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 あー、この方もピンクの髪の彼女を愛称で呼ぶのですねと、キセンセシルは話の内容を余所に、妙に感心した。


「急ぎ駆け付けたところ、シーリーが階段の下で倒れていました。慌てて助け起こすと、シーリーは震えながら階段の上を指差します。誰かに突き落とされたのかと尋ねてもシーリーは震えるばかりでしたが、その怯え様から、突き落とされたのは間違いありません。自分はシーリーをひとまず落ち着かせてから、階段の上に駆け上がりました。そこに落ちていたのがこの金髪縦ロールのかつらです」


 ハーナーシが金髪縦ロールのかつらを取り出して掲げる。なるほど金髪縦ロールだ。


「間違いありません。このかつらの持ち主がシーリーを突き落とした犯人です」


 ハーナーシはそう締め括った。

 これをクースデルセが引き継ぐ。そしてキセンセシルをビシッと指差して、渾身の決めポーズを決めた。つもりらしい。


「解ったであろう。金髪縦ロール。つまりはキセンセシル・コンヤハーキ、貴様だ!」

「はぁ!?」


 これまたキセンセシル自身がどうやって声を出したか判らない素っ頓狂な声。淑女にあるまじき失態だ。まあ、これを失態と考えるのは彼女自身くらいのものかも知れないが。

 固唾を呑んで成り行きを見守っていた周囲の大半の人々の表情もキセンセシルと似たようなものらしく、クースデルセの超理論にびっくりしている。そうでない人々の多くは首を傾げている。それでも少なくない人々がクースデルセの言葉を鵜呑みにしてキセンセシルに穢らわしげな視線を投げ付ける。

 上げた声が失態だったと考えて周囲の様子を横目で覗っていたキセンセシルは、それら視線の主をできる限り記憶する努力をした。


「反論できないようだな?」

「いえ、そうではなく、お二人のあまりのおつむのお弱さに驚かされたのですわ」


 驚いたのと、周りの様子が気になったせいで、すっかり反論が疎かになっていたキセンセシルである。

 ところがクースデルセが不思議とまたドヤる。どうしてそんなにドヤるのか。ドヤりたい年頃でももう少し節制が必要だ。


「何っ! いやまてよ? 反論できぬから、そのような悪口(あっこう)を叩くのだな?」


 キセンセシルは軽く頭痛を感じた。悪口と言われればそれまでだが、全ては目の前の人物を素直に表現しただけなのだ。

 無駄だと思いつつも、一応だけ理を説く。


「まったく……、憐れになるほどおつむのお弱いこと。ほんとーに犯人が存在するなら、普通に考えれば金髪縦ロールの女性に罪を着せようとした犯人が落としたものでございましょう?」

「余も侮られたものだ。貴様が今申したことなど百も承知。そして貴様がその裏をかいて、敢えてかつらを残したこともお見通しよ」


 とんだフシアナ・アイだ。いや、見えてはいけないものが見えるのだからマボロシ・アイか何かか。

 ともあれ、「犯人が裏をかいたのを見抜いた余、かっこいい」と言いたい訳だ。勘違いが酷くてとても格好悪いのだが。


「おやまあ、奇妙なところに知恵が回りますこと」

「恐れ入ったか」


 揶揄も判らず、「知恵が回る」と言われて喜んだらしい。

 キセンセシルは噴き出すのを堪えるのに苦労した。それでも表向きには澄まし顔のままだ。ただ、口の端がピクピク動いているから、誰かに見抜かれてしまうかも知れない。そうなったら残念だ。

 しかしそんな可能性を気にしても始まらない。笑みを堪えたツンと顎を突き上げる。


「いえ、まったく」

「なに?」


 クースデルセはあり得ないものを見たかのように、目も口も開けて固まった。自らの考察が一蹴されるとは考えもしなかったらしい。

 キセンセシルは些かばかり、同情を禁じ得ない。このおつむの弱さで国の将来を背負うなんてできるのかと。

 しかしここで「はい、そうですね」などと言ってやる義理も無い。


「その程度の考察など、わたくしにもできましてよ?」


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