1つの村の人口をまるごと受け入れるとなると、これはかなりの人数だ。領主の館があるギルテールの街、しかも貴族の中で一番偉い「公爵」の街とはいえ、そこまでの人数を受け入れる余裕はない。
単なる旅行者なら大丈夫だ。宿屋はたくさんある。代金を支払えば問題なく生活できる。だが、生活基盤を失って難民状態の村人となると、宿や食事の代金をそういつまでも支払うのは無理だ。収入がないのだから。支援しなくてはならない。しかし村人全員の生活費をいつまでも支援し続けることはできない。かといって村人たちは農民で、農地から離れて避難してきたのだから収入源がない。今から別の仕事を探すのは、年齢的に難しい者が多い。
「というわけで、村を開拓して欲しい。
場所はある。農民だから開拓して食糧を作るのは得意だろう。
それが軌道に乗るまでは、領主からの支援もある。」
「それは、年単位の時間がかかるのでは?
それだったら『蛇』をさっさと片付けて、村に戻ったほうが早いのではありませんか?」
「さっさと片付けられるなら、その通りだ。
しかし『蛇』のことは何も分かっていない。すでに連中は村を襲って制圧するほどの勢力になっている。かなりの規模だ。ジャイロ殿が捕まえてくれた元『蛇』のメンバーも、本部の場所を知らないようだし、他の拠点についても全体を把握しているわけではないそうだ。つまり連中の全貌が掴めない。」
「なるほど。」
相手がどこにいるのか分からなければ攻撃できない。1カ所を攻撃しても、他にも居るのかもしれない。殲滅したと思ったら、逃げ延びた生き残りが密かに活動を続けて、また復活するかもしれない。大事な事は「根こそぎ」だ。枝葉が少々こぼれても問題ないが、根を残すとまた復活してくる。
それには相手の全貌を掴む必要があり、それができていない今、「蛇をさっさと片付ける」のは無理ということだ。そうして全貌の把握に努めている間にも、「蛇」はさらに勢力を拡大するだろう。この戦いに決着がつくのを待つより、新たに村を開拓するほうが早い。そういう事だ。
「しかし、なぜ俺に任せると?
責任者なら、村長とか警備隊の誰かを派遣するとか……少なくともただのGランク冒険者に頼むより適任だと思いますが。」
「ジャイロ殿はGランクなのか。だが、ただのGランクではないだろう。
村を占拠するテロ集団を殲滅し、犠牲もなく村人を救出するのが、ただのGランクの実力か?」
「まあ、確かに戦力には少々自信がありますが。」
「だから頼むのだ。」
「どのへんが『だから』なのですか? 因果関係が全く理解できません。
村を開拓するのと戦うのとでは、必要になる力の種類が違うでしょう? 戦力として開拓村の警備を依頼されるのなら分かりますが、責任者を任されるのは意味が分かりません。村長を差し置いて責任者にされる理由にもなっていないし、警備隊から人を出さない理由にもなっていません。」
「であれば、ジャイロ殿が責任者を選べばよい。
今この場において、我々と村人との間に立つべき窓口は、貴殿なのだ。」
「では今この場で、窓口としての役割を終了し、村長に後を任せます。
そちらの窓口になる人物を指定して下さい。村長は、領主からの支援を受けるに当たって、誰に相談すればいいのですか?」
アーネスは、難しい顔をした。
「……どうしても、やりたくないと?」
「逆に、なぜやらせたいのか理解できません。」
「なるほど。そういう事か。」
「はい?」
「ジャイロ殿は、基本的に『村の責任者』をやりたくないという事だな。」
「その通りです。そんなのは冒険者の仕事ではありません。」
「なるほど、なるほど。
これは、こちらが悪かった。てっきりやりたがるものだと思っていた。」
「はい?」
「村を1つ任される。それも公爵の代理人として。
任される村はまだ存在すらしておらず、ジャイロ殿に爵位が与えられるわけでもないが、しかし状況的に言って、これはそこらの下級貴族よりも上の扱いだ。
その成り上がるチャンスを拒否すると。そういう事だな。」
「なるほど。ようやく理解できました。これは成り上がるチャンスなのですね。」
「そうだ。で、どうする?」
「お断りします。」
「なに?」
やりたくないものは、やりたくない。
そして、やりたくない事はやらなくていい。むしろ徹底的に「やらない」と決めて断固拒否する。そうして作った時間を、やりたい事に注ぎ込む。
スマホを作ったリンゴの会社とか、顔の本の会社とか、通話とメッセージの線の会社とか、他にも大成功している起業家たちは、みんな、やりたい事をやって成功している。彼らは、やりたくない事はやらないようにしている。書類仕事に忙殺されるような事はしていない。そういうのは専門の部署を作って、専門の人員を配置し、自分ではない誰かにやらせている。そして自分は、さらにやりたい事を追究するために、クリエイティブに時間を使っている。
では、俺のやりたい事は何か? それは、村を開拓する事ではない。
「俺は、世界を見て回りたいのです。」
ファンタジーな部分を見たい。エルフとかドワーフとか見てみたい。マクセンが犬獣人のクォーターだというから、獣人が存在するのは確定だろう。見た事はないが、エルフとかドワーフとかも存在するという話は聞いている。
禁欲的な生活をしたくないというのも、大きな目的だ。開拓村には風俗なんかない。
「ならば、村を開拓した後で、ジャイロ殿の目的を支援しよう。
何も遠くへ旅をしなくても、エルフやドワーフや獣人に引き合わせるぐらい、この領地では簡単なことだ。彼らをより深く理解したいのなら、まずは関わる事が先決ではないか?」
「ふむ……。」
「こちらの窓口は、私が担当しよう。
そうすれば貴殿と立ち合う約束も果たせる。」
「なるほど……。」
俺が見たいのは、森で暮らすエルフの生活ぶりとか、鉱山を掘って鍛冶をするドワーフの仕事ぶりとか、狩猟する獣人の戦いぶりとか、そういうファンタジーな光景なのだ。それを見てみたいという欲求は、観光よりも留学に近い。ならば、その入り口が街で暮らす人物だったとしても、そこからたどればいいか。
そして、禁欲的な生活はしたくない。だが、これほどの美女と関われるのなら、風俗よりも価値があるだろう。しかも公爵の娘。人脈としては望むべくもない。それが邪魔になるなら振り払うのは苦労しそうだが、支援を約束してくれるのなら、このパイプを太くしておく価値は大きい。
「分かりました。では、お世話になります。」
結局なぜやらせたいのかは説明されなかったが、こっちの目的が達成できるならそれでいい。
読者様は読んで下さるだけで素晴らしい!( ・`д・´)キリッ
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