介護士は警備隊長に出会う
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読者様には申し訳ない事ですが、不定期更新になる予定です。
覆面に黒装束。見た目は暗殺者だが、ちっとも気配を消そうとしていない男がいた。
場所は森の中。2つの街の中間地点で、街道から垂直に「街道の長さの半分だけ」離れている。つまり二等辺三角形の位置を取っているわけだ。
男が呪文を唱えると、空中に黒いなにかが現れ、そこから謎の物体がゆっくりと姿を現した。
謎の物体が完全に姿を現すと、男はさらに別の呪文を唱える。すると今度は、謎の物体が地面の中へと姿を消していく。まるで水の中に沈むように、地面の土は掘り返したり押しのけたりされる様子がない。
「……さて、次は……。」
男がどこか別の場所へ意識を向ける。
それと同時に、その姿はフッと消えていた。
「連絡が途絶えた?」
「蛇」の本部。男が報告を受けていた。
立派な鎧。上等な生地を使っているらしいマント。今は兜を脱いでおり、その顔立ちはどこかの貴族を思わせる整ったものだ。
「はい。襲撃された可能性を考えましたが、逃げ延びた者が他の拠点へ合流すれば、どこかから異常事態の報告が来るはず……しかし、周辺の拠点からは、異常事態の報告はありません。」
「1人残らず殲滅されたか……?」
「それならば、相応の兵力が必要なはず。それだけの兵力を動かせば、周辺拠点から何か報告があってもよいのでは、と思いますが……。」
「……いずれにせよ、調査してみるしかあるまい。」
「では……。」
「1個分隊を派遣せよ。」
「はっ。」
1個分隊は5人。それなりの格好をさせれば冒険者パーティーを装って普通に移動できる。
報告していた部下が立ち去ると、入れ替わるように魔方陣が輝き、そこから暗殺者風の男が現れた。
「設置完了だ。
1ヶ月もすれば、あの地域でも冒険者の動きが活発化するだろう。」
「そうか。武器装備の調達と人員の確保……これでまた少し前進だな。
ところで、制圧していた村からの連絡が途絶えた。洗脳の魔道具には異常ないか?」
「調べてみよう。
だが、もし洗脳が解けたのだとしても、それが魔道具のせいだとは限らない。捕まって拷問されたり、瀕死の重傷を受けたりすれば、正気に戻る奴も多いだろう。それに、魔道具を調べても洗脳が解けた者が居るかどうかの判別はつかない。あくまで魔道具に異常がないかを調べるだけだ。」
「分かっている。」
「ならばよい。」
暗殺者風の男は、歩いて部屋を出て行った。
「……洗脳の魔道具か……。
必要なのだから仕方ないが……調達したあの男にしかメンテナンスできないというのも困りものだな。」
もしあの男が裏切っていたら……と鎧の男は、ため息を漏らす。
何かを望むなら、そのために行動するしかない。行動しなければ状況は変わらないのだ。だが、行動して状況が変わるとき、それが「望ましい変化」とは限らない。部下が賛同し、謎の男が協力を申し出て、仲間が増えてきた。だが村からの連絡は途絶え、洗脳の魔道具はメンテナンスできない。
洗脳の魔道具によって洗脳された者は、「蛇」に賛同して仲間になる。だがもしあの男が裏切っていたら、「蛇」の仲間になるふりをするだけで、本当は別の思想に染まっているのかもしれない。元からの仲間だった者よりも、後から洗脳して仲間にした者のほうが多くなった今、「蛇」の実際の支配者があの男になっているという事だ。
薄氷を踏むような、あるいは綱渡りをするような、厳しい状況だ。だが朗報もある。例の装置をまた1つ設置したという。じわじわと魔物を引き寄せる装置だ。魔物を増やして人里の外が危険になるようにすれば、冒険者が物資を運ぶ必要が増える。それを襲っている「蛇」にとっては、武器装備や人員の調達がしやすくなる。
「……なるほど。
状況は理解した。貴殿の活躍に感謝する。」
警備隊に村人救出と「蛇」のことを報告した俺。
隊員では手に余る報告だというので、警備隊長に直接報告する事になったのだが、ここで1つ驚いた。
警備隊長が女だったのだ。それも凄い美女だ。兵役をやっている間、俺は女は1人も見なかったのに。警備隊はなんて素晴らしい職場……おっとっと。今はそんな事を考えている時ではない。
「私が女なのが不思議か?」
「え?」
「そういう顔だ。
兵役をやってきた者は、みんなそういう顔をするからな。」
「あ……その……。」
「たしかに徴兵されるのは男ばかりだ。体力がある、生理がない、恥じらいが少ない、兵士としては女より扱いやすい点が多いからな。
だが、冒険者には女もいる。もし性別によるデメリットがそこまで大きいものなら、冒険者だって男ばかりになるはずだ。だが冒険者は、男女比に大きな偏りがない。つまり、女でも活躍できるという事だ。
であれば、兵士だって女を使わないというのは、単純に『使える人材を半分しか使っていない』という事になる。だから私は、まず実験的に女だけの部隊を作ってみようと思うのだ。」
「なるほど……警備隊はそのための準備として、経験を積んでいると。」
「その通りだ。」
しかし、女が「そういうわけで兵士にしてくれ」と言っても通らない。男しか募集してないから、と断られるだろう。
それなのに警備隊長をやっている女。……何者だろうか?
「ともかく『蛇』のことは了解した。
それで、逃げてきた村人のことだが、ここで少し待っていてほしい。父上に相談してくる。」
「父上?」
「領主のゴーファ公爵だ。」
「んんっ……!?」
公爵の娘?
驚いたが、なるほど、納得した。それなら女でも公爵の一声で警備隊長にだってなれるだろう。部下から嘗められないためには、相応の実力を備えている必要があるが……彼女の仕草を見る限り、それは心配ないようだ。俺が全力で斬り込んでも、それなりの反応ができそうだ。
「試してみるか?」
突然立ち止まり、彼女は振り向いてそう言った。
獰猛な、しかし見ほれるような笑顔だ。いつでも掛かってこいと言わんばかりである。彼女を中心とした直径3mほどのボーリングの玉……いや、鋼鉄の玉か。彼女から感じる気配に、そんなイメージが見える。これが彼女の攻撃範囲だ。それより近づけば斬り捨てられるような強い気配がある。しかも、鋼鉄の玉では動かすこともできない。この重量感は、攻撃の重さであると同時に、フェイントなどに引っかからない防御の堅固さでもある。
思わず笑みが浮かぶ。これほどの実力者が相手なら、いい訓練ができそうだ。剣術では歯が立たない。居合でやるしかないだろう。これだけの重量感だと、介護技術でどうこうするのも難しい。初めてだ。こっちの世界に来てから、居合の訓練相手になりそうな人物は。
「いずれお手合わせ願えますか?」
「いいとも。いや、願ってもない。君もかなり強いのだろう?」
「まあ、それなりに鍛えています。」
そうとしか答えようがない。
まだGランクだし、他に肩書きもない。
「楽しみにしている。いつでも来てくれ。
私はアーネス。アーネス・ゴーファだ。」
「ジャイロです。平民なので苗字はありません。」
1つうなずき、燃えるような赤毛をなびかせて、彼女は立ち去った。
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