介護士はもしもの場合を考える
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読者様には申し訳ない事ですが、不定期更新になる予定です。
村を目指して移動中、俺はアルテナに覆面をさせた。
物事に取りかかるときには、最悪のケースから考えていく。今回で言うと、最悪のケースは、俺たちが全滅することだ。情報はどこにも伝わらず、何の成果も出せずに、敵の警戒レベルだけを引き上げてしまい、後から来る警備隊の足を引っ張る事になる。
その次の「2番目に悪いケース」は、命からがら逃げ出すような結果になる事だ。死なないだけマシで、情報は伝えられるが、成果を出せずに敵の警戒レベルを引き上げてしまう事になる。とりわけ村人が無駄に殺されるのは避けなくてはならない。
「中でも最悪なのは、こちらの狙いが村人の救出だと知られてしまう事だ。
そうすると人質に取られる。
アルテナさんの知り合いが生き残っていて、知人だと分かるような反応をされたら、もうアウト。だからアルテナさんは、正体を知られてはいけません。」
「じゃあ、どうするんすか、兄貴?」
「村を占拠している武装集団の排除。そういう依頼を受けた冒険者として振る舞う。
人質については依頼の対象外だから、殺されても何の問題もない。そういう設定にする。」
「そんな! 村人が殺されないように、助けに行こうというのに、何ですか、それは!?」
アルテナが食ってかかる。さもありなん。彼女の心情を考えれば。
だが、だからこそ、目的に向かう正しい方法は、1度その目的を捨てたように振る舞う事なのだ。
「人質に取る。その行動に価値があると思われてはいけないんだ。
人質にとっても無意味だと分かれば、相手は村人を人質に取らない。単に邪魔になるだけだから。」
人質が有効だと知られれば、見せしめに大勢殺される。まず1人殺して「逃げるな」。もう1人殺して「抵抗するな」。3人目を殺して「仲間になれ」とか「他の冒険者を殺してこい」とか。奴らに荷担する行動を強いられ、その事に何の抵抗も感じなくなるまで、わずかに抵抗のそぶりを見せただけで1人ずつ殺されていく。
だがもし人質が無効だと分かれば、もしかして有効かも知れないと試すために1人2人殺される程度で済むだろう。
「1人も殺されずに、というのは無理だ。
最小限の犠牲で、最大限の効果を出すしかない。
もちろん俺たちが敵より人数が多ければ、そして人質がいる状態での敵集団の制圧という状況をよく訓練しているのであれば、人質を取られる前に素早く制圧できるかもしれない。」
実際、前世でそれ用に訓練された特殊部隊なら、停止している乗用車やバスを3秒で制圧したり、平屋を30秒で制圧したり、それはもう凄い実力を持っている。だが、そんなのは訓練していればこそだ。
「だが俺たちは3人だ。そして人質救出の訓練などしていない。」
それに、重要なことを忘れてはいけない。
俺たちは敵を偵察するために行くのだ。発見されない前提での行動である。制圧するのは警備隊に任せる。アルテナに覆面をさせるのは、万一の場合に人質をとられて「逃げるな」と言われるのを避けるためである。
「……分かりました。」
アルテナはあんまり分かってなさそうな返事をする。
「危険だな……。」
ため息が出る。
こういうタイプは、今は分かったふりをしていても、いざその場面になったら「村人を放せ」とか叫んでしまう。それではダメなのだ。人質が有効ですと大声で宣伝するのと同じだ。
介護士は安全第一。フラグはへし折っていくスタイルだ。1つの重大な事故の背後には、30件近い軽微な事故があり、さらにその背後に300件の事故寸前の異常がある。ハインリッヒの法則だ。
ならば、と俺は思う。ヒヤリハットより前に、もっと多くの「違和感」があるはずだ。今のアルテナの反応がまさにそうだ。
気づいたなら、対策するしかない。だが、今回の場合は予防策が難しい。
人間は感情で動く生き物だ。理屈では理解できても感情では納得できないという場合がある。そしてそういう場合には、多くの人が感情に従って動いてしまう。食わなければ痩せると分かっていても食べてしまうみたいなものだ。言い聞かせても効果がないだろう。
「アルテナの暴走をどう防ぐか……。」
言い聞かせるのは効果がないだろう。なら、縛り付けてでも動きを封じるべきか? 私情を挟んでしまう奴は作戦に参加させないというルールがある組織がある。警察だったか軍隊だったか忘れたが、大事な事は「統率を失うのが最もマズイ」という事だ。仲間まで危険にさらし、作戦を崩壊させ、失敗を呼び込んでしまう。
しかし、だ。
介護士としては、こういう「我慢させる」という考え方は、それ自体が失敗の原因になる。認知症の老人にいくら「我慢しろ」と言っても聞くわけがない。アルテナも同じように、いくら言い聞かせても無駄だろう。
「逆だ……。逆に考えるんだ。
暴走してもいいさ、と考えるんだ。……いいわけねぇ……。
いや、待て……暴走してもいいんじゃない。暴走させるんだ。それこそが真の『逆』じゃないか。」
防ぐの反対は加速する。手伝って加速させるのだ。
たとえば、立てない老人が立とうとする。我慢させても立ち上がろうとするので、目を離した隙に立ち上がって転ぶ。だから逆に考える。立ち上がってもいいさと考える。むしろ手伝って立たせてやる。そして行きたい場所に行けるように支援する。そうすれば、欲求を完了して納得するか、満足に歩けないことを納得して諦める。どっちにしても「立ち上がる」「歩く」というのはリハビリになるし、便通を促す助けになるし、いい事だ。問題は「転ぶ」ことなのだ。それさえ防げばいいので、立つことが悪いのではない。
そういう介護士的な考え方でいえば、アルテナの暴走は手助けして加速させるべきだ。問題は「村人を救えずに敗北する」ことなので、極端に言えば人質にとられても村人を救って勝利すれば問題ない。手助けして加速させるというのは、まさにその方法を考え、実行することだ。
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