おっさんは悪徳令嬢に恋される –恋愛に歳の差は関係あるって-
勤めていた会社をクビになって矢先の事だった。
「浮かない顔をしていますけど、大丈夫ですか?」
行きずりの、自分より一回りくらい若い女性にこんな事を言われたのだ。
「いえ、再就職の事で悩んでいるだけですので、気にしないでください」
「えっ!? 実は私の父の会社が働いてくれる人を探しているんです。これも何かの縁ですし、よかったらこれから行きませんか?」
突然の誘いで驚いたが、天の助けと思って誘いに乗ってしまった。
まさか、あんな事になるなんて。
「失礼します」
ノックをして社長室に入ると、そこには初老より老けた50代後半から60歳くらいの男性がいた。
「成程、君が娘の選んだ男というわけか。まあ、掛けたまえ」
「はっ、はい」
「いや、突然の事で君も驚いただろう。結婚したい男をうちの会社に引き抜くなんて」
「はっ、はい?」
訳が分からなかった。
「何だ、娘から聞いていないのか? 私の娘が裏で手を回して君を引き抜いたんだ。自分の将来の夫に相応しい地位を与えるためにな」
「ご、ご冗談を!? 私は前の勤め先をクビになって困っていたところ、親切なお嬢さんに就職先を紹介されただけで」
「私の娘がそんなお人好しであるものか。君を騙してここまで連れて来たのだよ。自分の婿にするためにな。全く困ったものだ」
さっきから夫とか婿とか冗談じゃない。
「だがまあ、私は結婚には反対だ。何処の馬の骨とも分からん奴に娘は渡したくない」
「その点は安心してください、私はあんなに歳の離れた女性とは結婚する気になれないので」
「なんだと!? 貴様、歳の離れた妻と結婚した私を愚弄する気か!?」
地雷を踏んでしまったのか、いきなりキレられた。
だが、これはチャンスだ。嫌われればこんな面倒な話、無かった事になる。
「そう思われるならそれで結構です。私が去れば済む話ですし」
「いいや、帰さないね。貴様には歳の差婚の素晴らしさを叩きこんでやる。そして、そのためにも我社で働いてもらう。どの道、他に行くところもないだろう?」
社長室を出ると、そこには先ほどの女性が待っていた。
「あはは、こんなに上手く行くとは思わなかった」
「上手く行ったって、まさか……本当に……?」
「ええ、そうよ。貴方と結婚するために全部私が仕組んだの。もうこれで、貴方は逃げられない」